第三十三話:遅かったわね。見つけたわよ。
「遅かったわね。もうわたくし、見つけたわよ、公爵令嬢を」
一旦別行動し、南部の中心部にあるレモーネ山へと続く街道沿いの休憩所で、ゼノビアと再会。
彼女は閉じた扇子を自身の口元に持ってくると、艶のある笑みを浮かべた。そしてアイゼンバーグ公爵令嬢を見つけたと告げたのだ!
◇
悪女探しは一斉家宅調査で完了するはずだった。
悪女であり、上級魔法を使えても、連れている供は少数。すぐに捕え、国境まで連れて行き、後は追い出して完了……かと思ったが、まさかの逃走を許すことになる。
それは咄嗟に逃げる準備を完璧に行った公爵令嬢にしてやられた形だったが、これは仕方ないと思う。なにせ相手は、ただの公爵令嬢ではなかったのだから。
どんなに才媛でも、高等学院を卒業した程度。しかも逃亡経験があるわけではない。そして公爵令嬢といえば、世慣れしていない深窓の令嬢。どこかおっとりしているものと思っていた。一斉家宅調査ですぐに捕えられると思っていたのだ。
ところがアイゼンバーグ公爵令嬢は、一味違っていた。
いつでも逃亡できる準備をしており、自ら料理を作り、護衛騎士とはただの主従関係ではない可能性もあった。ゼノビアが追うのが楽しくなると言っていたように、どこかつかみどころがなく、不思議な魅力を持っているのだ。自分もそこに、興味を引かれている。
だが姿を消した公爵令嬢を追うのは、当初予定になかったこと。
さらに首都へ上級魔法の使い手であるジョーンズ氏を送り届けた際、いろいろと頼まれ事もされてしまう。それらをこなすことで、ゼノビアとの合流が想定より遅れた。するとその間に既に公爵令嬢をゼノビアが見つけたと言うのだ。
「一応、見つけたことを報告した方がいいでしょう? だから見失わないようにして、様子を見るつもりだったわ。でもね……」
ここではない別の休憩所で公爵令嬢を見つけた時、彼女は護衛の騎士と共に、熱心に料理をしていたという。どうやら魔法を使い、道具を揃え、何か試作品を作っている様子。
「とても美味しそうな香りがするスープと、“メン”というものを作っていたわ。あとニタマゴとかいう茹で卵のようなものも。料理をしている二人はなんというかお友達、って感じよね。二人ともまだ若いし、年齢も近い。……恋愛感情は……どうなのかしら? 少なくとも公爵令嬢は、護衛騎士を仲間であり、友のように見ているけれど、恋愛対象に見ているようには思えなかったわ」
そこはチープな三文オペラのような関係ではないことに、少し安堵する。まんまと自分を出し抜いた令嬢なのだ。そこは気高くあって欲しいと、なぜだか思ってしまう。
「そうやって作ったニタマゴを味見している二人は……とても美味しそうだったわよ。東方の料理らしいけど、どうやら公爵令嬢は妃教育の合間の息抜きで、料理本を読んでいたみたい。そしてその美味しそうな香りにひかれ、酔っ払いが公爵令嬢に絡んできたの。丁度、護衛の騎士が湯浴びに行っている時にね」
その酔っ払いは地元の成金男爵で、貴族に憧れフロックコートなど着ているが、その言動は貴族に程遠い。公爵令嬢のお尻に触ろうとしたり、馬車に連れ込もうとして、あっさり「お断り」されている。
「休憩所や宿場町を夜な夜な訪れては、女性に悪さをしていたみたいなのね、その二人組の酔っ払いは。公爵令嬢のことも簡単に物に出来ると思ったら、断られて逆上した。そして手をあげようとしたのよ、公爵令嬢に対して」
「何……?」と問いながら、片眉をあげる。
「魔法を使えるのだから、手助けはいらなかったかもしれない。でもわたくしが個人的に頭に来ちゃったのよ、その酔っ払いに。だからなるべく姿を見られないようにして、大男の方のお相手をしておいたわ」
これに関しては「よくやった」とばかりに微笑むことになる。
女性に見境なく手を出すこともそうだが、手を挙げ、暴力を振るうことは……実に許し難い。
「それでその酔っ払いどもの始末は?」
「警備隊に連絡して、私からきつい刑を言い渡しておいたわ。犯行現場を目撃しているのだから、当然よね? あとは警備隊には口止めしておいたわ。公爵令嬢達に、わたくしのことを言わないように」
「きつい刑……? 生ぬるいな。切り捨ててもよかったのでは? 『即日即罰権』を持つのだから」
即日即罰権はゼノビアが持つ特権。自身の判断で刑罰をその場で与えることが許されていた。それは例え死罪でも。ただし無実の罪や間違った判断だった場合、自身の下した罰と同等の罪を負うことになる。だが酔っ払いの男は余罪が多数あるというのだ。死罪でもいいのではと思ったが……。
「生ぬるい……なんてことはないと思うわよ。だって生き地獄の方が長い間、後悔の念にさいなまれることになるでしょう? 子孫を残せない体にしておいたから、トラウマと共に、贖罪の日々を送ると思うわよ」
忘れていたわけではない。ゼノビアは女性や子供などの弱者に対する犯罪に手厳しかった。彼女の前で暴力と悪事を働いたのが、その二人の男の悪運が尽きる事態につながったと思う。
「訂正する。いい刑だ。それで公爵令嬢は?」
「今は下のレストランで食事をしているわよ。あ、そうそう。彼女、子連れになったから」
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