第十一話:そんな場所に!?
人馬共に休める休憩所に到着した。
ぐっすり寝たおかげで、魔力が回復している。この回復の速さは若さゆえと思うので、お酒はまだ飲めないが、十八歳、万歳!だった。
幌馬車から降りると、屋外のこのスペースには、沢山の椅子とテーブルが用意されている。人がいない端の椅子とテーブルをまずは確保だ。さらに手に入れたスープとパンを食べながら、エルにここへ至るまでの経緯を聞くことになった。
「えっ、墓地に転移したの!?」
「はい。三度目に転移した場所、それは南部の都市、サウスポートの郊外にある墓地だったのです」
これで私が棺で眠っていた理由は、分かったようなもの。だがここはまずエルの話を聞くことにした。その前に、墓地なんかに転移したことを謝罪する。
「いえ、お嬢様、そんなこと気にしないでください。むしろ、さすがお嬢様、と思いました」
「!? ど、どうしてかしら!?」
「昨晩、あの屋敷に踏み込んで来た者たち。彼らはお嬢様がいると、確信していたわけではないようなんです」
これはどういうことかというと、いわば抜き打ち一斉検査をしたようなものなのだという。
「首都アールに、隣国の悪女と言われた令嬢がやってくる。そう新聞では騒がれているのに、お嬢様は一向に姿を現さない。おそらく国境からアールまでの道中などでも、目を光らせていたのかもしれません。それでも目撃情報すらない。そこで各都市で、最近一人暮らしを始めたお嬢様と同じような年齢の女性がいないか。アルシャイン国王が調査を命じたようなのです」
「つまり該当する女性がいる屋敷を一斉家宅調査したのが、昨晩の抜き打ち検査だったということ……?」
「そのようです」と頷くエルに尋ねる。なぜそんなことを知っているのかと。
「その情報を知ることができたのは、墓地に転移できたからです!」
まったく意味が分からない。
「墓守りはどこの国も同じで、人気がない職業です。死と関わる仕事であり、疫病など発生した場合、その遺体と関わることで命を落とす危険もあります。さらに天気や季節も関係なく、働く必要がありますよね。過酷です。それでも教会に雇われることで、安定した職業=安定した生活と考えられ、弱者の一部からは人気なのですよ」
弱者……貧しい人や少数コミュニティの人々。
つまり墓守りに就く人の中には、一定の割合で移民がいるというのだ。
「転移した墓地で、すぐに墓守りに見つかりました。しかもお嬢様は気絶し、自分はなぜか靴の中がびしょぬれ。お嬢様が魔法を使ってくれたおかげで、服は乾きました。ですが靴は無理で……。不審がられてしまったので、こう打ち明けることになったのです。『身分違いの恋であるため、駆け落ちし、追っ手から逃げている』と……勝手にお嬢様を恋人にしてしまい、申し訳ありません」
これには驚くが名案ではある。どう考えても怪しいが、駆け落ちしている二人となれば、いろいろあってそうなったと妙に納得してもらえるわけだ。
「しかもトレリオン王国から逃れてきたと話すと、その墓守りは『自分も実はトレリオン王国から逃れ、この地に来ました』と打ち明けてくれたのです」
まさか同じトレリオン王国出身者に会えるとは!
これはかなりの確率だと思う。何せアルシャイン国は国土も広く、人口も多いのだから。
「その墓守りは没落寸前の貴族の屋敷でヘッドバトラーをしていましたが、ある日突然、主が行方をくらませたそうです。そしてその借金の取り立てを、ヘッドバトラーである彼が受けることになり……。主の借金なのに、詰め寄られ、逃げ出すことになったそうです」
基本的にこういった問題、前世の警察にあたる警備隊の介入は、限定的なものだった。つまりあまり助けてはくれない。貴族が逃亡し、残されたヘッドバトラーに借金取りが詰め寄るのは、よくあることだった。ヘッドバトラーならその家の財形を把握しているのだから、何とかしろということだ。
「元ヘッドバトラーだった彼も、最初は主がお金を工面するため、どこかへ行っただけであり、戻って来てくれる──そう考え、借金取りと交渉を行ったそうです。借金返済の猶予を頼み、家財道具や絵画などを屋敷から持ち出そうとするのに、待ったをかけたそうなのですが……」
だがいくら待てど暮らせども主は戻らず。しまいには当時ヘッドバトラーだった彼の家族の前にも、ガラの悪い借金取りが現れるようになった。そこで彼は家族を連れ、アルシャイン国へ逃れることになったのだ。
「借金取りから逃れることができても、貴族の推薦状なくして、再度ヘッドバトラーとして働くことは難しいですよね。それでも養う家族がいるのです。仕事を選ぶことなどできない。墓守りの職に就くことになったそうです」
元はきちんとしたヘッドバトラーだった。つまり良識のある善人ということ。ゆえに駆け落ちをしているエルと私を気の毒に思い、いろいろと助けてくれたという。
「ですが彼自身、裕福なわけではなく、お金にも余裕はありません。そこで逃走にはいい隠れ蓑になる棺、幌馬車や当面の旅に必要になるもの、あの水の革袋なども含め、手配し、売ってくれたのです。しかも昨晩泊まる場所も提供してくれました」
もしエルが一人でいろいろと買い揃えたら、不審がられ、通報されていたかもしれない。でも墓守りが動いてくれることで、疑いの目を掛けられずに済んだのだ。
「なるほど。私は何の因果か墓地に転移してしまったけれど……結果としては正解だったのね?」
「はい。その通りです。そこはさすがお嬢様かと」
そこは確かにラッキーだとは思ったが、ローストヴィルの屋敷から逃走したことで、間違いなく目をつけられてしまったと思う。しかも転移魔法を使える=上級魔法の使い手となる。そして上級魔法を使える人間は、そうごろごろいるわけではない。
性別と年齢の一致。さらに屋敷を手に入れた時期、使える魔法から、住んでいたのは隣国の悪女で間違いないと思われた可能性が高い。そうなるとローストヴィルと似たような都市で屋敷を手に入れ、暮らし始めると、捕らえられるだろう。
一体どうしたらいいのか……。
お読みいただきありがとうございます!
次話は18時頃公開予定です~
【お知らせ】
本作を書くきっかけになったとある作品の番外編がございます!
じゃん。
『 悪役令嬢です。ヒロインがチート過ぎて嫌がらせができません!』
https://ncode.syosetu.com/n4280ji/
今朝更新した番外編「あれを食べたい……!(前編)」を書いていた時に、本作のアイデアが浮かんだのです。そしてこの番外編を書いたのはかなり前ですが、本作の公開をスタートしたので、ようやく更新できました~♪ 気になる方はよかったらご覧くださいませ。本編完結済(一気読みできますよ~)で、これまたラストで驚きの展開が待っています。ボンビー男爵令嬢の下に、目次ページへ遷移するバナー設置済みです☆彡