第二十七話:どっちがタイプなの?
無事、ドレスなど舞踏会に必要な物は手に入った。
そしてクラウスはエルに対しても明確にその舞踏会で、私の悪女の汚名を返上するつもりだと明かした。さらに舞踏会の日に、王都へエルとピアを連れて行くことも快諾されている。ただ、舞踏会の会場へピアとエルが足を踏み入れることはないが、これは仕方ない。舞踏会は大人の社交の場だからだ。
こうなるとピアにはすべて打ち明ける必要がある。
そこで夜眠る前、ピアと二人、ベッドで横になった時。私がアルシャイン国へ来た経緯、悪女の件などをピアに話して聞かせた。私達の枕元では、ルナが先にすやすやと眠っている。
ルナを起こさないように、なるべく静かな声で話をすることになった。
私の話を聞いたピアは……。
「何で……何でフェリスお姉さんが追い出されないといけないの! だってその男爵令嬢に意地悪していないのに! ストリート・チルドレンだった私を、フェリスお姉さんは拾ってくれたんだよ! そんなフェリスお姉さんが、男爵令嬢をいじめるなんて……絶対にするわけがないのに! その王子様はポンコツだよ!」
少し声が大きかったようで、ルナの耳がぴくぴく動く。でも起きることはない。そしてピアはギュッと私に抱きつく。
「フェリスお姉さんにとっては大変なことだったかもしれない。ただね、私にとってはとってもラッキーだったよ!」
「ピア……」
「フェリスお姉さんが国外追放になったから、私、会うことが出来たんだよ。もしフェリスお姉さんと会えなかったら……。悪いことをしていると思いつつ、空のマッチで物乞いを続けていたと思う。今みたいに、美味しくご飯、食べることはできなかったと思うよ」
ピアの言葉にその体をぎゅっと抱きしめる。
ルナの長い尻尾がふさりと揺れ、どうやらウトウトしながらも私達の会話を聞いているようだ。聞いているが理解は……できていないだろう。
「そうね。追放されても悪いことばかりじゃないわ。ピアに出会えたし、ゼノビア伯爵やクラウスさんにも出会えたのだから」
「それにフェリスお姉さんのおかげで、私、おばあちゃんにも会えたよ!」
「ええ、そうだったわ」
「それで今回、クラウスさんが、フェリスお姉さんが悪女ではないと証明してくれるんだよね! ……でもどうやるつもりなんだろう?」
そう言われると確かにそうだ。クラウスが大勢の前で「彼女は悪女ではありません!」と言ったところで、皆が無条件で信じてくれるかしら? クラウスがこのアルシャイン国で、カリスマ的な人気を誇っているなら、そうなることもあり得るかもしれないが……。
クラウスは特級魔法の使い手であることから、ゼノビアの護衛となり、ひっそり生きているように思える。それでも必要に応じ、きっとゼノビア経由で国王陛下の要請に答えていると思うのだ。時に天候を変え、災害を防ぐ。転移魔法を使い、国の要人の送り迎えをする。
そうやって活躍しても、それがクラウスのおかげであることは……みんな知らない。
陰の勇者。孤高のヒーロー。
なんていうラノベの主人公像が頭に浮かんでしまうが。
そうではない。クラウスがどうやって私が悪女ではないと証明するのか。その方法は全く見当がつかなかった。
「クラウスさんは陰ながらこの国を支えていると思うの。もしかするとそうやって行動する中で、何か方法を……見つけたのかもしれないわ。それがどんな方法かは分からないけれど……」
「そっか。でもわざわざフェリスお姉さんを首都に呼ぶぐらいだもんね。確実にお姉さんが間違っていなかった、悪女なんかじゃないって証明できる方法を見つけんだよ。だからそれは大丈夫だと思う。……でもフェリスお姉さんはすごいね! エルお兄さんからも愛されて、クラウスさんからも。ねえ、フェリスお姉さんはどっちがタイプなの」
私に抱きついていたピアが顔をあげ、とんでもないことを尋ねるのでビックリしてしまう。
「!? ピア、一体何を言っているのかしら? エルは私の護衛騎士として、忠実であろうとしてくれているだけよ。クラウスさんは……もしかしたら……そうね。もしかすると私のことを……よく思ってくれているかもしれないわ。だから私の汚名返上を……ち、違うわ。そうではないわよ、きっと。彼は正義感が強いのよ。私がしてもいない罪に問われることを良しとしなかった。正義感で動いてくれているだけだから!」
さすがに少し声が大きかったようで、ルナが薄目を開けてこちらを見た。目でルナに「ごめんね」と合図を送ると、その目を細め、また手に足をのせ、目をつむる。
「ふうーん。そうなのかなぁ。エルお兄さんは間違いなくフェリスお姉さんのこと大好きだと思うけどなぁ。それにクラウスさんもフェリスお姉さんのことを好きだからこそ、頑張っているんじゃないのかな?」
これには前世中学生ぐらいの頃、恋愛小説や恋愛漫画を読み、いろいろ盛り上がった自分を思い出し、こう伝えることになる。
「きっとピアがもしこうなったらという願望があるのではないかしら? いろいろな人に、私達は家族みたいだって言われたでしょう。家族ということは、エルがパパで、私がママよ。そしてピアが子供。でも現実は絶対にそんなことにならないわよね。ピアにはシノブさんとアントニーさんという両親がいるのだから」
「それはそうだね」
「ピアこそ、エルとはとても仲がいいじゃない。エルのこと、好きなんじゃないの?」
最後はまさに冗談のつもりで言ったのに。
ピアは「そ、そんなこと、そんなことないもん! エルお兄さんは、お兄さんなんだもん!」とかなり動揺している。私以上に大声だったので、ルナが目覚め、あくびをしている。
どうやらピアはエルのことを……。
ピアとエルの年齢差は四歳しかない。
ピアは出会った時こそ、痩せていたし、小柄だった。でも私達と旅をするようになり、めきめき成長している気がしている。
エルとピアが並んでも違和感がなくなる日は近いと思う。
もしも二人が……なんて想像して休むことになった。
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