第十三話:ラーメンとは何でしょうか
「ラーメン、ですか?」
「そう。ラーメン」
エルはホワイトブロンドの髪をサラッと揺らし、紺碧色の瞳を細め、大変真剣な表情になる。その上で、「ラーメン、ラーメン、ラーメン……」と呟く。
その様子は何とも愛らしい。
「ラーメンとは何でしょうか、お嬢様?」
そこで私はラーメンについて説明することになる。
ラーメンを語れるのは、学生時代、ラーメン激戦区に住んでいたからだ。
サークルの仲間と『ラーメン部』を結成し、ラーメンを食べ歩き、ラーメンに関する知識を蓄積、ラーメン作りにも挑戦した。その時の記憶は、転生後も残っていたのだ……!
ということで熱く語ると長くなりそうなので、重要な点だけ押さえ、一通りラーメンについてエルに話して聞かせた。それを聞き終えたエルは「なるほど」と頷く。
「異国の、東方の島国で発展した食べ物なのですね。元は大陸に存在した料理が独自進化を遂げた。小麦で作ったメンというものを、鶏などで作ったスープに入れ、一緒にいただくのですね」
「そうなの。でもこれから暑くなるから、つけ麺を出すつもりよ。つけ麺というのは、スープと麺を別々に用意するの。そしてそのスープに麺をつけながら食べるのだけど、その場合、麺は水でしめるから冷たい。でもスープは熱い。口の中で丁度いい温度になって、夏でも食べやすいと思うわ」
「夏の暑さの中、アツアツのスープでメンを食べるのは、食べにくいということですね」
私は頷き、こう続ける。
「エルもまずは一度つけ麺を食べてみないと、どんな食べ物か想像できないと思うの。何より屋台はエルと一緒に営業するのよ。エルも美味しいと思うものを作れないとダメよね」
これを聞いたエルは瞳をまたもうるうるさせる。
「今日はこの休憩所にこのまま泊まりましょう。私が魔法でエルが寝られるように……」
「大丈夫です、お嬢様! こういう休憩所は寝具も扱っています。掛け布は買い取りですが、羽毛布団などはレンタルできるんです。といっても今は初夏ですから、掛け布と枕を買います。それだけあれば十分です」
「分かったわ。じゃあ、他にも欲しいものがあるから、売店へ行きましょうか」
こういった街道沿いにある休憩所は、そのまま馬車を止め、宿泊もできた。大きな規模だと宿泊施設もあるが、たいがいは野宿となる。野宿が前提なのは、長距離移動は基本、男性がするものと考えられていたからだ。
何はともあれ、売店で必要なものを手に入れることはできた。
「お嬢様、いろいろ購入されましたが、それは……?」
「全部、ラーメンを作るのに必要な道具と材料よ。といってもこれから魔法で道具は作りだすわ」
「早速、ラーメン作りをされるのですね! それはもう今日いただけるのですか!?」
エルが瞳をキラキラ輝かせるので、ここは「そうよ」と答えたくなるが……。
残念ながら、そうはならない。
「スープも麺も一晩寝かせる必要があるの。だから晩御飯は売店で買うことになるわ。たた煮卵なら、今日食べられる。味見だけ、してみる?」
「はい!」とエルは頷き、そこからは私の準備を手伝ってくれる。
まずはアイロンで使うおもし(鋳鉄)を魔法で、寸胴鍋に変えた。さらには雪平鍋もどきの鍋も魔法で用意。
この休憩所には井戸もあるので、そこでお水は調達できる。
「エル、この鍋にお水を用意してもらえる?」
「お任せください!」
エルが水を準備してくれている間に、麺を茹でる鍋やざる、包丁やまな板、お玉などの調理器具、ラーメンを入れる丼ぶり、レンゲなども用意した。
「! お嬢様、これ、全部魔法で!?」
「そうね。元になる金属や陶器を魔法で変形させた感じよ」
そう言いながら、魔法を使いレンガで簡易竈を作り、まずはそこに水を入れた寸胴鍋を置いてもらう。鍋を置いたエルは興味深そうに私が用意した道具などを眺める。
「これは何ですか、お嬢様? スプーン……ですか?」
「それはレンゲと呼ばれていて、スープを飲むのに使うのよ」
「なるほど。これは???」
「それは湯切りのざるね。茹でた麺の湯をきる時に使うの」
道具の説明をしながら、手に入れた玉ねぎをザクザクと四つ切にする。
「お嬢様、その作業、自分がやります!」
「助かるわ、お願いね」
エルが玉ねぎを切ってくれている間に、にんにくをつぶし、乾燥アンチョビを寸胴鍋に投入。つぶしたニンニクも投入し、エルが切ってくれた玉ねぎも加える。
「お嬢様、これは何をしているのですか……?」
「アンチョビから旨味成分をじわじわ引き出すのよ」
「魚介のスープを作るんですね!」
つけ麺と言えば濃厚とんこつか魚介系。
でもとんこつのあの匂いに抵抗感をもたられる可能性もある。そこで今回、魚介系のスープを試しに作ることにしたが、昆布や煮干しはこの世界に存在しない。
さすがにそれらは魔法でも用意できないので、アンチョビで代用することにしたのだ。
つまり乾燥アンチョビは煮干しの代用で使っている。そしてアンチョビは貴族の食卓にもちょいちょい登場するので、その匂いと味に抵抗感はないはず。
「同時進行で煮卵とかん水を用意するわ」
そこで鍋を火に掛け半熟卵作りつつ、かん水を重曹を使い、準備することにした。
「カンスイとは何ですか、お嬢様?」
「かん水は、麺に独自の風味、色合い、弾力なんかを出すために必要なの。『コシ』を出し、『黄金色』の麺にするには欠かさないもので、アルカリ性の水よ。重曹を焼くことで、その成分を取り出せる。確か、200度~250度で一時間程焼くのだけど……そこまですると大変だから、重曹を水に溶かし、かん水として使うの」
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
次話は12時頃公開予定です~