妄想23 最初は痛い
「これは大きいな⋯」
「タロウくんのこれ、大きいね」
『ガウッ』
目の前には6畳程の平屋がある。
もちろん俺の俺では無い。
窓も無ければ入口も無い。
ただの直方体のデカイ箱だ。
「これは硬そうだな⋯」
「タロウくんのこれ、硬いね」
『ガウガウッ』
問題がある。
アサミさんの発言は問題だが、今はそこじゃない。
「これ⋯目立つよな」
「タロウくんの大きいし硬いし目立つね」
『ガウガウッガウッ』
どうしてくれよう。
アサミさんの発言に対しても思うところはあるが、今はそこじゃない。
入口は魔法で開閉が可能だ。
これに入って夜を過ごすのはいい。
だが冒険者パーティのキルバードに見られている。
こんなのあったら異常すぎる。
絶対にスルーしないよな⋯
どうしようかなぁ、どうしたらいいのかなぁ。
うーーーーん⋯⋯⋯⋯⋯ん?
ひ、閃いた!
「そうか!土の中に作ってしまえばいいんじゃないか?」
「え?タロウくんの大きくて硬いのを中に入れるの?」
『ガウガウッガウッガウッ』
言い方ああああああああぁぁぁ
んでさっきからガウガウなんだよクゥちゃんも。
うるせえ!
アサミさんもクゥちゃんもうるせえええんだよおおおおおお
心の声を口に出してぇぇぇぇ
はぁはぁ⋯⋯⋯⋯
入れたろか!
俺の大きくて硬いのを中にぶち込んでやろうか!
くっそおおお、入れてぇ!
「土の中でも似たようなのが作れるか試してみよう」
俺は目の前の直方体の箱を消し去る。
「あっ⋯タロウくんの大きくて硬いのが⋯」
なんだよもおおおおおお
言いたいだけなの?
そうやって言いたいだけ?
やめてくれよもう、逝ってしまうよ。
むしろイかせてくれ。
思う存分本当に死ぬまでイかせてくれ。
赤玉って本当にあるのかな。
今なら出そうな気がする知らんけど。
「よし、やるぞ」
「うん、中でやろっ」
『ガウッ』
無視だ。
アサミさんには申し訳ないが、俺の精神を守るためにシカトしよう。
気にしたら死ぬ。
集中しろタロウ!
地面に手を付き集中する。
しばらくしてから手を離し立ち上がった。
「なんとか出来たかもしれない」
「この中にタロウくんのがあるの?」
⋯⋯⋯⋯無視だ。
「ここに入口を作ってみるか」
「わ、本当に入口だ。ここからタロウくんの中に入るんだね」
⋯⋯⋯⋯俺が開発されちゃう?
無視しろタロウ。
地面から入口を設置し、そこを階段状にして、地下空間に入れるようにしてみた。
「おー、なかなか広いな」
「うんうん、すごいすごいっ!タロウくんの中は快適だねっ」
ほほう、俺の中は快適と⋯
心のメモにしっかり残しておきますね。
⋯⋯ダメだ無視しろタロウ。
スルースキルを身につけるんだ。
「こんなの作れるなら、今日から夜は一緒に寝れるねっ」
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯
⋯⋯
⋯
え?
「ど、え?どうして?どうしてそうなった?」
「だって見張りの必要ないもんねっ!安心して寝れるねっ」
し、ししし、しまったあああああ
肉体的な安全面しか考えておらんかったああああ
俺の精神の安全は全く保たれないじゃないか。
しかも肉体的にも安全なようで安全じゃない。
こんなのひとつ屋根の下ってやつだろ。
やばいやばいやばいやばい⋯
俺がアサミさんをキズ物にしてしまう可能性だってあるじゃないか。
くっっっっ、どうすればいい、どうすりゃいいんだ。
「何が起こるか分からないから、交代制で寝るのは継続した方が⋯」
「そうかな?入口も道のすぐそばじゃなく森の中に作って、空気口だけ確保しておけば大丈夫だよっ」
なんでこんな時だけ建設的な意見を⋯
いや、いつも建設的では無いとは言わないが。
俺の俺を建設するほど大きくしてくれてはいるから、それを建設的ということにしよう。
それならばアサミさんは常に俺には建設的と言えるだろう。
そんなことはどうでもいいんだ。
問題をすげ替えて現実逃避するんじゃない。
「そ、そう⋯⋯だな」
「でもでも、タロウくんの硬くてカチカチだから、慣れるまでは痛いかなぁ」
⋯⋯⋯⋯考えるなタロウ。
「床が硬いから寝るのは大変かもな」
「最初はこんなに硬かったら絶対痛いよね」
⋯⋯⋯⋯惑わされるなタロウ。
アサミさんは俺の息子を見て言っている訳じゃない。
視線は下方向だが決して俺の息子を見ているわけじゃない。
床を見て言っているんだ。
「布団とかないからな、痛いだろうな」
「でも最初は我慢しないとだよね」
⋯⋯⋯⋯何の話をしているんでしょうか。
女子の初体験の痛みなんて男には一生無縁なんです。
違う、硬い床で寝る話なんだ。
アサミワールドに引き込まれるな。
耐えろタロウ。
「でもタロウくんとだから大丈夫っ」
ぐはっっっっ
こんなの引き込まれるに決まっておろう。
もう端折らないでください。
こんな魔法作るんじゃなかった。
来たところをズバッと対処する方が安心安全だったのではなかろうか。
主に俺の精神が。
「と、とりあえず安全な環境は作れそうだから、進めるところまで進もうか」
「うんっ行こ行こ!」
今夜が怖いぜ⋯⋯⋯⋯
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