第十九話:最初から迷う必要なし
エルに相談した結果。
最初は地雷を踏んだと思ってしまった。
だがそんなことはなかったのだ。
エルは冷静に状況を分析し、そして──。
「お嬢様の悪女の汚名をそそげるなら、行くべきですよね!」
力強くそう言われた。
もはや最初から迷う必要なしだったわけだ。
こうして行くことを決心したものの。
舞踏会に着ていくようなドレスを……持っていない!
宝飾品も然りだ。パンプスもそう。
何もない。
「本来、公爵令嬢であるお嬢様は、オーダーメイドでドレスも宝飾品も靴も用意され、舞踏会に行くべきなのですが……。ドレスと靴を仕立てるのに一ヵ月、宝飾品は三ヵ月はかかります。でもきっとそんな猶予はないですよね」
エルの指摘はその通りなのだけど、それ以上の問題はこっち!
「つけ麺屋台をやる身分で、たとえ既製品でもドレスや宝飾品を買うお金はないわ。靴だって、ドレスに合わせるようなものになると、普通の靴より高いもの」
「! それは旦那様からの資金で買えますよね?」
「あれは向こう三年の軍資金よ。トレリオン王国を出発した時は、エルと私の二人だった。でも今は三人と一匹。お金は大切に使わないと!」
これを聞いたエルは「ならば自分が稼ぎます! お二人とルナを養うぐらいのお金は毎月稼げると思います!」と言うので、どうやって稼ぐのかと尋ねると……。
行く先々の村や町で、力仕事などを手伝い、日雇いでお金をもらえばいいと言うのだ。
「どの道、騎士の修練では体を動かす必要があります。剣を振って練習してもお金になりませんが、日雇いで働けば体力がつき、かつお金もいただけるんです!」
なんてことを言い出したのだ!
「エル、私はあなたにそんな苦労をかけるためについてきてもらったのではないわ! それにエル、あなた、自分が貴族であることを忘れないで!」
「お嬢様のためなら、貴族であろうが何であろうが、関係ありません!」
なんて涙ぐましいことを言われると……。
本当にエルは愛い!
絶対、エルに無茶をさせるわけにはいかないと、心に誓うことになる。
そんな話をしていると、休憩所に到着した。
ピアの読み書き計算をやると、仕込みがスタートとなる。
ひとまず舞踏会の件は、まだ正式に行くと決めていないので、ピアには話さず、つけ麺の仕込みに集中することにした。
◇
「いらっしゃいませ~、本日限りの営業で、東方のツケメンという料理を販売中! 玉子やお肉、スキャリオンがトッピングでついてくる! 食べられるのは今日だけ。今日だけだから、お見逃しなく!」
いつも通りのピアの声がけと共に、つけ麺の販売がスタートした。
ルナもピアの肩に乗り、呼びかけには一緒に「にゃぉん」とエールを送っている。
ここは宿場町であるが、やはり旅人より、町の住人が圧倒的に多い。旅人のため、よりも、住人のためのお店が充実している。その点はあの宿場町と同じ。
しかしここにはあの三人組のような、変質的な小麦愛とチロル様偏愛の人はいない。「温かい料理を冷たくして出すとは何事か!」と言い出す人はいなかった。
順調に売れて、初めてつけ麺を食べた人は……。
「小麦を使ったこんな料理があるとは!」
「とっても美味しかったよ。食べられて良かった!」
「今日だけと言わず、明日も明後日も、販売して欲しいよ」
おまけで「看板猫が可愛い!」「子猫も素敵」なんて声も届く。
そんな嬉しい声が続々と寄せられ……。
「もう残りは二食ですね」
エルに言われ、ピアが「じゃあ最後の呼び込みをしちゃおうかな!」と張り切る。だがピアが声を張る前に、大変艶っぽい声が聞こえた。
「やっと追いつけたわ! クラウスから聞いたのよ。冷やしラーメンの販売は今年は終了で、つけ麺の販売を再開させたって! まだ残っているかしら? 完売?」
そう声を掛けてくれたのは、ゼノビア!
色白の肌にストレートの黒髪、そして細身なのに巨乳。白のシャツに、黒のジャケット、マーメイドラインの黒のロングスカートというキリッとした彼女の後ろには……。
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次話は12時頃公開予定です~