妄想5 釣竿と言いなさい
「ねぇタロウくん、何か聞こえない?」
「何かって⋯?」
スマホの時計はもう16時だった。
もうすぐ日が暮れようとしてる時にアサミさんが何かに気付いた。
「ほら、なんか流れるような音が⋯」
「聞こえないよ⋯」
言われたので俺も耳を澄まし集中してみる。
だけど何も聞こえない。
「あっちだよ!行こう!」
「え、ちょっと⋯」
グイグイと俺を引っ張りアサミさんは先へと進む。
しばらくそうして進むと俺にもせせらぎのような音が聞こえてきた。
「アサミさん、俺にも聞こえてきたよ!この音は!」
「うん!絶対川の音だよ!」
俺もアサミさんも川と確信し足取りが軽くなる。
音のする方へぐんぐん進んでいく。
「ほら、あそこ!川だよ!」
「そうだ!あれは絶対に川だ!」
木々を抜けると開けた場所に出た。
そこにはとても水の色が透き通った川が流れている。
「やったやった!あったね!」
「凄いねアサミさん、よく気付いた」
「えへへ、もっと褒めて⋯いいんだよ?」
くぅぅぅ、可愛い!
撫でたい!頭を撫で回したい!
『頭撫でて欲しいなぁ』なんて可愛く言ってくれたら⋯
そうしたらとことん撫でるのに!
絹のように滑らかなその髪に触れさせてくれ!
「頭撫でて欲しいなぁ⋯ちら?」
ぐはっっっっ!
ちらって自分で言いおった!
なんなんだこの生き物は!
天使?いや違う!
この子は女神だ⋯
「あ、あはは、撫で⋯?え?ほんと?」
「待ってるんだけどなぁ⋯まだかなぁ」
「え、えっと、ま、ままま、待って、ちょっと待ってくれよ」
どゆこと?本当に?
撫でていいの?どうすんの?
まさか本当に撫でてなんて言うと思ってないから心の準備が出来てない!
「あ、ありがとうアサミさん、アサミさんのおかげだ」
俺はたどたどしい手つきでそっと頭頂部に手を置いた。
置いたはいいがどうしよう⋯
ここから後頭部にかけて手をスライドさせるのか?
え、本当にどうするの?
ねえ、誰か教えて!
くそ、ここでサラッとやらないとダメなのに手が動かない。
ぬぉぉおおお!動け俺の手!
「ふぁぁ⋯ありがとうタロウくんっ」
俺はやっとの思いでアサミさんの頭頂部から側頭部にかけて手をスライドさせた。
それだけで精一杯だった。
こんなのが頭を撫でたと言うのだろうか。
こんなの童貞の俺には無理すぎる。
「と、とにかく、ここから魚を探してみないとだ」
俺は激しく鼓動を繰り返す心臓の音を気取られないように話題を変えてみる。
「そうだよね、でも魚いるかな。それに竿とかもないのに大丈夫?」
「⋯⋯⋯釣竿も網もないな。素手で取れるわけないだろうし⋯」
川を目の前にするが途方に暮れる俺達。
「竿が欲しいよね」
「⋯⋯⋯そうだな、釣竿がほしい」
「立派な竿なんてどこかにあったりしないかなぁ」
「⋯⋯⋯あったらいいな、立派なやつ」
「私、竿なんて持ったことない!」
やっぱりわざとだろ!
なんで竿って言うんだ!
釣をつけてくれ!
年頃の女の子が竿竿連呼するんじゃない!
釣竿って言わないとだめなの!
竿って言うとアレのことになるからやめてくれ!
なんだよ立派な竿て。
くそ!俺の竿を立派にしてやろうか?
⋯⋯⋯ごめんなさい、嘘です。
「ここも魔法だよタロウくん!」
「え?魔法?」
しばらく川を2人で眺めていると、アサミさんがそう言い出した。
「川の中に魚は泳いでるから、魔法で取れるんじゃないかなって!」
「な、なるほどな、だけどどうやればいいか⋯」
「うーん、そうだよね、私も魔法でとは言ったけど、どうやればいいか思いつかないよ。ごめんね、全部タロウくんに頼ったりして」
んなっっっ、そんなあからさまにションボリしないでくれないだろうか。
なんてダメな男なんだ俺は!
女神に不快な思いをさせたらダメだろ!
考えろ、考えるんだタロウ!
「そうか!分かったそアサミさん!」
「え?ほんと?」
「うん、見ててくれアサミさん」
川べりに立ち、俺は川の中に魔法を放つ。
「ヴォルテック!」
雷魔法だ。
これで魚を痺れさせれば浮いてくると思うんだ。
俺の魔法の掛け声と共に雷撃が川の中に放たれる。
掌から射出された雷撃は、一気に川の中を伝播した。
「これは、雷魔法だよね?水の中だから雷は⋯すごいタロウくん!よく思いついたね!」
アサミさんが興奮していると、大小様々な魚が何匹も浮いてきている。
「やった、成功だ!」
「すごいすごい!もう驚きっぱなしだよ!」
「このままじゃ流されちゃうから直ぐに取りにいかないと!」
「え?」
「アサミさん、あっち向いてて!」
「え?ちょっ⋯え?」
俺は急いで上着を全部脱ぐ。
「きゃっ!」
急がないと!
俺はズボンも下ろした。
「なんでタロウくんっ」
「あ、アサミさん、見ないでくれると助かる!」
靴も靴下も脱ぎ捨て、俺は川へと飛び込んだ。
パンツも濡れるのは嫌だが、ここは我慢して行くしかない!
また何も考えずに飛び込んだけど、足の着く深さで良かった⋯
俺は浮かんでいる魚を掴んでは岸へと投げていく。
なんか見た目がいつも見ている物と違うが、気にしている場合じゃない。
10匹ほど投げて俺は岸へと上がった。
「お、おかえりタロウくん」
「ただいまアサミ⋯さ⋯ん?」
み、みみみ、見られてるうううう!
そして服が畳まれてるうううう!
「な、ななな、なんで見てるのアサミさん!見ないでって言ったのに!」
こんな貧相な身体なんか見られたくないのに!
「ふあああ、タロウくんの⋯すごい⋯男の人の裸を生で見ちゃった⋯」
「汚いから見ちゃダメ!」
「汚くないよ!大丈夫!ありがとう!」
なんだよありがとうって!
大丈夫って俺が大丈夫じゃないよ!
なんて恥ずかしいんだ⋯
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