第二十二話:年頃の娘を持ったお母さん
大変甘くて美味しいスイーツをいただいた後は、みんなで片付け。
でもさすがに伯爵であるゼノビアに洗い物など任せられないので、ここはピアの読み書き計算の勉強を見てもらうことにした。そしてエルとクラウスと私で片づけをしたのだけど……。
クラウスは驚くほど手際がいい!
魔法を使っているわけではないのに、動作に無駄がなく、あれよあれよという間に片付いていく。
「よし。これで終わりだ。では約束通り。フェリス。付き合ってもらえるか?」
クラウスのこの言葉を聞いた瞬間。
エルが年頃の娘を持ったお母さんみたいになってしまう。
「お嬢様。約束、とは何のことでしょうか!? 自分は何も聞いていませんが、これからクラウスさんとどこかへ行くおつもりで? どこへ行くのでしょうか? なぜ護衛騎士である自分は何も知らないのでしょうか? お嬢様は自分のこ」
「エル、落ち着いて!」
そう言ってクラウスに尋ねる。
「クラウスさん、どこへ行くつもりなのですか? エルは私の護衛なので、同行してもいいですか?」
そう尋ねると、クラウスは口元に笑みを浮かべる。
「……護衛、か。奇遇だな。俺も確か護衛、では?」
これはエルを挑発しているのでは!?と焦ってしまうが、ゼノビアを普段護衛しているクラウスとどこかに行く。そこにさらに護衛が必要なのか? ……余程危険な場所に行かない限り、不要に思える。
「クラウスさん、あなたはゼノビア様の護衛です! お嬢様の護衛は、自分ですから!」
クラウスの透明度の高い海のような碧い瞳は、静謐さをたたえているように思えるのに!
エルと目を合わせていると、二人の視線の先で火花が散っているように思える。
護衛騎士としてエルは自身の役目を果たしたいと思っているから、クラウスがいくら有能な護衛であっても関係ないのね。
「クラウスさん。どこへ行くにしろ、エルは私の護衛騎士なんです。同行してもいいでしょうか? エルはアルシャイン国までついて来てくれた、強い忠誠心の持ち主なんです。その気持ちを汲んであげてください」
すると「随分、過保護だな」と言い、ピアの勉強を見ているゼノビアを見る。
ゼノビアはこの屋台へ来る時、いつも一人だった。
どこか離れた場所にクラウスはいるのだろうと思ったが、今の言い方だと……。
もしかすると遠くで見守っていない日もあったのかもしれない。
「まあ、いいだろう。同行したければすればいい。別に変な場所へ行くわけではないからな。ただ服を見たいんだ」
「服、ですか?」
「そう。舞踏会に着て行くような」
これには「ああ!」だった。
私がドレスなどの持ち合わせがないように。
クラウスも普段はゼノビアの護衛についているから、衣装がない……わけはないと思う。
エルと話し、クラウスは貴族だろうと結論付けた。さらにクラウスはお酒を飲んでいたのだ。それすなわち、お酒を飲める年齢ということ。
ということは既に社交界デビューをしているわけで、屋敷もあるだろうし、自分の部屋もあるはず。そしてそこに舞踏会へ着ていくような服はあるはずだ。
屋敷が舞踏会の会場と離れた場所にあるなどで服がない……いや、特級魔法の使い手なのだ、クラウスは。すぐに取りに戻れるはず。
それに女性の舞踏会の衣装など一式を整えるのに、オーダーメイドでは一か月~三カ月かかるように。
男性とて、仕立てるには同じぐらい時間がかかる。
今日、服を見に行くということは。既製品を買うということ。
そうなると……。
普段からオーダーメイドをあまり利用していないということ? ゼノビアは伯爵であり、その遠縁の……男爵家の三男か四男、ということかしら?
長男&次男にお金をかけても三男以降は……心情的にはなんとかしたいが、物理的にお金がなければどうにもならない。三男以降が既製品で済ませるのは、わりとこの世界では普通だったりする。
そうか。クラウスは男爵家の三男……なのかもしれない。
本来、身分示す紋章を身に着けているが、護衛は身バレをしたくないこともある。
エルのように公爵家の私設騎士団所属ともなると、騎士団の紋章のついたものを身に着けていたりするが、クラウスは影のようにゼノビアを見守っているのだ。そんな家柄を示すようなものは身に着けておらず、それでいてこの世界、相手に「爵位は? どちら様です?」なんて絶対に聞けないのだ。慮る文化の世界だった。
ということで、クラウスが既製品の舞踏会に着ていくような衣装=テールコートを見たいというのなら、それに文句などないし、同行するぐらいお安い御用だった。
そこでピアのことはゼノビアに任せ、エルを護衛にクラウスと三人で、町の紳士服の店に向かうことにした。
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次話は12時頃公開予定です~























































