第十八話:相談
幌馬車が走り出し、しばらくしてから、私はエルに相談してみることにした。
相談。
そう。
クラウスから提案されたエスコートの件だ。
「え、クラウスさんがお嬢様を舞踏会にエスコートするんですか??」
これにはエルが大いに驚く。
その真意を尋ねると……。
「そもそも舞踏会に招待されるのは貴族ですよね。裕福な平民の方、銀行家であるとか、有名な実業家も、パトロンである貴族の口添えで招待されることもあります。外交官や軍人の中でもかなりの高官であれば、招待されるとは思いますが……」
これには「なるほど」だった。
社交界からすっかり離れ、そう言った世情に疎くなっていたというか、あまり深く考えないでいた。
一般的に護衛と言えば、平民か下級騎士階級となる。エルの場合は公爵家の私設騎士団の一員であり、当然のように貴族だったが、通常はそうならない。
一部例外となるのが王族につく近衛騎士だ。彼らは全員貴族出身。
「あっ、でも例外はありますよね。仕えている貴族の親族である場合。身内の側近的な扱いで、遠縁の貴族の三男坊や四男坊が護衛をすることは、地方ではよくありましたね」
エルに言われ「その通り」と思うのと同時に。
「そうなるとクラウスは、ゼノビア伯爵の遠縁なのかしら? つまりは貴族」
「そうなのかもしれませんね。ならば当日はゼノビア様の護衛としてではなく、一人の貴族として舞踏会に出席されるんでしょうね」
そう言った後に、エルは不思議そうに尋ねる。
「ですがなぜ、お嬢様なんですか?」
「え、えーと」
「以前、お二人の距離が近かったように思えましたが、でもその後、接点はなかったですよね? ……思い出すとお嬢様は会って二度目なのに、名前を呼ぶことを許していましたが……お二人はハーミット村で会ったのが最後でしたよね!」
何だかじわじわとエルの表情が硬くなっているような気がする。これはもしや相談する相手を間違えたかしら!?
「お嬢様、もしや隠れてクラウスさんと、ぶ、文通などされていたわけではないですよね!? もしくは自分の目をかいくぐり、南部にいた時に、み、密会などを」
「し、していないわ! それにクラウスさんはゼノビア伯爵の護衛で忙しそうにしていたじゃない!」
「そうですよね!? それなのになぜ、お嬢様を誘うのです?」
それは私が知りたい……なんてことはない!
分かっている。
なぜならクラウスは私のことを……好きだから。
好きだから……。
好きだから誘った……で、いいのよね?
いや、待って!
「エル。とても重要なことを伝え忘れていたわ。クラウスさんはこうも言ってくれたのよ。『君が悪女ではないと証明するための算段も立てているんです』って」
「! そうなのですか、お嬢様! いや、待ってください! お嬢様はクラウスさんにご自身の身の上を明かしていたのですか!? 一体、いつの間に!?」
これには盛大に「しまったぁぁぁ」と叫びたくなる。
「ち、違うのよ、エル!」
「何が違うのですか、お嬢様! 名前を呼ぶことを許すだけではなく、重大な秘密まで打ち明けているなんて!」
そこからはエルを宥めるのに、大変苦労することになる。勘が鋭いクラウスに気付かれ、明かさないと「悪女がここにいる」と通報されてしまう可能性があったこと。ゼノビアには話していないと思うが、話しても味方になってくれると思うなどを話すことになった。
「……なるほど。いろいろ理解できました。クラウスさんは確かに腕が立つ方です。そういう方は武術だけではなく、他のあらゆることにも長けていますからね。貴族令嬢にしか見えないお嬢様が屋台をやっていることに違和感を覚え、そこから気づいたとしても……やむを得ないでしょう」
「でしょ! そうでしょう!」
ここは思いっきりエルに同調し、この話題が終わることを願う。
「それらを踏まえ、冷静に考えると……そもそもの点で言えば、舞踏会での同伴者がいない。ゼノビア様の護衛で忙しく、相手を見つけられないとしたら。一人で参加でも良かったわけですよね?」
「そ、それはそうね。未婚の貴族令嬢が舞踏会に単独参加は、奇異な目で見られてしまうわ。シャペロンを同伴するわよね」
「その通りですよ、お嬢様! ですが令息の方は未婚であれば単独参加です。既婚なら夫人同伴が当たり前ですが」
それはまさにその通り!
婚約者がいれば、婚約者を同伴。
無理に誰かを同伴する必要はなかった。
「そうなると、同伴者がいない。これは言葉のあやというか、誘い文句の導入で、本意はそこにないことになるのでは?」
「えーと、それはつまり……」
「お嬢様の悪女の汚名をそそぐことが、第一目的なのでは!?」
これには大いに「そういうことですか!」になる。
私に好きと告白しているから、好意で同伴を申し出たわけでないと。どちらかと言うと、善意で。クラウスの良心が、私が悪女ではないと証明したいという正義感に突き動かされた結果、なのでは!?
「クラウスさんの目的がお嬢様の救いであるならば……答えは一択ではないですか!?」
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