第二十八話:ルーチンは大切
舞踏会が開催されるのは、首都アール。そして私達は南部寄りの東部の町にいた。そこで今回、少しでも首都に近づこうと、一週間かけ、移動した。
なぜ首都へ近づくのか。
理由は二つ。
一つは私が転移魔法を使う際の、魔力消費を抑えるためだ。
距離と転移する人数で、消費する魔力が変わる。ピアは子供とはいえ、最近は身長も伸び、以前のように八歳ぐらいに見える……ということはなくなってきた。十二歳という実年齢に近づきつつある。
そうなるとエルとピア、そして自分自身とルナを連れ転移魔法を使うことになるのだ。
首都に転移できればそれで終わりではない。
そこからがスタートだった。
「少しでもお嬢様が疲れないよう、魔法で転移する距離を縮めた方がいいと思います。一週間あるんです。首都寄りの東部の町へ行きましょう」
そうエルが提案してくれたのだ。
さらに二つ目の理由。
それは……。
これまで首都を避けていたが、本当に悪女の汚名を返上できるなら。
首都での屋台営業だって夢ではない!
地方とは違い、流行やグルメに関心を持つ人が多い首都で営業してみて、ラーメンは、つけ麵は受け入れられるのか。ぜひ試してみたいと思っていたのだ。
というわけで一週間、屋台の営業をしながら移動し、首都アールまであと宿場町三つのところまで移動できた。これはかなり首都に近づくことが出来たと思う。
そして今日の屋台の営業を終えたが……。
「何というか、屋台の営業をすることが、この一週間、ルーチンになっていたのね。屋台をやらないとなんだか落ち着かないわ……。明日は朝、つけ麺販売をやってみようかしら? 試作品第一号を作った時は、朝にみんなに食べてもらったわ。でもみんな普通に食べてくれた。町の住人も多いけれど、旅人も多いし、朝からビールを飲むなんていう人もいるわけでしょう。朝からつけ麺でも、男性なんかは喜ぶんじゃないかしら?」
そう。前世でも“朝ラー”は、ブームにもなった。
提供するのは濃厚とんこつ系ではなく、わりとあっさり目の魚介系つけ麺。朝食代わりで食べてくださいでも、受け入れられる気がするのだ。
「ルーチンは大切なことだと思います、お嬢様。騎士の訓練もルーチンが重要です。屋台の朝営業、やってみましょう!」
「私、早起きは得意だから、いいよ、フェリスお姉さん! それに明日は特別だからってかしこまると、余計緊張しそうだもんね。朝営業、やってみよう~!」
エルもピアもそう言ってくれるので、明日は朝の八時オープンを目指し、朝営業をやってみることにした。エルもピアも早朝から起きて剣術なり、ステッキ護衛術に励んでいるので、早く起きる分に問題はない。二人が練習をしている間に、私ができる準備をすすめれば、八時オープンも問題なくできるはず。
こうして今日も夕方になると仕込みを行い、夕食を食べ、休むことになった。
◇
宿場町での朝。
それはちゃんとした宿のベットで目覚めることになる。秋が深まり、朝晩の冷え込みもあるが、ピアと二人で眠る私は、冷えとは無縁。とっても暖かい! その暖かさにあやかるように、ルナが潜り込んでくることもしばし。
ポカポカで目覚めると、顔を洗い、ピアはココア色のワンピースに、私は紅葉したカエデのような色のワンピースに着替え、活動開始だ。
「じゃあ行ってくる、フェリスお姉さん!」
ピアはエルとステッキ護身術の練習だ。
「ええ。私は先に広場に移動して、準備を始めるわ」
宿の氷室で休ませていたスープ、いつものクーラーボックスなど、必要な物を荷車に乗せる。魔法を使えば重いものも、問題なく動かせた。
「みゃあ!」
ルナは私と一緒に行動。
荷車にルナを乗せ、時計塔広場に向かい、移動を開始だ。
「まあ、可愛い猫さんを連れているわね。おはようさん」
「おはようございます!」
ルナが看板猫になり、すれ違う人も気さくに挨拶をしてくれる。南部の人達も明るく陽気に声を掛けてくれたが、東部の町でこんなにフレンドリーなのはここが初めて。
首都アールに近く、生活水準もこの町はこれまで見た東部の町の中で、一番高いと思う。生活にゆとりがあることで、心にも余裕ができているように思えた。
そんなことを思いながら荷車を押し、町の中心、時計塔広場にやって来ると……。
まだ早朝だが、既に町はにぎわっている。
大きな市場はこことは別でちゃんとあるが、この広場でも野菜や果物、一部で肉や魚を売るお店も出ていた。そこで必要な物を買い、場所を確保すると、準備を進める。
ルナにはこの世界の猫じゃらしにそっくりな草を与え、それで荷馬車の中で遊んでもらっていた。
「あら、可愛い猫ちゃんね。そちらさんは何を売るの?」
「おはようございます! 私はつけ麺という東方の料理の販売をします」
「そうなのね。それは何だが珍しそうだわ。一食分、予約していいかしら? うちは朝営業を終えたら次はお昼まで一旦お店を閉めるから、食べてみたいわ!」
そう言って元気のいいお姉さんがやる右隣の屋台は、焼き栗を売るお店だった。
朝から焼き栗!?と思うが、軽く食べられる物なので、意外と同業者、すなわち屋台をやる人々が買って行くのだと言う。
「ありがとうございます! お姉さんの分、確保しておきます!」
そう返事をすると、今度は……。
「何だかいい匂いがするな。お姉ちゃん、何を売るんだい?」
「おはようございます! 東方の小麦を使ったメンという食べ物を、スープにつけながら食べるつけ麺を売ります!」
「なるほど。そのスープのいい香りと、お肉は?」
左隣の屋台は、今朝絞ったばかりのミルクを売っている。小さな一口パンも一緒に。
「トッピングです!」
「いいね! おじさんの分、残しといてくれ! 朝の営業を終えたら、食べさせてもらおう!」
「賜りました! ありがとうございます!」
朝営業している屋台の人は何だがフレンドリー。エルとピアが合流すると、焼き栗とミルクと一口パンで朝食となる。お姉さんも、おじさんも、大盛り・サービスをしてくれるので、それだけでお腹はいっぱい。
ルナもミルクのお裾分けで大喜び!
満腹になったところで、いよいよ朝つけ麺の営業スタートだった!
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
朝営業の話を朝更新できてご満悦(笑)
次話は12時頃公開予定です~