第七話:東部での初営業
結局、ゼノビアが現れることはなく、この日の仕込みが終わった。そして迎えた翌朝は……。
胸の辺りが温かい&重い。
「みやぁ!」
もふもふによる癒しの目覚め。
ピアと私は同じベッドで寝ており、ルナはピアの枕元にいたはずだった。だが気付くと仰向けで寝ている私の胸で、ルナは香箱座りをしていた。
本当に猫は器用だわ!と思いながら、その小さな頭を撫でると、嬉しそうに目を閉じる。まだこんなに幼いのに、お母さん猫とはぐれ、一匹で頑張っていたのかと思うと、どこかピアに似たところも感じてしまう。
「ルナ。エルに拾ってもらえてよかったわね。もう私たちという仲間ができたから、安心よ」
「にゃあ」
まるで私の言葉が分かるかのように鳴くのだから、これはたまらない!
ということでこのままこのルナに癒されたくなるが。今日は東部に来て、初めての営業になるのだ。元気よく起きると、昼営業へ向け、村を出発となる。
「次の宿場町は二時間程で到着です。そこまで離れていないので、あっという間ですよ」
エルの言葉に、幌馬車がゆっくり走り出す。
南部とは違う、見る限り両サイドは畑という道を進むと、目指す宿場町に到着した。まずは幌馬車で町の中を進み、様子を確認することにする。
これまでの宿場町と違い、町民も沢山いる、都市のような規模。徒歩での確認では時間がかかるので、幌馬車でざっくり町の作りを把握することにしたのだ。
「すごいですね、お嬢様。町の中央の時計塔広場が、そのまま市場になっているんですね」
「本当だわ。でも生鮮売り場は午前中で終わるから、そこの空いたスペースで、スタンドショップや屋台はお店を出していいと書かれていたわ。時間になるまで、休憩スペースで準備を始めましょう。お昼が近くなったら、ここに戻ってくればいいわ」
休憩スペースに到着し、荷台からルナを抱っこして降りてきたピアは、想像以上の町の大きさに驚いている。
「すごいね~! ここ、休憩スペースなんだよね!? それなのに売店もあるし、浴場もあるよ。普通に沿道沿いにある休憩所と変わりない! 他の宿場町の休憩スペースなんて、レストルームがあるぐらいなのに!」
ピアの指摘はその通り。
休憩スペース=前世の駐車場のようなもの。
馬車を止めるスペースであり、不随する設備はピアの言う通り。町の中にある休憩スペースなのだから、レストルームがないことも多い。
それを踏まえると、ここの休憩スペースは売店から浴場、当然だがレストルームもあり、そして井戸もある。これまで休憩スペースで昼営業の準備をする時は、広場まで水くみが当たり前だった。それを踏まえると実に便利。
「さすがアルシャイン国の穀物庫と言われるだけありますね。潤っている分、町の設備が充実しています。浴場は無料で利用できるようです」
エルが感心しているが、本当にすごいと思う。
「エルも新聞で見た通り、トレリオン王国は、アルシャイン国に頭が上がらない状態よ。アルシャイン国はこれからますます発展すると思うの。国力はぐんぐん上昇すると思うわ。この東部でとれる小麦も、トレリオン王国に輸出されるかもしれないわね」
そんなことを話しながら、昼営業に向けた準備を進める。
「そろそろ十一時だよ、フェリスお姉さん! 時計塔の広場に移動する?」
「そうね。そうしましょうか」
そこで荷馬車にスープの入った鍋やクーラーボックスを移動させ、移動開始となった。
ルナはなんとピアの肩に上手にのっている!
「まあ、可愛い。肩にそんなふうに安定して載っている猫なんて、初めてみたわ」
「本当に。お利口さんな子猫ね」
すれ違う人からも声を掛けられる。
そうこうしているうちに時計塔広場に到着。
朝、見た時は魚や肉が売られていたスペースが空いている。代わりに飲み物や軽食を販売するスタンドショップ、私達のような屋台のお店が設営を始めていた。
「あの辺りにしましょうか」
「そうですね、お嬢様!」
私たちも場所を確保し、準備を始めた。
その間、ルナは私達のそばをうろうろしたり、隣のお店の店員に近づき「まあ、愛らしい子猫ちゃん!」と可愛がられている。人見知りしないルナは、すぐに誰とでも仲良くなれた。
「うちで売っている髪飾りだけど、首輪にできると思うの。どうかしら?」
ついにはプレゼントまでいただき、早速、リボンの首飾りをつけることになった。
「まあ、お似合いだわ!」とプレゼンしてくれた店員さんは喜び、ピアは「ルナ、お姫様みたい~!」と笑顔になり、「素敵ですよ、ルナ」とエルは令嬢を褒めるような言葉を口にしている。
私はと言うと……。
「世界で一番ルナが可愛いと思うわ」
要するに親バカ状態になっている!
そうしているうちに……。
ゴーン、ゴーンと鐘が鳴る。
十二時となり、お昼営業開始の時間だった。
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次話は12時頃公開予定です~























































