第四話:ビクッと体を震わせる
『トレリオン王国の国王、病気により退位』
この見出しに驚き、部屋に着くとすぐに新聞を読み始める。ピアはちゃんと歯磨きをすると、ルナと一緒に昼寝を始めた。
トレリオン王国の国王といえば、まだ三十代だった。間もなく四十歳になる年齢。病気とは無縁としか思えない、健康な人にしか見えなかったが、新聞では『長年患っていた持病の悪化により、急遽王太子であるアラン・ヴァン・フリードの即位が決まった』と書かれている。
長年患っていた持病?
そんなものなかったと思うのだ。一応、第二王子であるロスの元婚約者なのだ、私は。国王とも何度も会ったこともあるが……。
そこでこのニュースのすぐ下の記事が目に入った。
『新国王即位と共に、アルシャイン国とトレリオン王国の友好関係深まる』
これはどういうこと!?と記事を読み進めることになる。
『トレリオン王国はこれまで自国の港に寄港する船に対し、厳しい条件を課していた。一例をあげるなら、燃料や食料、水の補給のために立ち寄ると、港の使用料に加え、入国・出国手続き費用、各種書類作成手数料などを徴収している。だが今回、新たに国王が即位するのに合わせ、アルシャイン国との友好関係を深めることを、新国王は決意。アルシャイン国の船が寄港した際には、港の使用料のみを徴収することを決めた。さらにこれまで自国の産業発展のために、アルシャイン国の輸出品にかけていた、いくつかの関税を撤廃することを決定。その品目は……』
これだけでも驚きだが、さらに。
『トレリオン王国は、これまでコーヒー豆の産地であるドルネシアン共和国と独占契約を結んでいた。だが新国王はアルシャイン国がドルネシアン共和国とコーヒー豆の取引を始めることを認めている』
『新国王は、その即位の喜びを伝えたアルシャイン国の国王に対し、東部にある金山の採掘権を譲与した』
急速にトレリオン王国とアルシャイン国の仲が深まる記事が紹介されいているのだけど……。
どれもアルシャイン国有利な内容ばかり。
これは一体どういうことなの……?
トレリオン王国の前国王は、自国の国力強化に躍起になっていたところがある。だからこそシルクの自国での生産を考え、東方の人を攫うことすらしたと思うのだ。ドルネシアン共和国との独占契約も、戦争を経て勝ち得たもの。ドルネシアン王朝を滅ぼし、新たな政権をトレリオン王国手動で打ち立て、実質植民地と化し、独占契約を結ばせていたはず。
まさに自国ファーストのトレリオン王国が、王太子だったアランが即位するだけで、そんなに変わるのかしら!?――とビックリだったが……。
もしや、と思う。
もしかして、と考える。
クラウスとゼノビアが動いた結果なのでは!?と。
東方人を攫うという非人道的な行い。そんなことを国家主導で行っていたと、公にされたら、大変なことになる。そこで水面下で交渉が行われたのではないか。国主導で行われた悪事だったので、現国王が退位するのは当然として、公にしないことへの見返りをアルシャイン国がトレリオン王国に求めたのではないか。その結果、港の利用、関税、金山の採掘権、貿易などで便宜が図られることになった。
国同士のこういった駆け引きは、戦争がない分、増えている。もしこの予想が正解なら、トレリオン王国はもう一生、アルシャイン国に頭が上がらないだろう。
一方のアルシャイン国はいいことずくめ。
まず港を利用しやすくなれば、アルシャイン国の貿易はさらに活発になり、トレリオン王国への輸出も増える。そうなれば国内の産業は活気づき、それぞれの産業に従事する国民の生活も向上する。さらにコーヒー豆が入手しやすくなることで、国内でのコーヒーの値段は下がるだろう。これまで高級品だったコーヒーを庶民も飲めるようになるかもしれない。
金山の採掘は莫大な富を生む。アルシャイン国のインフラ整備などが格段に進むはずだ。
そこでバルコニーのある窓の方で気配を感じ、ビクッと体を震わせることになる。
ポアラン男爵の手下である、私設騎士団のカナン団長に窓から攫われたことを踏まえ、宿の部屋では鍵はかけているし、両開きの窓には持ち手にリボンも掛けていた。さらに昼間ではあるが、薄手のレースのカーテンも引いていたが……。
そこに人影が見えたのだ!
ピアはルナと一緒に昼寝をしている。
これは静かに賊を倒すしかない。
だが白昼堂々、鍵をかけ、持ち手が結わかれている窓からどう侵入するつもりなのか。
まさか窓ガラスを思いっきり割るつもり……?
でもそれなら外にいる人にバレるはず。
ここは旅人は休憩所として利用するが、村なのだ。
警備隊もいるし、さすがに通報されるだろう。
そう思いながら、もしそんな形で部屋に突入してきた場合に備え、背中を壁に沿わせ、窓に近づく。
窓を破って入られたら、ピアは驚いて目覚めることになるだろうが、仕方ない。さらにその時は賊を風魔法で吹き飛ばそう。
じりじりと壁沿いで窓に近づくと……。
コン、コンと遠慮がちに窓がノックされている。
これには「!?」となる。
賊が部屋に侵入する前に、ノックなんてします!?
驚き、さらに窓に近づくと、声が聞こえた。
耳を澄ますと……。
「……フェリス、僕だ。クラウスだ」
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次話は12時頃公開予定です~