妄想32 正座
強く抱き締めた。
アサミさんが震えている。
アサミさんが泣いている。
アサミさんが傷ついている。
俺にアサミさんを抱きしめる資格があるのだろうか。
でも抱きしめたかった。
「タロウくん⋯ごめんなさい⋯ごめんなさい⋯ごめんなさい⋯」
なんでアサミさんが謝らなきゃいけないんだろうか。
悪いのは全部俺なのに。
分からない。
アサミさんが悪いのか?俺が悪いのか?
お互い何に謝っているんだろうか。
「アサミさん、俺はここに居ることは何も後悔してないんだ。だから謝らないで欲しい」
「なんでなの!おかしいよ!だってもう帰れないかもしれないんだよ!」
「うん、帰れない可能性の方が高いよな」
「もう二度と家族にも会えないんだよ!」
「そうだな。だとしても後悔してない」
「うわあああああああん」
ずっと心細かったんだろう。
こんな何も無い世界に来てしまったんだもんな。
「ごめんアサミさん⋯⋯⋯⋯」
「なんでタロウくんが謝るの!それも変だよ!」
「いや、その、それは⋯アサミさんを傷つけたから、怖い思いをさせたから⋯」
「それこそ勘違いだよ!傷ついてない!タロウくんには感謝しかしてないもん!生きてるのも、1人で居ても心細くないのもタロウくんのおかげだもん!」
「じゃあ、なんで泣いて⋯⋯⋯」
「だってタロウくんが傷ついてるんだもん!私のせいでこんな⋯⋯⋯」
ああ、そういえば人殺しになってるな。
アサミさんを守れたからそれはそれでいい。
「その事は俺は後悔してない。アサミさんを守れたから。アサミさんが泣いてるから、アサミさんの目の前であんなことしたから、アサミさんの心が傷ついたと思って後悔してて⋯」
「え?私のことを思って謝ってくれてた⋯の?」
「うん、あとはその、破廉恥なことをしたことも⋯」
「どっちも平気⋯だもん⋯」
ということは?
「え?じゃあ⋯2人とも勘違いして、見当違いな事で謝ってる⋯のか?」
「そう⋯なるね⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「1回地下に行かない?」
「うん、そうしよっか⋯」
俺はいそいそと地下空間を作った。
そして入る。
何故か正座になる。
アサミさんも何故か正座している。
クゥちゃんは隅で寝てた。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「えっと⋯⋯⋯」
「う、うん⋯⋯」
何を話していいか分からない。
落ち着くためにここに来たはいいが⋯
「あ、あのさ、一応聞いておきたいんだけど⋯⋯⋯⋯」
「う、うん」
「俺ってアサミさんに嫌われて⋯⋯ない?」
「嫌う理由がないもん⋯⋯」
な、なんですと?
あんなことをしたのに⋯⋯⋯
思い出しただけでゾッとするんだけど、いやいや、あれはダメだろ。
上に乗らせてたぞ?
しかもなんだよあの口調。
思い出しただけでキツいんですが⋯
「結構⋯いや、大分酷いことしたような⋯」
「全然⋯だよ?嬉しかったし⋯」
な、なんですと?
本当に嬉しかったのか。
1人でしてるのか、とか聞いたような⋯
うがああああああああ!
何聞いてんだ俺は!
辱めを与えているではないか!
ばか!俺のバカ!
くぅぅぅ、夢と思ってた俺のバカ!
でも嫌われてない。
それが信じられない。
まさかこれこそが夢?
いや、夢とか妄想とかに逃げるな。
全て受け止めろ。
そうしなかったがために、アサミさんを危険に晒してしまったんだ。
「タロウくんは⋯⋯⋯」
「うん、なに?」
「タロウくんは⋯タロウくんこそ、私のこと恨んでないの?」
「うん、これっぽっちも」
「ほ、本当に?」
「うん、本当に」
後悔する要素がない。
マイヴィーナス、女神の為ならたとえ火の中水の中。
「もっとちゃんと話さないとだね」
「そうかもしれない」
「無意識に話題を避けてた気がするの」
「現実を直視出来ないもんな」
「うん⋯タロウくんがいるけど、やっぱり元の生活に、日本に帰りたい気持ちもあるから⋯⋯⋯」
そりゃあ俺だってゼロではない。
「でもねアサミさん。戻ってもアサミさんが居なかったら嫌なんだ」
「⋯⋯え?」
「だから後先考えずにアサミさんを助けに来たんだと思う」
「そう⋯なの?」
「行かない選択肢だってあったんだ。でも悩むことなく飛び込んだんだ」
「うん⋯⋯⋯ありがと⋯」
あの時も何を考えてたんだろうな。
本当に迷いなんてなかった。
「すぐに魔物との戦闘になって、助けることができて、思ったんだ」
「どんなことを?」
「アサミさんを守ろうって」
「⋯⋯⋯⋯⋯嬉しい」
「なのにさっき危ない目に会わせたから申し訳なくて⋯俺がしっかりしてればって」
「でも助けてくれた⋯ありがとう」
「なんか疲れたからさ、今日はここでゴロゴロして過ごして、移動するのは明日から頑張らないか?」
「うん、私もそれがいいと思う⋯」
「朝みたいなことは、もうしないから!」
「⋯⋯⋯⋯え?なんで?」
「いや、俺みたいなキモイ男にあんなことされたら嫌かなって⋯⋯⋯」
「タロウくんはキモくない!かっこいいもん!」
「⋯⋯⋯⋯⋯へ?」
「タロウくんだから私もしたいんだもん!」
私もしたい⋯⋯⋯だと?
「えっと⋯じゃあ⋯⋯また一緒に⋯⋯」
「うんっ!一緒にしよっ!」
⋯⋯⋯⋯本当に夢じゃないのか?
正座しながらなんの話しをしてるんだ⋯
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