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妄想9 枕

「あ、アサミさん?」


「一緒に寝れないんだ⋯」



なんでそんなに落胆しているのだろうか。


一緒に寝る予定だったのか?



「見張りが居ないと危ないからな。俺が寝てる時に何かあったらすぐ起こしてくれれば何とかなるんじゃないかと思う。アサミさんには負担をかけてしまうけど、おれも一睡もしないのは無理だと思うから」


「⋯⋯⋯⋯うん」


「朝起きてから、川の流れに沿って歩いてみようと思う。下流に行く方が人里があるかもしれないから」


「⋯⋯⋯⋯わかった」



なんでこんなに元気がないんだろうか。


⋯⋯⋯そりゃあ不安だもんな。


陰キャの俺にしがみついてないと正気を保ってられないのかもしれない。



「アサミさん、不安しかない思うけど、頑張って乗り切ろう」



俺はアサミさんの目を見て言った。



「そして⋯そして生きて帰ろう!」



帰る方法なんて分からない、だけど希望を持ったっていいじゃないか。


人の目を見てこんなこと言うなんて、今の状況になるまでできると思わなかった。


だけど俺はこの子を、アサミさんを無事に帰すんだ!



「うん⋯うんっ!ありがとうタロウくんっ!」



良かった、声も表情も元気になってくれた。


この子の笑顔を守れるのは俺だけなんだ。






「なんか眠くなってきちゃった⋯」



焚き火の前で寄り添って過ごしていると、不意にアサミさんが欠伸をした。


もう真っ暗だもんな。


色々ありすぎたから、肉体的にも精神的にも疲れてるのは当然だ。


俺も正直かなり眠いし疲れている。



「寝ていいよ、こんな地べたで寝るなんてしたことないだろうけど⋯」


「うん⋯⋯⋯⋯」


「何時間で起こすか。俺の限界が来たら起こそうか」


「ね、タロウくん」


「ん?どうした?」


「横になっていい?」


「ん?ああ、もちろんだ。枕も布団もないけど、身体を横にするのは大切だからな」


「うん、ありがとう」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「おやすみタロウくん⋯⋯」



⋯⋯⋯⋯⋯は?


俺は胡座をかいている。


アサミさんの頭は俺の太腿の上だ。


これは⋯⋯⋯まさか⋯⋯⋯


太腿なのに膝という、膝ピロー、もとい、二ー枕、いや違う、落ち着け!


これは膝枕と呼ばれるやつ!


おかしい。


俺の知ってる二ー枕は立場が逆なのが通常ではなかっただろうか。


しかも体の向きだ。


これも俺の知ってる膝ピローではない。


だってこっち向いてるんだ。


上向いてるとか、背中を向けてるとかじゃない。


俺の方を向いて横になっているんだ。


正解の寝方なんてないのは理解できるが、この向きは反則ではないだろうか。



「じーーーーーー」



思考の海の遭難中に、そんな声で現実へと帰還した。


見てます。


アサミさんが見てます。


チラッと目線を向けて、じーって言いながら見てます。


なんでこの子は擬態語を自分で言うのだろうか。


ただただ可愛いだけだからやめてくれないだろうか。



「ど、どうした?寝れない?」


「じーーーーーーー」


「ど、どうした?」


「んーーーーー」


「んー?」


「ねえ、タロウくん。私ね、待ってるの」


「う、うん」


「じーーーーーーー」



待ってる⋯


待つ⋯


な、何をだ⋯


童貞、彼女いない歴年齢な俺には難しすぎやしませんか?


ここは聞いてみるか?


いや、ダメだ。


ここで聞くのは悪手。


そんな気がする。


正解を自力で導き出すんだ。



「タロウくん、まだ?」


「わ、わかった」



くぅぅぅうう!


分かるわけなかろう!


エロ漫画か?これはエロ漫画なのか?


やるよ?やっちゃうよ?


俺の方向いて寝てるってそゆことだよね?


出すよ?俺のマグナム出しちゃうよ?


知ってる?


君のせいで俺の弾倉は満杯どころか溢れてるよ?


膝枕なんてされなければ、アサミさんが寝入った後に自家発電する予定だったのに!


なんでこうなるんだ。


くそっ、誰か、誰か俺に正解を教えてくれ!


こういう時の女子は何を求めてるんでしょうか。


モテ男くん、または世の女子の皆様、俺に正解を教えてプリーズ!



「じーーーーー」


「うっ⋯」


「ね、まだ?」


「は、はい!」



くっ、思考することさえ許されない。


俺の女神は待ちくたびれている。


ああああああああああああ!


今にも叫びそうなほど大混乱だ。


ちくしょう!


思考がえろ1色だ。


だが絶対にそれは違う。


違うと言ってくれ!


そうじゃなかったら⋯⋯⋯⋯


誰もいない。


2人きり。


多分異世界。


合意が無くやっても捕まらない。


ん?これは⋯


あ⋯⋯⋯いやいや、ナシだわ!


馬鹿野郎!


邪念を捨てろ、煩悩退散!



「頭⋯⋯⋯⋯撫でて?」



結局答えは言われてしまいました。


思考の荒波に囚われ、大遭難していた俺は震える手を何とか押さえつけ、太腿の上のアサミさんの頭をゆっくりと撫でる。


さっきとは違う。


1度だけでなく何度も何度も。



「えへへ、嬉しい。やっとしてくれた」


「ご、ごめん気付かなくて」


「いいよ、でもたくさんして?」


「は、はい!」


「安心するよタロウくん⋯寝ちゃいそ⋯」



は、ははは、ゆっくり寝てくれ⋯


はぁ。


自家発電し損ねた⋯



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