第三十七話:美味しくて楽しくて笑いっぱなし
温室でのディナーは、美味しくて、楽しくて、ずっと笑いぱっなしだった。
前菜は旬のキノコのマリネ。添えられているパンに乗せて食べたが、バルサミコ酢とブラックペッパーが効いて、これは最初から絶品! 歯応えもたまらない。
このキノコを食べながら、ピアはあの待機部屋でルナがあちこちに隠れるので、探すので大変だったと言う。しかもバスルームにあるビデを気に入ってしまい、ピアはそれが何であるか分からず、エルが慌ててルナを抱き上げたと聞き、これには爆笑。
ちなみにルナは用意された食事に夢中だが、頻繁に自分の名前が登場するので、食べながらも耳をぴくぴくさせている。
そして私は前世でフランスのモン・サン・ミシェルの宿に泊まった時、人生初でビデを見たことを思い出す。あの時は本当に「これは何!? 赤ん坊用のお風呂!?」なんて用途が分からず困惑した。それを思い出すと、さらに笑いが止まらない。
そんな談笑中に登場したスープは、ガボチャのポタージュ! 旬のカボチャはとても甘く、なめらかで、これもまた間違いなく美味しいの太鼓判を押したくなる。
このスープを楽しんでいると、今度はエルがこんなことを話し出す。
「幼い頃、妹と隠れん坊をしたんです。自分が探す番になり、クローゼットやカーテンの裏など、探し歩きました。でも見つけられず、妹は妹で、隠れた場所で寝てしまい……。それがビデの中でした! 体を丸め、ルナのように収まっていて、見つけた乳母が仰天でしたよ」
ビデの話は終わったと思いきや、まだ続いていると笑うことになる。
そこで出されたのは、メインの一つ目。魚料理はなんと秋鮭のパイ! その場で給仕の男性がパイを切り分けてくれると、湯気と食欲をそそるバターの香りが漂う。
思わずごくりと唾を飲み、早速焼き立ての秋鮭のパイを頬張ると……!
「美味しい!」とピアが椅子から飛び上がりそうになる。でもその気持ちはよく分かった。だってバターたっぷりの秋鮭がたっぷりのパイで、程よい塩味で本当に最高の味わいなのだ!
このパイを食べながら、クラウスは子供の頃、父親と釣りに行った時の思い出を話す。
「初めての釣りだった。だから最初に魚がかかった時は……。少しパニックだった」
まずは前置きをしてクラウスは話を続ける。
「丁度釣りを始めて三十分経っていて、父上は既に何匹か釣り上げていた。同行している調理人は、簡易の竃を組み立て、調理の準備を進めていたんだ。それで父上が釣った魚をソテーしようとしていたら……。釣竿を思いっきり引き上げたら、針が外れて、魚はそのまま放物線を描いて飛んでいき……まさにソテーするためにバターを溶かしたフライパンに、落下したんだよ」
「何それ! クラウスさんが釣った魚は、自分からソテーされに行ったの!?」
ピアがその様子を想像して笑い出す。
「調理人からは、手間を省いていただき、ありがとうございますと言われたけど、みんな大爆笑だった」
これにはエルと私もついその場面を想像して笑ってしまう。
笑い声が絶えない中、登場したのは、鹿肉のロースト赤ワインとベリーのソース!
秋鮭のパイは、白ワインと楽しみたい一品だった。その次の肉料理は濃い赤身の肉を使ったもので、まさにフルボディの赤ワインと一緒に楽しみたくなるもの。まだお酒を飲めないのが残念だが、その分、お肉の味をしっかり楽しめる!
ということでその味わいは……。
焼き目がついているカリッとした外側に対し、内側はしっとりした旨味が凝縮されており、とても柔らかい。そこに赤ワインのベリーソースが合わさると、ほんのり甘酸っぱく、後味が重くなり過ぎない。
これは用意された分をペロリと平らげることができた。
鹿肉のローストに満足した私は、父親の鹿にまつわる話を思い出す。
「両親と秋の狩猟に行き、その日はそのまま別荘に泊まったわ。一緒に狩りをした伯爵家や子爵家の夫妻もいて、鹿肉のディナーの後は、ちょっとした舞踏会で、大人はみんなダンスを始めたの。でも酔っていたお父様はうっかり、母親のドレスを踏んでしまって……」
母親のドレスは仕立てが良かったようで、破れることはない。代わりに……。
「ドレスは光沢のあるシルクで滑りやすかったようで、お父様は何とか転倒を避けようとして、変なステップを踏むことになったの。それが何だが狩りで追われた鹿が右往左往しているみたいなステップで、みんな笑い出してしまって。それを見たらお父様の緊張も緩んで、盛大にすってんころりんだったわ」
これを聞いたピアは、その様子を想像したようで、実に楽しそうに笑い出す。ピアの笑顔を見ると、クラウスもエルも私も、自然と笑顔になる。
そこでしみじみ思う。
前世で出産経験があったわけではない。でも子供が欲しいなぁと。
ピアみたいな妹が欲しい──から、ピアみたいな子供が欲しいと思うなんて! まだ結婚すらしていないのに!
そこで偶然にもクラウスと目が合ってしまい、これには耳まで赤くなってしまう。
私、何を考えているのかしら!? ピアの子供の父親は、クラウスみたいな優しい人がいい、だなんて!
そんな想像している場合ではない。
……想像している場合ではないの、本当に? してもいい気がする……! だってクラウスは私のことを好きだと言ってくれているのだから!
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次話は12時頃公開予定です~