第三十九話:舞踏会
クラウスにエスコートされ、舞踏会の会場へ足を踏み入れた。
まず目に着くのは巨大なシャンデリア!
これまで見たシャンデリアで最大規模だと思う。しかもその巨大なシャンデリアが、三基も天井から吊るされているのだ。
それだけでもう圧倒される。
さらにシャンデリアを見た流れで天井を見ると、そこには青空が広がり、沢山の鳥や蝶が描かれていた。そしてそのまま壁を見ると、黄金の鳥やライオン、剣や盾などの彫刻が飾られている。
金メッキではなく、金塊がちゃんと使われていると思うと、いったいおいくら!?と驚くばかり。
そしてホール内を埋め尽くすのは、着飾った貴族の令嬢令息・紳士淑女の皆様だ。
「フェリス、大丈夫? 緊張していない?」
久々の舞踏会だから緊張する――それはなかった。
「大丈夫ですよ、クラウスさん」
緊張よりも、どちらかというと……。
「まあ、あのご令嬢は……どなたなのかしら?」
「エスコートしている令息も含め、一体誰なの?」
「新顔だな。どこか異国から来た貴族か?」
この世界の社交界の恐ろしいところ。
それは、思っていることをその場で言わず、裏でいろいろとささやくこと! だがこれは前世でもそうだった。
真に怖いのはこれ!
本人に聞こえる声で悪口を言っているが、面と向かって本人に言っていなければ、それは本人に言っていないという認識に暗黙の了解でなるところ。
扇子で口元を隠せば、声が聞こえないとでも思っているのかしら? 読唇術を会得していれば、口元を隠されたら、何を言っているか理解できない。だがそうではないのだ。
ばっちりささやいていることは聞こえているが、聞こえていないふりをしなければならないなんて……。
しかしこの本人に聞こえているが、聞こえていない前提の会話のせいで、分かったことが二つある。
まずクラウスは社交を一切やっていないようだ。よって今、この会場に現れたクラウスと私は、他国から来た貴族と見なされていた。
公爵家の一員であれば、社交は欠かせないはずだが、クラウスには事情がある。彼は特級魔法の使い手であることから、あまり表に出ないようにしているのだ。
ゆえにこれまで社交はほぼすることなく、ゼノビアの護衛についていたのだろう。
そしてもう一つ。
悪女と言われ、新聞にも散々載った私だったが……。今、この場で私がその悪女であると気付いている様子はない。
とはいえ、新聞で悪女が話題になったのは数カ月前になる。そしてパタリとその情報は新聞に出なくなったのだ。
似顔絵なども掲載されていたが、それが似ているかというと……。本人を見ずに描いているのだから、似ているわけがない!
とまあそんなことを把握したところで「まあ、フェリスさん」と声を掛けられる。
間違いなく、その妖艶な声はゼノビア!
振り返ると大変セクシーなイブニングドレス姿のゼノビアがいる!
オフショルダーで、デコルテどころか豊かな谷間がバッチリ見え、男性ならポロリを期待したくなる黒のドレス。それはイブニングドレスなだけあり、見事な光沢を放っている。すべすべしていそうなそのシルク生地は、ゼノビアの凹凸を見事になぞり、その膨らみ、くびれをバッチリ表現していた。
さらに舞踏会という華やかな場に合わせ、あちこちに銀糸による見事な刺繍があしらわれ、スカートにはビジューを散りばめたチュールも重ねられている。それに胸元を飾るゴージャスなルビーの宝石。イヤリングもそれにあわせた大粒のルビー。髪はサイドポニーテールでこちらもルビーの髪飾りで、とても煌びやか。
私はゼノビアに目がハートだが、ゼノビアはゼノビアで私のドレスを見てこんな風に言ってくれる。
「なんて素敵なドレスかしら。まるで今晩の星空をまとっているようだわ。それにネックレスとイヤリングにそのラリエット。とってもゴージャスよ。まるで星の国から現れたお姫様ね!」
ゼノビアが私を褒めるのを聞き、周囲のささやき声が変わる。
「ゼノビア伯爵のお知り合いなの?」
「ゼノビア伯爵が令嬢のドレスを褒めるなんて……初めてのことでは!?」
「ゼノビア伯爵の知り合いなら、挨拶をした方がいいのでは……?」
社交界だけは、国が変わっても同じ。長い物には巻かれろで、ゼノビアのような有名人の知り合いには、媚びておこうということだ。
周囲の貴族がこちらへ擦り寄ろうとした時。
ラッパの音が聞こえた。
これまでバックミュージックのように流れていた音楽がピタリと止まる。
これはホストが来場する合図。すなわち国王陛下夫妻が会場入りするということだ。
ざわめきが収まると、キィッと扉が開く音が聞こえる。決して大きい音ではないが、シンとしているので、その音は目立つ。
「アルシャイン国第四十六代国王セドリック・ジョージ・アルシャイン陛下、王妃ローズ・バネッサ・アルシャイン陛下、ご入場です」
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