第四十話:お先真っ暗状態
「アルシャイン国第四十六代国王セドリック・ジョージ・アルシャイン陛下、王妃ローズ・バネッサ・アルシャイン陛下、ご入場です」
国王陛下夫妻が入場し、これで舞踏会がスタートする。そう思ったが……。
「さらに本日は国賓として、トレリオン王国第二十一代新国王に即位されたばかりの、アラン・ヴァン・フリード殿下をお迎えしています」
侍従長の言葉には「!!!!!」と驚くことになる。
アラン・ヴァン・フリード。
父親似のアランは、第二王子であるロスとは髪色が異なる。ダークブラウンの髪に、ロスより明るいグリーンの瞳。身長もかなり高く、細身のロスに対し、体格がいい。上級魔法の使い手であることから、国王の期待を一身に受け、文武両道を極めて成長している。
世界のあらゆる武術を学べるという特殊な学院、それがあるノースフォーク帝国へ十五歳で単身留学。卒業後は見識を深めるため、シヴェア公国へ遊学し、次の遊学先にはここアルシャイン国を考えていたはずだ。
だがきっと、悪女追放の件があり、アルシャイン国は王太子だったアランの入国を拒んだと思う。よってアランがアルシャイン国へ遊学することはなかった。それどころか急遽即位し、国王となり、アルシャイン国を訪れることになるなんて……。
「アラン国王陛下、よくいらしてくださった。初の公式訪問国として、我が国を選んでくれたこと、とても光栄に思う」
国王陛下が満足そうにしているが、間違いなく、アランが選んだわけではない。
今、トレリオン王国はアルシャイン国に頭が上がらない状況。「初の公式訪問国は、当然我が国であろう?」と言われたら、間違いなく「ええ、その通りです」だったと思うのだ。初の公式訪問国に、新国王であるアランが選んだ国。それは国内外に、トレリオン王国がどの国を重視しているのかを示すことになる。
これまでは、友好関係を深めるため、御礼に対する返礼で――という形でトレリオン王国がアルシャイン国を優遇してきた。だがこうやって今日、即位後初の公式訪問国として、この場に立ったのだ。これで名実ともに、トレリオン王国はアルシャイン国を最重要視していますと、示すことになった。
「セドリック国王陛下、この度は舞踏会へご招待いただき、ありがとうございます。わたしの初の公式訪問国として、貴国を訪れることができ、大変光栄です」
そこで黒のテールコートを着たアランは言葉を切ったが、再び口を開く。
「わたしの初の公式訪問国として、トレリオン王国を訪問した理由は他でもない。皆様に謝罪するためです」
これにはホールを埋め尽くす貴族達が「何かしら?」「謝罪?」「何のことだ?」とざわめく。そのざわめきの中、アランが一際大きな声をあげる。
「我が国で悪女として認定し、国外追放にしたフェリス・ラナ・アイゼンバーグ公爵令嬢は、アルシャイン国に入国しています」
貴族達は「そういえば悪女!」「そうだ、悪女はどうなったのかと思っていたら!」「やはり我が国に入国していたのか!」とざわめきがとても大きくなる。
一方の私は冷水を浴びせられた気分になる。
悪女の汚名を返上どころではない。
悪女がこの国にいると明示されたのだ。
まさにお先真っ暗状態だったが……。
「今回、わたしがお詫びしたいのは、悪女が入国してしまった件ではありません」
アランがざわめきに負けないような、大音量の声を発した。まるで戦場で指示を出すためにあげたような大声に、ざわめいていた貴族達は黙るしかない。
「間違っていました。先代国王とわたしの愚弟が誤った判断をしていたのです。本当に申し訳ない」
そこでアランが腰を折るようにして頭を下げた。
一国の王が、他国の貴族と王族の前で、こんな風に頭を下げるなんて。異例中の異例のこと。貴族達は驚きすぎて言葉が出ない。ゆっくり頭をあげたアランは、さらに力強い声で告げる。
「フェリス・ラナ・アイゼンバーグ公爵令嬢は、悪女などではない。彼女は聡明な才媛であり、トレリオン王国にとって至高の存在だった。我が弟は、彼女の才能に嫉妬し、彼女を貶めようとした。男爵令嬢を巻き込み、アイゼンバーグ公爵令嬢に言われのない罪を問い、断罪し国外追放にしてしまった。繰り返しになるが、アイゼンバーグ公爵令嬢は悪女などではない。悪事を働いたのは、我が弟である第二王子のロス。そしてロスにまんまと乗せられてしまった、先代国王」
これを聞かされた貴族達は、驚いて何も言えない。
一方の国王陛下夫妻、そしてクラウス、さらにゼノビアは落ち着いた様子で話を聞いている。
つまり彼らはアランがこの話をすると、あらかじめ知っていたのだろう。
「トレリオン王国の国王として、この場を借り、公式見解として声明を発表させていただく。これから言うことは、貴国の新聞などで報じていいただいて構わない」
アランの視線の先には、スーツ姿の男性が数名いる。どうやら新聞記者が、いつの間にか会場に入っていたようだ。これは国王陛下が許可をして、入場させたのだろう。
「まずフェリス・ラナ・アイゼンバーグ公爵令嬢は悪女などではない。彼女の名誉を汚したことを、先代国王と第二王子に代わり、心から詫びる。本当に申し訳なかった。国外追放を解き、賠償金を支払い、名誉回復勲章を贈ると約束する。さらに先代国王と第二王子からも賠償金を支払わせよう。そして先代国王は既に退位している。よって第二王子は王家から追放し、男爵位を与え、北部の地へ封ずることにした」
そこで言葉を切ったアランが、ホールを見渡す。
アランは明るいグリーンの瞳をしているが、ロスと違い、目力がある。そしてその瞳が捉えたのは――私!
この場でゼノビアとクラウスを除き、私を知っているのはアランだけ。見つかってしまった!と、背中に汗が噴き出た。
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