妄想17 とにかく可愛い
そのまま野営をすることにした。
アサミさんが近くにある枝を集めてきてくれる。
「このくらいしか出来ないから、タロウくんは休んでてね」
せっせと動くアサミさん。
枝の選別をするアサミさん。
虫を見つけて騒いでるアサミさん。
枝をひとつにまとめているアサミさん。
出来たと報告に来るアサミさん。
ふう。
抜きてぇ。
どんな行動も仕草も可愛いんだ。
裸とか下着姿とかそんなんじゃなくてもこれだけでイケる。
女の子ってこんなにも可愛いものなのか?
それともアサミさんが特別なのか?
とりあえず、とにかく可愛い、そういうこと。
「ありがとう、それじゃあ火をつけるな」
「じゃあタロウくん、出してっ」
ぐっっっ、な、何を出せばいいんでしょうか。
端折らず喋ってくれ。
落ち着け、ソッチ方面で考えるな。
落ち着いて考えれば分かるだろう。
そう、魚だ。
食料の準備をする、それだけの事だ。
「さ、魚⋯だよな?今バックから出すよ」
「そう、タロウくんのから出してっ」
くうううう!
俺が言い直したのをまた端折るのはワザととしか思えない。
落ち着け、もう限界だが耐えろ。
心の中で血の涙を流しながら俺は魚を手渡す。
「ありがとうタロウくんっ」
相変わらず魚は美味しかった。
アサミさんは魔物にも食べさせようとしたのか、いつもより多めに作っていた。
「ずっとだと飽きると思ってたけど、まだまだ美味しいな」
「私もそう思ってた。タロウくんと一緒だから美味しいんだねっ」
はい、ギャンかわ。
スマホの電池なんて気にせず連写したい。
連写を見ながら俺も連射したい。
何回出るかな⋯
今なら早撃ちで何発だってイケそうだ。
「この子の分も作ったけど、なかなか起きないね」
「血を失いすぎてたのかもな。今は安静にしててもらうしかない」
「⋯うん。ちゃんと呼吸もしてるし大丈夫だよねっ」
俺は風呂に入れない代わりに汚れを落とす魔法も早々にできるようにしている。
「クリーン」
「本当にこの魔法は便利だよねっ!お風呂は入りたいけど、この魔法のおかげで快適だもんっ」
この魔法は本当に便利だよな。
思ったことがほぼ出来る。
すごい世界だ。
それとも俺がすごいのか?
土魔法とかで家とか出来ちゃったりするのだろうか。
「タロウくんは疲れてるだろうし、先に寝ていいよっ!はい、どうぞっ」
そう言って膝枕をしてくれる。
俺も慣れてきたのか抵抗なくアサミさんに甘えるように膝枕をしてもらう。
「おやすみタロウくん」
「おやすみアサミさん」
仮眠を交互に取り朝を迎える。
魔物が起きてくる様子はなかった。
夜に魔物から襲撃があるかと思ったが、そういうことはなく、無事に朝になった。
「寝不足になってない?」
「ああ、大丈夫。アサミさんもなってないか?」
「うん!タロウくんに膝枕してもらうとぐっすり寝れちゃうの」
俺もそうなんだ。
なぜかぐっすり寝れてしまう。
今も元気いっぱいだ。
朝は果物を食べてゆっくり過ごしている。
「ん?少し動いた?」
魔物を見てみると少し動きがある。
起きるのか?
「え?ほんと?」
魔物が起きた時にアサミさんが危なくならないように、魔物は俺の隣にいる。
顔だけ少し起こし、ゆっくり首を回し辺りを伺っている。
「大丈夫か?と言っても分からないか」
俺は刺激しないように優しく声を掛ける。
この子は何なのだろうか。
魔物なら仲良くなれるとは思わない。
「あ、本当に起きた!もう大丈夫だよ!さっきの強そうな魔物はタロウくんがやっつけてくれたからねっ」
『⋯⋯⋯ガゥ』
声が出るくらい回復したか。
「お前は俺たちに危害を加えるか?だったら戦わないとならない。でも危害を加えないなら見逃してやるから、元いたところに帰るんだ」
「タロウくん⋯そんな⋯」
「アサミさん、魔物にしろ野生動物にしろ、コイツにはコイツの暮らしがあるんだ。俺たちが勝手に連れて行く訳にはいかない。それに魔物なら街に連れて行けないかもしれないからな」
「そ、そうだよね⋯ごめん、タロウくん⋯」
アサミさんは何も悪くない。
くっそう、この魔物め。
アサミさんにこんな表情をさせるなんてどういう了見だ。
成敗してくれようか。
「まだ回復してないんだろう。追加で回復魔法をかけておくからな」
ヒールと唱え、回復魔法を施す。
「元気になったら親元に帰るんだぞ」
魔物の生態系なんて分からないが、この子は子供なんだろう。
親がいる可能性があるからな。
『クゥーーン』
淡く薄い緑色の光に包まれながら、その子は立ち上がった。
そしてそのまま俺の手に甘えたように顔を擦り付ける。
か、かかかかか、か、か、か、⋯
「かわいいいいいっっっ」
アサミさんが叫んだ。
俺のセリフを取らないで⋯
まぁいい。
アサミさんのことはなんでも許そう。
陰キャ童貞には拒否権とかそういうのはないんだ。
「懐いてくれたの?」
「どうなんだろう⋯」
回復魔法をかけ終わってもずっと俺に甘えている。
その子を撫でてあげると、目を細め気持ちよさそうな顔をした。
『クゥーーン、クゥーーン』
「可愛い!私も撫でたい!」
おお、アサミさんが大興奮だ。
しかし大丈夫だろうか⋯
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