第二十三話:問題がある。
ここは宿場町であり、普通に沢山の町民が暮らす街。クラウスが向かった紳士服のお店は……。
「お嬢様、すごいですね。これはトレリオン王国だったら王都にある規模のお店では……。地方領でこんなお店は……」
エルが絶句する理由はよく分かる。アルシャイン国の穀倉地帯として、東部は発展している。平原地帯なので、首都アールへの汽車も敷設されていた。
だからと言っても……。
それはもう屋敷みたいなゴージャスさ。
店への入口は三か所あり、それぞれにドアマンも立っている。ショーウィンドウに飾られているマネキンが着ているのは、ドレスだったり、テールコートだったり、子供服だったり! 宝飾品から、靴も含め、トータルコーディネートが出来る一大ブランドショップだった。
店内を出入りする客も、平民でもかなり裕福そうな人々に思える。
「何をしているんだ、入らないのか?」
クラウスはいつもまとっているベージュの布を外しながら、エルと私に尋ねる。ここは国外追放され、今はラーメン屋台を営業し、持ち金に自信がない私ですが。
腐っても公爵令嬢。臆することのない態度をと、胸を張り、店内へと向かう。
店内に入ると、地方都市のお店とは思えないスケールに、これまた驚いてしまった。
天上は吹き抜けでシャンデリアが煌めき、一階にも二階にもマネキンがズラリと展示され、現在の流行が一目で分かるようになっていた。しかも使われている模造宝石などもかなり良質なようだ。パッと見は本物に見えるぐらい煌めいている。使われている生地も、オーダーメイドのものと遜色ない。既製品ではあるが、既製品の中でも最高ランクのものを扱うお店だと分かった。
こうなると店員はお高くとまり、お金を持っている客にしか近寄らないかと思ったらそんなことはない。
「いらっしゃいませ。本日はどのような衣装をお探しですか?」
大変フレンドリーに声を掛けてくれるのだ。
「舞踏会で着るテールコートを見に来た」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
広々とした店内にはソファがいくつもあり、そこに着席すると、店員が客の希望の衣装を持ってきてくれるようだ。私達もソファに案内され、クラウスと私が並んで座り、エルはソファの後ろから私達を見守ることになった。
「ご希望のお色味などございますか?」
店員に問われたクラウスは私を見て尋ねる。
「俺はどんな色があうだろうか」
なるほど。私の同行を求めたのはここね。
普段、護衛をしているクラウスは、正直、オシャレとは無縁。今は手に持っている粗末なベージュの布をまとい、その下はたいがいシャツとズボン、そして秋が深まる今は、ベストを着ているが大変シンプル。
ジョーンズ教授として登場した時こそ、きちんと身だしなみに気を遣っている感じだった。中性的に見えたシャインの時は別として、エディの時も、クルスの時も。大変ラフな装いだった。クルスの時に至っては、上半身裸での登場。
舞踏会へ私を同伴するといっても、あまり社交をした経験がなく、着て行く衣装についても……屋敷にあるのはきっと黒のテールコートだけなのだろう。そして今回私をせっかく同伴するのだから、お目利きを頼みたい……という見当がついた。
ならばここは社交をみっちり叩き込まれた公爵令嬢として、素敵な一着を見つけてみせよう!
「クラウスさんの瞳は碧眼で、髪色がアイスブルー。瞳と同色、青、紺などの色味は、全体のコーディネートとしてもおススメです。さらに水色、青系統に合うのは白。白は膨張色ですが、クラウスさんは身長もあり、体が引き締まっており、筋肉量の割りに細身です。白を着てもスラリと見せることができるでしょう。どちらも王道の色の選択です」
「なるほど」とクラウスが応じ、聞いている店員さんも「うん、うん」という感じで頷いている。
「もし斬新さを出すなら、シャツの色を淡い、薄いピンクにして、テールコートを明るめのグレーなどにしてもいいと思います。ピンク自体、あまり男性が選ばないので目を引きますし、同伴する女性がピンク系のドレスであれば、並んだ時の親和性も高いと思います。ピンクと同じような色合いの淡いラベンダー色でもいいかもしれません」
これを聞いた店員さんは「素敵ですね! そのチョイスはオシャレの上級者向きです」と褒め、それを聞いてエルはニコニコ。
一方のクラウスは……。
「ありがとうフェリス。俺に合う色はよく分かった。ピンクなんて自分では絶対に選ばない色。ラベンダーも……選んだことがない。いずれであれ、俺は同伴することになるフェリスが映えるものであれば、何でもいい。基本は男女で共通の色があればいいんだな?」
「共通の色があると、ペアコーデになります。ですがそこにこだわらず、全体バランスが合致すれば、問題ないかと。例えば女性がピンクのドレス、男性が空色のテールコートでも、組み合わせとして変ではないです。ピンクの薔薇、その背景に青空。その組み合わせに違和感がないように」
色の組み合わせはさておき、違和感というより、問題がある。
それは私のドレスがまだ決まっていないということ!
というかドレスを手に入れる算段をまさにしている最中だった。もしここで「フェリスは何色のドレスを着るのか」と聞かれたら、大いに困ることになる!
「まあ、お二人でどちらかのパーティーへ出席されるんですか?」
店員が瞳を輝かせてクラウスと私を順番に見た。
「ああ、そうだ。だから衣装は俺のテールコートと共に、彼女のドレスと靴、宝飾品も一緒に選びたい。今、彼女の言った色味のテールコートを全て持ってきて欲しい。合わせて彼女の分も一式頼む」
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次話は18時頃公開予定です~