第二十話:初めてかもしれなかった
ゼノビアの後ろにいるのは……。
ベージュの粗末な布で頭から足首近くまで覆われているが、スラリとした細身の長身であり、引き締まった体躯であると分かる。そして輝くようなアイスブルーの髪、さらには碧眼と高い鼻、形のいい唇に透明感のある肌が見え……クラウス!
ゼノビアとクラウスが揃って屋台に現れるなんて!
初めてかもしれなかった。
「いつもみんな、クラウスのことを気にするでしょう? だから今日は彼のことも連れてきたの。二人分、まだあるかしら?」
「ゼノビア伯爵! あります! まさにラスト二人分! ね、そうだよね、フェリスお姉さん!」
「はい。お二人で今日は完売です。ありがとうございます!」
これを聞いたゼノビアはニッコリとして提案する。
「そうなのね。つまり今日の営業はこれで終了ということね。それならばみんなも何か一緒に食べましょうよ。後片付けは手伝うわ。ピアちゃんは呼び込みが完了でしょう。これで好きな物を買ってきていいわよ。ただし、フェリスさんとエルくんの分もね」
何と巾着袋一袋分をゼノビアはピアに渡したのだ!
「こ、これは子供が持つには多過ぎます!」
「あら。じゃあ、エルくん、ピアちゃんに付き添ってくれる? 二人分のつけ麺ならフェリスさんでも作れるわよね?」
そういう問題ではないのだけど、ゼノビアはクスクス笑ってウィンクする。本人も違うと分かっているが、敢えてそうしているということは……。
「ゼノビア伯爵、ありがとうございます」
ここはもう厚意として受け取ることにした、代わりにピアにはこっそり耳打ち。
「全部使っちゃダメよ。残りはゼノビア伯爵にね」
「うん! 分かった、フェリスお姉さん!」
こうしてエルとピア、そしてルナの二人と一匹が屋台を見に行き、私はつけ麺作り。ゼノビアはニコニコと私を眺めていたが……。
「手伝う」と、ボソッと呟いたクラウスが私の横に立った。
今はゼノビアの護衛という立場だからだろうか。先日の快活さはなく、言葉少なで朴訥な感じ。ちょっとツンな感じで、これはこれで新鮮。
「このニタマゴをカットすればいいか?」
「あっ、はい! この糸で」
「!? 糸を使っていたのか!?」
クラウスが目を丸くしている。
クールなのにその表情は何だかとても可愛らしい!
「糸。そうなんです。綺麗に切れるんですよ」
「……君は本当に。圧力鍋といい、アイデアマンだな」
フッと口元に浮かべるクラウスの笑み。
それは何だかとても嬉しそうだ。
「今日、食事をして片づけをしたら、一緒に行きたい場所がある」
唐突に告げられ、「えっ」と驚き、尋ねる。
「ゼノビア伯爵の護衛は?」
「彼女だって一人の時間は必要さ。俺にも、ね」
「なるほど……。でも私が一緒だと、一人ではないですよ?」
するとクラウスは、今度は何だか皮肉な笑みを浮かべる。
「君は鋭いのか、鈍感なのか。実に判別がつかない。本当の君はどっちなんだね?」
いきなりのジョーンズ教授モードに、湯切りを失敗しそうになった。だがそれはクラウスのさり気ない魔法のフォローで事なきをえる。
こんな風に些末なことにでも魔法を使える。
クラウスが特級魔法の使い手であることを実感せざるを得ない。
「フェリス、器にメンを移さないのか?」
「! 移します!」
ついクラウスのことを考え、手元がおろそかになってしまうが。その後は滞りなく準備を進め、ゼノビアとクラウスの分のつけ麺は無事、用意できた。
そこへピアとエルが戻り、私達三人のランチ、五人で楽しむスイーツを買って来てくれたようだ。
「やはり小麦の産地だけあり、パンが……。焼き立てのパンの香りに負けました」とエルが苦笑し、その紙袋の中には、総菜パンが入っている。一方、ピアが手に入れたのは、クレープ生地にたっぷりのバタークリームを包み、砕いたナッツやらクルミがトッピングされている大変美味しそうなスイーツ!
つけ麺を作っていて、塩気モードに脳はなっていたはずなのに。このスイーツを見た瞬間。甘い物ウエルカムモードに変わっている!
「まあ! パンもスイーツも美味しそうね。でもわたくしたちはツケメンが一番。いただいてもいいかしら?」
「勿論です、ゼノビア伯爵。召し上がってください!」
私が応じるとピアが音頭をとってくれる。
「ではみんなで、いただきます!」
「「「「「いただきます」」」」」
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次話は18時頃公開予定です~