妄想40 手枷
「またゴブリンがいるな」
「またいるね」
最初のゴブリンとの遭遇から1階層を歩いているが、もう5回もゴブリンとエンカウントしている。
「笑って走ってくるな」
「なんで笑ってるんだろうね」
ウィンドカッターで瞬殺されるゴブリン。
首を跳ねておしまいだ。
笑った顔のまま首が飛ぶ様は中々に不気味だ。
ダンジョンにはトラップや宝箱も出るらしい。
トラップは20階層以降に出るらしい。
落石とか落とし穴とかではなくて、いきなり転移魔法陣が現れて、強制的に転移させられるそうだ。
それ以外の情報は無い。
なぜなら転移された人が戻って来たことは無いからだそうだ。
俺はそのトラップが異世界転移の魔法陣なのではないかと思っている。
どこの世界に行くか、アサミさんと一緒にいけるのか分からないのでトラップにはかかりたくはないな。
「あ、またゴブリンだ」
「どのゴブリンも楽しそう」
めっちゃ笑ってるもんな。
笑いながら死ねるなんて最高じゃないか。
相変わらず笑って走ってきてはそのまま首を跳ねられるゴブリン。
ゴブリンはG級の魔物だから魔石の1つは大した額にはならないが、この調子で出てきてくれるなら孤児院の依頼よりは稼げるな。
低階層は迷路のようになっていたり分岐路がたくさんある訳では無いのでサクサク進める。
2階層への階段があったので降りてみる。
地下に行く階層になってるそうだ。
2階層からは複数のゴブリンが出るようになった。
「2体のゴブリンだな」
「2体とも笑ってるね」
2階だから2体なのか?
とりあえず楽しそうだなゴブリンは。
楽しそうだから魔石に変えておく。
こいつらはドMなんだろうか。
魔石に変えられるのが嬉しくてしょうがない、そんな魔物なんだろう。
ならばと、お望み通り、出てくる楽しそうなゴブリンの首を飛ばしていく。
2階層、3階層と順調に進んでいく。
もちろん楽しそうなゴブリン達しか出てこない。
なんだか俺も楽しくなってくるな。
「ゴブリンが笑ってるからたのしくなってくるが、そろそろ飽きたな」
「40は倒してるよタロウくん」
G級の魔石1個が200Gだから8000Gか。
これまでで一番の稼ぎだな。
「俺達は5階層までしか許されてないから、そこまで行ってみよう」
「まだ2時間しか居ないもんね」
朝から来ているからな。
これなら今日も孤児院に行けるかもしれない。
この世界に来て体力もついたから、この程度じゃ疲れることは無い。
5階層毎にボスがいるらしい。
4階層も順調にゴブリンを倒していく。
5階層のボスを倒せたら帰ろうかと思っている。
さしたるトラブルなど起こるはずもなく俺達は5階層のボス戦へ。
5階層へ向かう階段を降りると、そこには扉がある。
そこを開けるとボスとの戦闘が始まるようだ。
低階層は逃げることもできるが、高階層では逃げれなくなるそうだ。
扉を開けてボス部屋へと入る。
目の前にいたのは⋯⋯⋯⋯
少し大きめのゴブリンだった。
「こいつがボスか」
「ボスも笑ってるね」
ゴブリンと言えば小さいが、このゴブリンはふた周りほど大きい。
だが俺よりは全然小さい。
アサミさんよりも小さいんじゃなかろうか。
ボスゴブリンはゴブリンを5体従えているようだ。
皆一様に笑っている。
うんうん、とても楽しそうだ。
右のやつなんて腹抱えてるもんな。
ボスゴブリンは棍棒を持っている。
棍棒を振り下ろした。
突撃の合図なのだろう。
5体のゴブリンが走ってきた。
もちろん笑いながらだ。
「笑ってるな」
「うん、何がそんなに楽しいんだろうね」
もう面倒くさくなってきたな。
ハイドロスラッシュを長めに出し、全員バックリと真っ二つにしてやる。
出力を上げすぎたのだろう。
ボスゴブリンもバックリ真っ二つだ。
ボスを倒すと宝箱が出てくる。
そういう仕組みだそうだ。
「これが宝箱だな」
「何が入ってるのかワクワクするね」
そうは言っても低階層だ。
貴重な物が出る可能性は低いだろう。
出るようなら高階層に挑む必要なんてないしな。
「タロウくん、開けてみてっ」
「何が出るかな」
俺はガバッと開けてみる。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「タロウくん、何が入ってたの?」
なんだこれは。
手錠だよなこれは。
警察が持ってるようなやつじゃない。
言わば手枷だ。
木の枠で手首を嵌め込むやつ。
これをどうしろと?
俺が答えないでいるとアサミさんが覗き込んできた。
「なにこれ?⋯⋯⋯⋯あっ、手錠みたいなやつ?なんでこんなの出てくるんだろ?でも初めての宝箱から出た物だし持って帰ろっ」
アサミさんがそう言うなら持って帰ってもいいか。
使い所なんてないしな。
ボスを倒すと1階層に戻れる魔法陣が出てくる。
それに乗り俺達は冒険者ギルドに戻り魔石を換金した。
「おめでとうございます。冒険者カードも更新しておきました。F級になっても頑張ってくださいね」
メイリーさんにお祝いの言葉を頂き、そのまま孤児院へ行き、子供達と遊ぶ。
そして宿に戻った。
そろそろ寝るか、そんな時だった。
「今日もお疲れ様タロウくんっ」
「ああ、ありがとうアサミさん。アサミさんもお疲れ様だ」
何故かアサミさんの手には、宝箱から出た手枷が握られていた。
手枷の使い所はすぐ来たようです。
「次の宝箱からは足枷も出るかもねっ」
笑顔が眩しいっす!
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