妄想15 萌え萌え三三七拍子
ソイツが近づいてくる。
近づく度に嫌な汗と震えが強くなる。
動け、動くんだ。
アサミさんを守るために!
無我夢中だった。
離れろと強く念じた。
掌を広げ手を前に出し、あっちへいけと離れろ、と念じた。
局所的な突風が吹き荒れた。
ソイツにだけ当たる突風だ。
大気との摩擦で切り裂くような音がする。
風速何メートルだったのだろうか、後ろの木々を粉砕しながら10mほど吹っ飛んだ。
「は?どうして吹っ飛んだんだ?」
「い、今のタロウかくんの魔法?」
「そ、そうかも⋯」
俺にも何が何だか分からない。
あれも魔法なのだろうか⋯
「あんな強そうなのまでやっつけちゃったの?」
「いや、まだ生きてそうだ。煙になってないからな⋯」
飛ばされた先を見ると、ソイツは起き上がってきた。
離れててもわかるほど、鬼のような顔がさらに恐ろしい程の憤怒に染まっている。
『ふしゅーふしゅーふしゅーふしゅー!』
先程より呼吸のような音が短く早く大きくなっている。
襲いかかって来るのか?
なんの魔法なら有効なんだ⋯
「タロウくん、ウサギの時みたいに凍らせてみたらどうかな!」
「わ、わかった!」
アサミさんの言う通り、足元を凍らせるように念じる。
「くらえ!アイスフロア!」
『ふしゅーふしゅーふしゅー』
ソイツは一気に駆け出し、俺の魔法が当たらない。
駆け抜けた後の地面が凍りついていた。
「くそっ、やばい!」
「ひいっっっ」
もうソイツは目の前にいた。
眼前で長い腕を振り上げ振り下ろそうとしている。
死ぬ。
あんな鋭利な爪で切り裂かれたら死ぬ。
防がなきゃ防がなきゃ防がなきゃ!
でも目の前にいるソイツへの恐怖心で目を閉じてしまう。
「うおおおおおお!プロテクト!」
金属音のような甲高い音が鳴り響く。
目を開けると、ソイツは弾き返されたのか一瞬自分の手を見て困惑していた。
しかしすぐさま凶悪な爪を振り回してくる。
無我夢中でプロテクトと連呼し防いでいく。
「プロテクト!プロテクト!プロテクト!」
「タロウくん頑張って!」
アサミさんが応援してくれている。
力が湧いてくるようだ。
俺はプロテクトと唱え続けている。
ソイツはなんとしてでも切り裂きたいのか、何度も何度も叩きつけてくる。
「アサミさん、応援ありがとう!なんでも出来うそうな気になってくるよ!」
「タロウくんはなんでもできる!頑張ってタロウくん!フレッフレッタロウ!フレッフレッタロウ!おーー!」
ぐはっっっっ!
こんな緊迫した状況なのに可愛すぎる!
なんなんだこの応援の仕方は。
三三七拍子してくれないかな⋯
学ラン⋯⋯⋯⋯
アサミさんが学ランきて三三七拍子か。
萌えるな。
チラッと俺は後ろを振り向く。
「タ・ロ・ウ!タ・ロ・ウ!ガ・ン・バ・レ・タ・ロ・ウ!」
へ?
「タ・ロ・ウ!タ・ロ・ウ!ガ・ン・バ・レ・タ・ロ・ウ!」
ほへ?
「イケイケタロウ!おーーーー!」
振り付けアリ⋯だと?
なんだよ最後のぴょんぴょん跳ねてるの。
胸まで軽快に跳ねておったわ。
くっそ、動画を撮りてぇ!
あんな萌え萌えな三三七拍子なんか初めて見たぞ!
アサミさんをガン見してたから、魔物なんてシカトしてたわ!
こんのクソ魔物が、お前がいなきゃ三三七拍子してるアサミさんを網膜と言う俺の映写機で脳内に永久保存するほど集中できたのに!
お前なんかぶっ潰してやんよ!
女神の萌え萌え三三七拍子のおかげで恐怖心なんか吹っ飛んだな。
もうお前なんか怖くない。
なんせ俺には女神が着いてるんだからな。
それに俺の魔法の防御も突破出来なくて、焦りの表情になってきてそうじゃないか。
心に余裕ができることで俺はソイツを倒すために考えることが出来た。
だが何で倒せばいい⋯
ソイツは俺達を切り裂こうと必死になって腕を振り回している。
俺もお前を切り裂いてやろうか。
切り裂く⋯⋯⋯
何かで聞いた事がある。
水はダイヤモンドも削ると。
薄い水の幕を高出力で出せばいけるんじゃないか?
念じろ⋯
ダイヤモンドすら切り裂く水の膜を喰らわしてやるんだ!
「アサミさん!応援ありがとう!見ててくれ!絶対に勝つ!」
「タロウくんなら大丈夫!私信じてる!」
やれ、やるんだタロウ!
信じてるなんて言われたんだ、やらなくてどうする!
「うおおおおお!ハイドロスラッシュ!」
俺の手から放たれた魔法は、ソイツを斜めに切り裂いた。
腕を振り上げたまま、身体がズレる。
上半身が地面に落ちながら、ソイツは煙となって消えた。
ソイツの居た足元には、これまでに見た事ないくらい大きな光る石が落ちている。
「や、やった⋯⋯⋯うおっっっ」
「すごいすごい!タロウくん凄すぎるよ!」
アサミさんが後ろからものすごい勢いで抱きついてきた。
俺はやったんだ⋯
アサミさんを守れたんだ!
でも離れてくれないかな⋯
色々興奮しててやーばいぜ!
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