第十七話:やっと出発
転移魔法を使い、宿の近くに戻ると、クラウスは……。
「フェリスに伝えたいことは、ちゃんと言えた。僕はこの後、ルナの件で動くから、これで行くよ」
「! あ、ありがとうございます。クラウスさん。今回もお世話になってしまい……」
「うん。だからさっきのエスコートの件。もう一度よく考えてみてほしいな。ルナの件が落ち着いたらまた会いに来るよ。その時に改めて返事を聞かせて」
そう言って実に爽やかにウィンクをすると、姿を消してしまう。
この一週間。
悶々としていた件が、クラウスのおかげで解決した。しかも事後処理もちゃんとやってくれるなんて……。
もうクラウスには感謝しかない。
舞踏会の件は……即断はできなかった。
でもこれはちゃんと考えたい。
しかし考えるのは今ではない。
今すべきことはこれに尽きる!
「エル、ピア! ルナが見つかったわ!
「「えええええっ! 本当に!?」」
ルナと再会したエルとピアは、もう大号泣!
だがルナを穀物庫に閉じ込めていたのが、教育ママ風リディアン、信楽焼のタヌキみたいなセファン、この世界でピザを再現しているマイア氏の三人組だったと分かると……。
大号泣から一転。
大激怒となる。
「信じられません! とても親切な方々だと思ったのに! マイア氏はあのパン料理で自分達の気を引き、その間にリディアンさんとセファンさんが共謀してルナを攫ったんですよね! しかも二週間単位で三人の小麦畑にある穀物庫でルナにネズミ番をさせようとしていたとは……! 許せないです!」
「本当にひどいと思う。孤児院の子供達が連れていかれ、働かされる農場も過酷だったけど、ルナの待遇はそれより劣悪! いくら広々としていると言っても、ほぼ穀物庫に閉じ込めるんだよ! あり得ないと思う!」
二人の怒りが収まるのには、この三人に正義の鉄槌が下されないとダメだろうと思っていたら……。
「お嬢様、見てください。あの三人組が逮捕されたと記事になっています。……しかもルナは王家がとある人物に直々にプレゼントした猫、ということになっていますよ」
翌朝、朝刊を手にしたエルがピアと私の部屋に尋ねてきて、これには大変驚くことになる。
ゼノビアを通じ、クラウスは国王陛下に働きかけることができるようだが、まさかこんなことまでできるなんて! しかもちゃんと私達の匿名性を保ってくれていた。
「えーと。『家畜はもちろん、飼い犬や飼い猫などは、動産と見なされ、財産となる。その財産を盗むことは、窃盗罪に問われる。特に家畜はその生計を支える重要な資産であり、家畜の窃盗は特に重い罪になるのだ。さらに貴族が飼っているペットを窃盗した場合も、罪に問われることになる。今回は王族が関わることから、窃盗犯として逮捕された三人には、重い刑が科されるだろう』って書いてあるよ!」
ピアが新聞を読み上げ、三人がこれから裁判にかけられることを知った。それを知ったまさにそのタイミングで、宿主がフロントで預かった手紙を届けてくれた。
「クラウスさんからだわ」
既にルナ発見には、クラウスが一肌脱いでくれたことは話していたので、エルもピアも彼がどんな手紙を寄越したのかと興味津々。早速、その場で開封する。
「今回の件は、ゼノビア伯爵とも連携し、弁護士と共に対処しておく。よってそのまま旅を続けてもらって構わない……って書いてあるわ」
「すごい! ゼノビア伯爵が動いてくれるなら、間違いなしだよ!」
「良かったです。ゼノビア様なら良き弁護士も知っているはずですから、安心です」
二人はゼノビアの名が出ると大喜びになるが……。
今回、実際に動いてくれたのはクラウスなのだ。それは二人も分かっているだろうが、ゼノビア=正義の味方は圧倒的。
クラウスではなく、ゼノビアが目立つのは……。
クラウスが頑張ってくれた分、なんだか残念に思ってしまう。
でもこれをクラウス本人に伝えたら「主であるゼノビア様が目立って当然だよ」なんて言いそうだ。
まさに縁の下の力持ちのクラウス。その彼が舞踏会に私を連れて行きたいと言ってくれた。そのささやかな願いを突っぱねるのは……。
「フェリスお姉さん、ルナも帰って来たし、もう次の休憩所へ行こうよ!」
「そうですね。ツケメンの販売も一週間も休んでしまいました。滞在費はあの三人が出していたとはいえ、今後の旅にお金は必要です。次の場所でお店を営業しませんか、お嬢様」
それはまさに二人の言う通りだった。
「そうね。じゃあ宿はチェックアウトして、今日は次の宿場町を目指しましょう。そして仕込みをして明日からは営業再開ね」
「「はい!」」「みゃん!」
エルとピアに加え、ルナも元気に返事をしてくれた。
こうして想像以上に長く滞在することになった東部の町を出発することになった。
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次話は18時頃公開予定です~