第三十六話:これにはもうビックリ!
「うわあああああ! すごいフェリスお姉さん、お姫様みたい!」
「ピアもどうしたの、そのドレス!?」
ビックリする私にエルが教えてくれる。
「クラウスさんからの贈り物と聞いています。この後、正装でのディナーになるので、こちらを着るようにということで届けられました。クラウスさん、ありがとうございます。しかも自分にまで……」
ピアはフリル満点のピンク色のドレス、エルは濃紺のテールコートに着替え、温室に登場した。
◇
温室に用意されたディナーの席。
そこはこの日のために、綺麗に飾られていた。
大きなカボチャ、ススキ、紅葉した葉っぱやかかし。なんだか温室の一画がハロウィンのようになっている。
そこに用意されたテーブルにも、ミニカボチャやどんぐり、まつぼっくりが飾られ、ピアが見たら大喜びしそうだった。さらに床にバスマットサイズぐらいの素敵な絨毯が敷かれていると思ったら、そこにルナの餌を乗せたお皿を出してくれているというのだ!
宮殿の温室を使い、しかもこんな装飾もできるなんて。やはりクラウスはアルシャイン国の公爵家の一員で間違いないだろう。
一旦、着席し、エルとピアを待つ間。
クラウスはとんでもない打ち明け話をした。
どう考えても私が着ているドレスの生地と一緒と思われる裏地でできたマントを着ているクラウス。その生地はどうしたのかと尋ねたら、クラウスは「フェリスのドレスを仕立てる時に、一緒に仕立てさせた」と言うのだ! これはどういうことなのかと思ったら……。
「フェリスのことを舞踏会へ誘ったけど、旅をしているだろう? 当然、フェリスはドレスを持っていないと思った。いや、ローストヴィルにいた時は持っていた。トランクの中にはイブニングドレスも入っていたんだ。しかしフェリスはエルを優先し、トランクを放棄した。だからドレスを持っていないことはすぐに分かった。ドレスだけではなく、宝飾品もパンプスも」
それはクラウスの言う通り。
トレリオン王国を出国した時は、どこかに屋敷を買い、そこで三年程潜伏する計画だった。よってもしもに備え、イブニングドレスも一着、トランクには入れていたのだ。
「もし僕が舞踏会で必要になるものは、全て買うと言えば、フェリスは絶対に遠慮する。それが分かったから、トランクに残されたドレスのサイズで、新たにイブニングドレスをオーダーメイドすることにしたんだ。あのお店でね」
「え、あのお店のドレス、オーダーメイドをしたのは、クラウスさんだったのですか!?」
「うん。そうなんだ。生地を取り寄せたり、レースを新たに仕入れると、当然だが時間もかかる。でも料金を上乗せすることで、早く仕上げてもらうことができた。元々既製品を扱うお店で、オーダーメイドの注文が多いわけではない。それもあり、手の空いている針子さんを総動員して、作ってもらえた。首都のお店では無理な話で、東部の町だから出来たことだと思う」
これにはもうビックリ!
確かに首都には貴族も多く、オーダーメイドのお店はいつも忙しいはずだ。クラウスの発想力と行動力にピッタリなお店が、東部のあそこだったというわけだ!
「それでね、その際、ゼノビアからフェリスのサイズはとても特殊だと聞いた。特殊というか、スタイルが良すぎて、そんなサイズの令嬢は滅多にいないと言われたんだ。そこであのお店へ向かうと決めた一週間前に、お金は全額払っているが、キャンセルにして、サイズがピッタリ合う女性が現れたら、その人に無料でプレゼントして欲しいと頼んだんだよ」
つまりは私がすんなりドレスを受け取るよう、クラウスは密かに計画を遂行していたということ。そしてあのお店の店員さんは何も知らず、まんまと私同様、クラウスの手の平で転がされていたわけだ。
「そんな手の込んだことをしなくても……」
「僕としては、そこまで面倒なことをしている気持ちはなかったよ。まずフェリスに似合うだろうなと思いドレスの生地を選ぶのは、とても楽しかった。完成したドレスを見た時は、何も知らずにこのドレスを見て、試着したフェリスが驚き、喜ぶ姿が想像できて……嬉しくなっていた。あとは僕の計画がバレないか、ハラハラドキドキはとてもスリリングだった!」
これはもう悪戯大好きな子供みたいにも思えてしまうが。
言えることはただ一つ。
クラウスは私のことを優しいと何度となく言ってくれるが、彼だって私なんかよりうんと優しくて思いやりがあると思う。
私がしつこく尋ねなければ、この件だって教えてくれることはなかったと思うのだ。「やってあげた」「してあげた」とアピールすることなく、影ながら支えることができるなんて……。本当に優しい人でなければできないことだ。
それに私のことを好きなのだから、「君のために頑張ったんだけど、喜んでもらえた?」と控えめにアピールしても、罰は当たらないと思う。オーダーメイドのドレスにダイヤモンドの宝飾品、そして靴となったらとんでもない額になるのだから。それなのに見返りを求めず、「これで彼女は舞踏会のドレスで悩まないで済む」で満足できるなんて……。
クラウスは神だと思ってしまう。
ここまででも十分神だったのに。
温室へやって来たピアとエルは、ちゃんと正装している。そして二人の衣装もまた、クラウスからの贈り物だと分かった時――。
彼への尊敬の念は、頂点へと達したと思った。だがそんなことはなかったと、この後気付くことになる。
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