第二十四話:どうしたらいいのかしら?
「……彼女のドレスと靴、宝飾品も一緒に選びたい……彼女の分も一式頼む」
クラウスの言葉に怯むことになった。エルもハッとした表情を浮かべている。
私と舞踏会に行くのだ。そして私が旅をしているのをクラウスは知っている。ドレスなど持っていないと分かっていたのだろう。
だから今日、自分がテールコートを買うので、一緒に買えばいいと思っている……と推測できた。
クラウスは私が公爵令嬢だと知っているし、ローストヴィルでは屋敷をポンと買っているのだ。さらにラーメンの屋台をやっているのも、私が食べたいからだと、ジョーンズ教授に扮していたクラウスには話している。日銭稼ぎでやっているとは思っていないだろう。
つまり私はそれなりのお金を持っていると、クラウスは思っているのでは!? オーダーメイドではないのだ。既製品のドレスぐらいなら買えるだろうと思われても……仕方なかった。
でも実際は悲しいかな、そんな余裕はない。
どうしたらいいのかしら?
今日、ドレスなどを買うつもりはなかった。お金の待ち合わせがない……と誤魔化すことも考えたが。この世界、宿に貴重品ボックスなんてない。大切な物は持ち歩くしかなかった。そして実際、エルが軍資金と屋台の売上げを持っている。
ゆえにお金を持っていないわけではないが……。
「こちらのテールコートは裏地にも」
ソファの前に用意されたハンガーラックには、水色と青系をグラデーションするかのように、テールコートが並べられた。同時にトルソーが運ばれ、それはとても美しいドレスを着ている。宝飾品などもあわせてセットされていた。足元にはパンプスも置かれているのだ。
そのトルソーの横で店員はテールコートを見せ、説明を始めたが、「ありがとう」とクラウスはその話をさえぎってしまう。代わりに私を見て、「このドレスはどうだ、フェリス?」と尋ねるのだ。
尋ねられ、「そうですね……」とドレスを見るふりをして、見積もりを立てる。
オーダーメイドドレスを繰り返していると、だいたいの素材の価値が分かるようになるもの。社交界では着飾る令嬢マダムを見て、値踏みするのも当たり前なので、いやでも脳内でそろばんをはじけてしまう。
「既製品なのに、全体の生地は、かなり最上級のシルク。しかもこのレース。レースの産地で有名な、シャランティエのものだわ。それにこれだけの模造宝石を散りばめている……」と心の中でささやき、産出した値段は……。
無理。買えない。
いや、買えないことはないけれど、このドレス代でルナを含めた一匹と三人の食費数ヵ月分になる。
「合わせて彼女の分も一式頼む」とクラウスは言っており、私も今日ここでドレスを買う前提になっている気がするが、やはりそれは無理な話だ。町には町娘がちょっとおしゃれをするようなドレスも売っている。買えるならそれぐらいだ。
だがしかし。私は買えないが、そのドレスと一緒に紹介されているテールコートは……。
明るいターコイズブルーで、飾りボタンなどはゴールドでとても華やか。クラウスは見た目もいいのだし、実にハンサムに着こなすことができるだろう。
「ドレスは大変素晴らしいものです。そして一緒に紹介されたテールコートはクラウスさんによく似合うと思います。ゴールドが少し派手な感じはしますが、舞踏会はそもそも華やかな場所ですから、それもありかと思いますが」
「ありがとう。それで。フェリスはこのドレスを気に入ったのか?」
ターコイズブルーのテールコートに合わせるように。白生地にターコイズブルーのレース、金糸による刺繍があしらわれているこのドレス。若干、トロピカルな雰囲気も強く、秋の舞踏会には……あまり向いていないかもしれない。秋が深まる前であれば、夏の名残を感じさせ、ピッタリだったかもしれない。
「なるほど。その表情だと少し違うようだな」
「え、えーと」
私は焦るがクラウスは気にすることなく、店員に声を掛ける。
「別のドレスとテールコートを合わせてみてほしい」
クラウスのテールコートを探すはずだったが、何だか私のドレス探しがメインになっているような気もする。
そこで店員が別の店員にも声を掛け、運んできたドレスは……。
「わぁ……」
それは夜空を切り取り、ドレスに仕立てようなデザインだった。
身頃からウエスト回りを中心に、細かいビジューが散りばめられ、それは満点の星空のよう。さらにスカートに重なるチュール。そちらも銀粉をふりかけたようになっており、とても美しい!しかも使われているのは間違いなく最高品質のシルク。
ビジューのいくつかは、もしかすると本物の宝石では!?と思う程の輝きだった。
とにかく息を呑み、目が釘付けになるものだった。
これが既製品なのかと驚いていると……。
「実はこちら、オーダーメイドでお作りしていたものなんです」
店員さんの言葉に、やっぱり!と思ってしまう。
「ですが注文された方の諸事情により、お引き取りがなくなってしまったんです。全額お支払いは済んでいるのに」
「支払いを終えているのに、引き取らないなんて……」
驚く私に店員さんも「とても勿体ないですよね」と応じる。
「しかもその方は大変スタイルがいい方だったんです。胸が大きいのに、ウエストはくびれているという夢のような体型の方。胸が大きくなると、それ以外の部分も肉づきはよくなるので、このドレスをきちんと着こなせる方がいないんですよ。よってもし試着成功できたら、プレゼントしようと思っているんです」
「なるほど。それは名案ですね」
「はい。そしてお客様は大変スタイルがいいので、お試しになってみませんか?」
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