第三話:もぐもぐタイム
東部エリアに突入すると、植物の様子が変わった。
南部でよく見かけたブーゲンビリアは見なくなり、代わりに目につくのは、カルーナの白やピンクの花だ。
畑はすでに春小麦の収穫が終わり、今は土壌の調整中が多い。九月の終わりに大麦の種を撒くための、まさに準備段階だった。そして東部に入ると、休憩所は減り、代わりに村が増える。
平原の多い東部エリアは、目に着く場所はほぼ畑。畑がある=農業に従事する人がいるわけで、あちこちに村があった。その村がそのまま休憩所の役割になる。かつ、宿場町も旅人の町というより、市場の町になると、事前の調査で判明していた。
ということでまず訪れたのは、街道沿いにある、旅人にとっては休憩所になる村だった。
「南部の休憩所と違い、村なので、宿もレストランもお店も兼任ではなく、単独で存在していますね。それに時計塔や教会もちゃんとあります。墓地や当然ですが畑も。休憩所……と思えないですね」
村に入るとエルがそんな感想を漏らしたが、まさにその通り。幌馬車と共に野宿ではなく、ここでは宿をとることになる。
お昼過ぎでの到着となったので、今日は営業はなしで、夜仕込みを行う。翌朝、次の宿場町……町へ移動し、そこでお昼にいよいよつけ麵販売となるが。今日は穀物庫と言われる東部で小麦を使った様々な料理を楽しむことにした。
「やはりパンのお店が圧倒的に多いですね、お嬢様」
「そうね。あとはガレット、小麦粉の生地に肉や野菜を包んで煮込んだり、揚げた料理。小麦粉のお粥もあるけれど……」
「茶碗蒸しに似た料理もあるよ! 甘いものにもなるし、食事にもなるプティング!」
メインで食べるだけでも、これだけ沢山ある。小麦粉はソースに加えることもあるので、小麦粉を使う料理は無限にありそうだ。だがさすがにラーメンのような、細長い麺料理はない。パスタの原型はあるが、細長いロングパスタはまだなかった。
それでもラザニアのような料理、マカロニは存在している。食べられているのはごく一部の地域であるが、ここは小麦の産地なので、ちゃんとある。よってラザニアとマカロニ料理を食べてみることにした。
「はい、ラザニアだよ、おまちどうさま!」
お昼時をずらして入ったレストラン。すぐにラザニアが出て来たが、それは前世のラザニアとは全く違う!
「たっぷりのチーズがかかっていて、美味しそう〜」
ピアが目を輝かせ、エルも笑顔になる。
「バターソースのいい香りがしていますね、お嬢様!」
パスタの上にバターソース、そしてチーズ。このセットを三層で焼き上げたものが、この世界のラザニア。お肉も野菜もない。つまり具はなかった。肉は別で頼むことになるが、今回は小麦粉を食べ尽くす──なので、肉ではなく、ここにマカロニ料理二つがさらに到着。
「うわぁ、こっちもとってもいい香り!」
ピアが一つ目のマカロニ料理に反応。エルも湯気の中に見える料理を分析する。
「たっぷりのホワイトソースとチーズに、マカロニが絡まっているんですね」
もう一皿のマカロニ料理は……。
「これはスープに入ったマカロニね。鶏肉や野菜と一緒に煮込まれているから、ラーメンとも近い気がするわ」
「なるほど。まだラーメンは食べたことがないですが、メンがスープに浸かっている状態なんですね、お嬢様!」
「そうね。ラーメンは秋が深まって冬になったら出すつもりだけど、エルとピアには折りを見て食べられるようにするわ。でもつけ麺ともまた違うから、麺とスープのレシピを考えないといけないけど」
エルとそんなことを話していると、フォークを握りしめたピアが尋ねる。
「ねえ、もう食べていい!?」
「勿論よ! 温かいうちに食べるのが一番!」
そこからは冷めないうちにとパクパク食べ進めることになる。
「あー、満腹! デザートは無理〜」
「同じくです。お腹の中が小麦粉で満杯……」
たっぷりな量にこってりな味付けで、さらにスープもあった。食べ終わると確かにデザートどころではない。
「デザートはなしで宿に戻りましょうか」
「うん。戻ったらルナと昼寝する〜」とピア。
「これだけ食べたので少し運動します!」とエル。
私はというと……。
「しばらく移動でバタバタして新聞を読んでないから、新聞を買って部屋で目を通すわ」
こうして宿に戻る道すがらで新聞を手に入れ、宿に到着。すると……。
「みゃおん!」
宿の従業員に預かってもらっていたルナが、私達を見ると駆け寄ってくる。
「ルナ~、お留守番いいこ、いいこ」
エルよりすっかりぞっこんのピアが、ルナを抱きかかえ二階へ向かう。その後に続き、階段を上りながら、先程手に入れた新聞にチラリと目をやる。
『トレリオン王国の国王、病気により退位』の見出しが目に飛び込んできた。
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