妄想3 魔法は誰でも使える?
「もしかしてタロウくん?また魔法?すごいすごい!うさぎの足元が凍ってる!」
「う、うん、上手くいって良かった。」
妄想したことが本当に現実になっているな。
次は風の刃とかやってみるか。
「アサミさん、あのうさぎを風の刃で斬ってみるから、後ろを向いててくれると嬉しいな。あんまり見たくないだろう?」
「え、そんなことを⋯でも魔物かもしれないもんね⋯わかった、後ろ向いてるね。」
アサミさんが顔だけ後ろに向けた。
だから柔らかい2つのものは俺の腕にバッチリ収まっている。
いや、俺の腕が収まってるのか。
そんなことはいい。
また妄想してみよう。
うさぎを切り裂くような風の刃を出すんだ。
腕を降ったらズバッと鋭い風の刃を出すんだ!
ウインドカッター!
俺は腕を横凪に振るった。
俺の腕が描いた軌跡の通りに刃が飛び出した。
白い線がうさぎに向かって飛翔する。
一瞬だった。
放ったと思ったらうさぎは胴が真っ二つになっていた。
『ぎゃあああああ!』
断末魔を上げるうさぎ。
血が飛び散ることはなく、黒い煙となって霧散した。
「ひっ!」
「アサミさん、大丈夫だよ。うさぎは消えてなくなった。それにうさぎはあんな鳴き声にならないだろうから、やっぱり魔物なんだと思う。血は出ないし黒い煙も出ていたからね」
アサミさんは恐る恐るうさぎが居た方を向いた。
「本当に居なくなってる⋯すごい!本当にタロウくんは魔法使いなのね!」
興奮しているのか密着度が増す。
もうダメだ、マイサンが目覚めてしまう。
「ねぇ、タロウくんは想像したら魔法が出たって言ってたよね?私もできるのかな?」
「⋯どうだろう。もしかしたら出来るかもしれないし、やってみたらいいんじゃないかな?」
「うん!やってみる!」
勝手にお淑やかないイメージをしていたが、元気な子なんだな。
そこがまた可愛く見えてしまう。
アサミさんは黒髪でセミロング。
身長は150cmくらいで小柄だ。
俺は身長は高く180cmある。
小さい手で拳を握り、気合いを入れるアサミさん。
「タロウくんはウィンドカッターってやってたよね⋯私もそれやる!」
手を前に翳し魔法名を叫ぶアサミさん。
「ウィンドカッター!」
⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯
⋯⋯
⋯
「あ、アサミ⋯さん?」
手を翳したまま時が止まったかのように静止している。
「さ、行こうかタロウくん!」
何事も無かったかのような俺の手を取り進み出した。
分かった。
何も聞くまい。
そう、何も無かったんだ。
「戦闘はタロウくんに任せるね!」
「う、うん、がんばるよ」
手を繋いでくれたからそれでいい。
君の手は魔物だろうと汚しちゃいけないんだ。
もう俺の手を握った事で汚れてるのかもしれないけどさ⋯
うう、悲しい。
「あ、またあのウサギだ。タロウくん、お願い」
「また出てきたな、アサミさんまた後ろを向いててくれ」
「大丈夫!タロウくんの魔法見てたいから!」
そ、そんなキラキラした目で上目遣いをしないでくれないだろうか⋯
ダメだ、下半身が反応してしまう。
魔法どころじゃない。
違う妄想をしてしまいそうだ⋯
死ぬ可能性もあるんだから集中しろ!
「くらえ!ウィンドカッター!」
先程と同様に腕を振り風の刃を繰り出す。
不可視の刃は見事にウサギのような魔物の首を斬り裂いた。
「わわ、すごいすごい!」
わわ、そんな密着しないでぇえええ!
テンションが上がったのか、より強い力でくっついてくるアサミさん。
柔らかいしいい匂いだし可愛いし女神だし、俺の精神が死ぬ!
「あ、あの、もう大丈夫だから、このまま進もう」
「うん、タロウくんが居れば安心だもんね!本当に良かったぁ」
俺とアサミさんは鬱蒼と草木が生い茂る森の中をひたすらに歩いている。
2人ともカバンの中に飲み物を入れていたので多少のしのぎにはなったが、それも心許ない。
ここから元の場所に戻れる保証なんてあるか分からない。
衣食住の確保が先決なのだろうか⋯
それともひたすらに歩いて人里を探すべきか。
「アサミさん、かれこれ2時間は歩いているから少し休もう」
「うん、そうだね」
スマホは電池はあるが使えない。
時計を見ると11時を回っていた。
8時30分に駐輪場に着いたからな。
「アサミさん、大事なことだから聞いて欲しい」
「うん?どうしたの?」
俺たちは休めそうな岩場があったので隣合って座っている。
ピッタリとくっついているのは気にしないでおく。
⋯⋯⋯⋯いや、やっぱり無理だ。
だって腕組まれてるもん。
怖いから、不安だから、ただそれだけの事だと思っておこう。
だが無理だ。
マイサンが動き出そうと今か今かと待ち構えている。
「ここから元の場所に帰れる方法を探すのは今すぐは難しいかもしれない」
「そうなんだ⋯タロウくんが言うからそうなのかも⋯」
「この世界は異世界と呼ばれるところなのかもしれない。なんせ魔物みたいなのもいれば、俺が魔法を使えるしね」
「うん、びっくりだよね」
「食料もなければ水分もない。下手したらこの世界の人を探す前に俺たちが死ぬ可能性だってあるんだ」
「えっ⋯⋯⋯⋯そ、そうだよね⋯⋯どうしようタロウくん」
「いつこの森から出られるか分からない、人が居る世界なのかも分からない。だから生き抜くためにやらないといけないのが、水と食料の確保になると思うんだ」
「うん、大事なことだよね」
「まずは川を探してみようかと思う。少し休憩してから、また歩いて探すしかないと思うんだ。それでいいかな?」
「分かった、タロウくんに従うよ!」
不安だろうになんて素敵な笑顔なんだろうか。
この子の笑顔を守るために頑張ろう。
ただ、もう少し離れて頂けませんかね⋯
はぁ、早く1人きりになって、アレしたい。
面白いと一欠片でも思って頂けたなら、お手数ですがブクマと星評価をよろしくお願いいたします。
特に星評価をもらえると最高に喜びます。




