第三十二話:しゃんとしてください、しゃんと!
素敵な絵を手に入れた後は、画材屋さんを見て回った。そこには色とりどりの絵の具が販売されている。
水彩絵の具、油絵具、それがずらりと店内に並んでいるだけで、もう圧巻。ピアは「このお店ごと欲しい!」なんて言って目を丸くし、輝かせていた。
「お嬢様、そろそろ時計塔広場に戻りましょうか? ここから少し離れているので、今から向かえば十五時の鐘が鳴る前に到着できるかと」
「そうね。そうしましょう」
アートストリートを出て、時計塔広場に向かい歩き出す。
本当にここは大きな街であり、まだまだ見て見たいところが沢山あった。屋台の営業はルーチンでやらないと落ち着かないと話していたが……。
もっと長期滞在して、いろいろなストリートを見たいという気持ちになっていた。
「お嬢様、待ち合わせはこの辺りですか?」
「そうね。絵で描かれていた景色は、ここから見たものだったわ。ここで待てばいいと思うわ」
そうエルに答えた時。
「待たせてしまったかな?」
声に振り返ると、ベージュの粗末な布をまとっているが、その下には煌めくようなアイスブルーの髪、きりっとした眉に透明度の高い海のような碧い瞳となれば、それはクラウス! 今はゼノビアの護衛ではなく、かつ首都にいるが、装いはいつも通りだった。
「クラウスさん、こんにちは! 今日はお昼を首都で食べるため、数時間前からこちらへ来ていました」
私がそう伝えると、ピアがさっき描いてもらった絵をクラウスに見せる。
「見て、クラウスさん! これね、絵を描いてもらったの!」「みゃーん!」
すると彼は驚いた表情になる。
「それは……その技法はマロードのものじゃないか。一体いくら使ったんだ!?」
「いくらって……パン一個ぐらいの値段で描いてくれたよ!」「みゃん!」
「!? マロードがパン一個で描いた、だと!? 信じられない。彼は今、王都の貴族の中で人気が高まっている画家だ。でもマロードの父親は、かつての戦争の英雄を祖先に持つ侯爵だ。彼はその三男坊でお金に困っているわけではない。だから自分が描きたいと思うものしか描かないんだ。まさか自分から描きたいと言い出したのか……?」
これにはピアは「そうなんだ~。でも絵描きさんから声を掛けられたんだよ!」と笑顔になる。
「マロードの祖先が英雄になれた理由。それはシャーマンのような不思議な力を持つからと言われていた。マロード自身、『強い輝きが見えるんだよ。それは何というか命の輝き。何かを成し遂げ、多くの人のためになる人間は輝いて見えるんだ、僕にはね。人物を描くなら、そんな輝きを持つ人がいい』と言っていたが、もしかすると君達四人に、その輝きを見たのかもしれない……」
「え、ピアたちがすごいってこと!? でもクラウスさんはその画家……マロードさんと仲良しなんだね! そんな秘密を教えてくれるなんて!」
これを聞いたエルは私に小声で話し掛ける。
「きっとクラウスさんもマロードという画家から声を掛けられたのですよね? 自分達と同じように『自画像はいかがですか? この場ですぐに描いて渡せますよ』と声を掛けられたのではないでしょうか。ですがクラウスさんは見ての通り、キリリとして隙がない。そんなふうに声を掛けられたら、何かあるのかと警戒するはず。そこでマロードさんはその意図を打ち明けたのではないでしょうか。クラウスさんが何かを成し遂げ、多くの人のためになる人間であり、輝きが見えると」
「そうね。その通りだと思うわ」
エルにそう答えながら、マロードの持つ不思議な力は本物だと思ってしまう。だって実際、クラウスは天候を変える特級魔法を使うことで、災害を防いでいると思うのだ。
「そっか! クラウスさんもマロードさんに描いてもらったんだね!」
「まあ、そういうことだ。……それよりもフェリス。そろそろ行こう」
「あ、はい! お願いします」
そこでクラウスが用意してくれた馬車に乗り込むことになったが……。
対面の席に、クラウスとエルが並んで座っている。それは初めて見る光景であり、なんというか大変眼福!
だってうちの護衛騎士はとってもハンサム! クラウスはいつもあの粗末なベージュの布を被り、目立たないようにしているが、大変整った顔立ちをしている。二人が並んで座っているだけで、卒倒する乙女多発案件なのだ!
そこで強い視線を感じる。エルがこちらをじっと見て「お嬢様! なんてだらしのない顔をしているのですか!? しゃんとしてください、しゃんと! 久々の舞踏会なんですよ!」と言われている気がする。
ここは「コホン」と咳払いをして、表情を整える。するとクラウスがクスクスと押し殺した声で笑っているではないですか。
私が変顔をしていたのがバレている……!
顔を真っ赤にして俯くと、「フェリスお姉さん、どうしたの?」と横に座るピアが尋ねる。ルナまで「みゃー?」と顔を向けるから……。もう誤魔化すので大変だった!
お読みいただきありがとうございます!
次話は18時頃公開予定です~























































