妄想43 無いなら作ればいい
見るんじゃなかった。
俺はなんて迂闊なんだろうか。
女性の声と分かっていただろう。
普通の男性ならば、振り向いたらそこはユートピアが広がっていただろう。
だが俺にとってはディストピアだった。
眼福、確かに眼福だろう。
すんごいんだ。
どんだけでかいんだろうかと言うほどの胸をお持ちだった。
そして服装だ。
それはアリなのか?
見えそうなんだ。
直視しなくてもチラッとでも視界に入ったらもうダメなんだ。
「店員さんですか?」
珍しくアサミさんから声を掛けた。
いつもは俺が対応するんだがどうしたんだろうか。
「私はこの店の店主で鍛冶師だ、お嬢ちゃんは冒険者だろ?見たところG級の駆け出しなんじゃないのか?」
「いえいえ、この間E級になりました!」
「ほう、凄いじゃないか、得意な武器はなんなんだ?」
「私は全然戦えないんです、全部こっちのタロウくんが戦ってくれているのです」
「それじゃあそっちのボクちゃんが武器を欲しいのか?」
ボクちゃん⋯初めて言われたな。
この人からしたら俺はガキンチョにしか見えないのだろう。
「いえいえ、俺は魔法が専門でして」
「お前ら何をしにここに来たんだ?冷やかしか?」
「違います!私も戦えるようになりたくて、私にも使える武器を探しに来たんです!タロウくんに頼りっぱなしなのが辛くて、私もタロウくんの助けになりたくて⋯だから欲しいんです!」
「見た目より熱い女の子じゃないか。私はそういう子が大好きなんだ。よし、私がお前に合う武器を一緒に見つけてあげようじゃないか」
何やら女同士の友情的なのが芽生えた瞬間か?
「ありがとうございます!」
「ついてきな、まずはお前に何が合うか見つけてみようじゃないか」
「はいっ!」
俺は必要なさそうだな。
クゥちゃんと戯れてるか。
アサミさんはとんでも爆弾を胸に装備している店主と奥に消えていった。
クゥちゃんと戯れながらも店内の武器を見て回る。
俺も男だからな、武器に憧れることもあった。
好きだったなぁ、初代ガン○ム。
ビームサーベルが特に好きだった。
あの色と形状がなんとも言えない。
売ってないかなビームサーベル⋯
待てよ?
あれはビームなんだ。
魔法で再現出来ないか?
柄があった方がそれっぽいよな。
でも柄だけなんて置いてあるわけない。
近くにあったナイフを手に取る。
これを柄に見立ててみようか。
ビームっぽい魔法ってなんだろうか。
光線か?
光を射出してその場に留める。
むずくね?
出したら飛んでくからなぁ。
試しに外に出た。
空に向かってナイフを突き上げる。
そしてそこから光線を射出させる。
さながらラストシューティングだ。
うーん、カッコイイ。
でもこんなのするくらいならハイドロスラッシュで終わりなんだよなぁ。
水魔法に耐性がある魔物には通用するか。
そう考えると魔法耐性がある敵もいるかもしれないよな。
その時の対抗手段を得ておかなければならないだろう。
やはり俺も武器を使えるようにならないとじゃないか?
結局ビームサーベルを魔法で再現しても、それは魔法だからなぁ。
「クゥちゃんは魔法は使えるのか?魔物だって魔法を使うのもいるだろう?」
『ガウガウッ!ガウ!ガウガウッ!』
うんうん、なになに?
さっぱりわからんな。
こっちの言葉は理解出来てるようだが、クゥちゃんの言葉は俺には理解出来ん。
誰かバウリンガル作ってくれ。
『ガウガウッ!ガアアアアアッ』
びっくりした、なんだよクゥちゃん。
俺の真似でもしたかったのか、上を向いて咆哮を上げ、口から光線のようなものを吐き出した。
『ガウッ!』
私もできるよ、そう言いたいのだろうか。
少しドヤっている。
「ええ、クゥちゃんも魔法できるんか、凄いじゃないか~」
『ガウッ』
そう言いながら撫で回しておく。
だが街中でそんなことしちゃいかんぞ?
被害が出なかったから良かったけどな。
うんうん、お互い気をつけような。
クゥちゃんがこんなこともできるなら、本格的にアサミさんは何もしないで、応援に特化してくれていいんだけどなぁ。
そんなことを思いながらアサミさんの帰りを待っている。
「はぁはぁはぁはぁ⋯⋯⋯」
「剣も槍も弓も斧も短剣もナイフも槌もメイスもなーんも出来ないなアサミは」
私はこの店の店主、ネレイスさんに適正武器を見てもらっている。
何となくわかっていたが、私にはなんの力もなさそう。
こんなんじゃタロウくんの役に立てない。
夜にタロウくんを癒すことしか出来ていない。
夜だけじゃなくて、朝も昼も、24時間タロウくんの役に立ちたい。
何かないの?
私に合うものって⋯⋯⋯
「ネレイスさん、試したいものがあるんです」
「私の知らない武器か?なんだ、言ってみろ」
私は自分が使えそうな武器を提案してみる。
「⋯⋯⋯⋯⋯なるほど、そんな武器は聞いたことないが、面白い。今すぐ試作品を作ってみようじゃないか」




