第六話:今からでは遅いかしら?
突然現れたクラウスには、本当にドキドキさせられた。
冷静に考えると、既にクラウス……というかシャインから、額へのキスはされているのだ。よってそこまでドキドキする必要はない……はずなのに、心臓は爆発寸前。
シャインから額へキスをされた時は、旅の加護をもらったような気分だった。でも今回は……。
額へのキスは祝福のために行われる。だからそこに色恋沙汰を絡めてはいけないと思うが……。
それでもクラウスは私に告白をしているので、つい意識してしまう。
というか。
あっという間の再会で、すぐに姿を消してしまった。だから仕方ないとは思うけれど……。
やはり告白の返事を聞かれることはない。
あの日の告白、あれは勢い込んで、つい口を滑らせてしまっただけだったりするのかな……。
考えても答えはでない。ということでピアが昼寝から目覚めた後は、いつも通りで読み書き計算をやり、その後はエルに軽く日傘護衛術ではなく、ステッキ護衛術を習った。そろそろ日傘を持つ季節ではないので、ステッキへと変更になったのだ。
そうしているうちに一日が終わりに近づく。
夕方になってから、仕込みをしつつ、休憩をとり、ガレットのお店へ行くことにした。
前世でガレットと言えば、そば粉で作ったものが有名。だがここは穀倉地帯で、小麦を問題なく収穫できる。あえてそば粉で作る必要もないので、小麦粉で作ったガレットが提供されていた。
そこでエルは定番の卵・ハム・チーズのガレットを頼み、ピアはスモークサーモンとクリームチーズのガレット、私はマッシュルームとほうれん草のガレットを注文。頼んだ品が到着してからは、それぞれの感想を伝えあいながら、食事を終えた。
食後のバニラアイスと紅茶をいただいていると、ピアは「今日はゼノビア伯爵には会えないね」と呟く。
「そうですね。今日はそもそも屋台を開けていませんから、ゼノビア様が来ることはありません。それに自分達は南部を出て、東部へ来てしまいました。ですがゼノビア様はまだ南部で仕事をしている最中かもしれません」
エルの言葉に「そんなことはないわ。だってゼノビアの護衛をしているクラウスに今日、会ったもの!」と言いそうになり、それは呑み込む。
クラウスは魔法が使えない前提なのだ。彼が特級魔法の使い手であることは、絶対に漏らしてはいけない。そう思いつつも、クラウスがいるのだから、ゼノビアもこの村にいる可能性が高い気がしていた。ただ屋台を開けないので会えないだけ。
そこでもしかするとこの後、仕込みを続けていたら、ゼノビアがひょっこり顔を見せてくれるかもしれない――ということをピアに話すと……。
「仕込みに戻ろう! 私は二十一時がタイムリミットだけど、そこまで頑張る! もしかしたらゼノビア伯爵に会えるかもしれないから!」
意気揚々のピアを先頭に、食後のコーヒーを飲み干すと、仕込みを行っている広場へ戻った。
作業を再開し、しばらくすると……。
「ゼノビア様、いらっしゃいますかね?」
「もしかしたら」と思い、仕込みをしているのは、ピアだけではなかったようだ。エルもゼノビアの来訪を気にしているのだと気付く。
同時に。
もしかするとエルはゼノビアのような女性がタイプなのかしら?と思う。でもここで「エルはゼノビア様が好きなの?」と聞いたらセクハラだわ。
そこでこんなことを口にしてみる。
「ゼノビア様は素敵よね。強くてお綺麗でお酒も飲める! 私は憧れちゃうわ」
「そうだと思いました。お嬢様は強い女性がお好きですよね」
「! さすがエル。よく分かっているわ! そうなの、そうなのよ! 私もゼノビア様みたいな強い女性になりたい! お酒はきっと強いと思うの。だからあとは……エルにもっと武術を」「お嬢様」
エルが大いなるため息をつく。
「ルナ、くすぐったい! 今からメンを切るんだから、だーめ!」
ピアは足元で甘えるルナを荷馬車に用意している籠に戻しに行った。
その様子をエルと二人で見守った後。
エルはおもむろに口を開いた。
「ゼノビア様は特殊です。扇子を手にしていますし、ドレスを着ています。その動きは優雅ですが、常に隙がないんですよ。あれはにわかではないです。幼い頃から武術の訓練を得た今だと思います。その腕を見込まれ、警備隊に入隊されたのかと」
これには「なるほど!」だ。
「今からでは遅いかしら?」
「お嬢様は第二王子の婚約者となるための、妃教育や淑女教育を受けてきたのです。ゼノビア様とは対極のような人生なんですよ。それに自分がお嬢様の盾であり、剣なんです。お嬢様が剣を手にする必要はございません!」
「で、でもね。この前みたいなこともあるでしょう」
これは藪蛇だった。エルはズンと落ち込み「あれは護衛騎士失格です。やはり自分はお嬢様の部屋のバルコニーで休みます」と言い出すので、宥めるので大変なことになってしまった……!
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