妄想14 遭遇
休憩を取り、お腹を満たした俺達はまた歩き出した。
目的地が分からないのは本当に精神的に辛い。
だが弱音を吐く訳にはいかない。
暗い雰囲気になったらアサミさんがもっと不安になるかもしれないから。
「今日は森の中で野宿になりそうだね」
「そうなると思ってた方がいいかもしれないな。川沿いより危険だろうから、俺が寝てる時になにかあったら、すぐ起こしてくれよな」
「⋯⋯うん。なんでもタロウくん任せでごめんなさい。だから私が出来ることはなんでもするからねっ」
はぁはぁ⋯な、なんでも⋯⋯⋯
もうこのセリフは何度も聞いている。
なんでもいいのか⋯なんでも⋯なんでも⋯なんでも⋯
ああああああああああ!
頭がおかしくなる。
このまま森の中だろうと押し倒してしまいたい。
落ち着くんだ、特に俺の下半身。
気にするな。
善意で言っている言葉なんだ。
くだらないことは考えるんじゃない。
心頭滅却!煩悩退散!
鎮まれ俺の心と息子!
「タロウくん?」
くそっ、なんなんだこの胸の柔らかさは⋯
何カップなのか知りたいぜ!
聞いたところで何にもならんが、とにかく聞いてみたい。
そしてあわよくば触り⋯いや、吸いたい。
赤ちゃんかの如くこれでもかと吸い尽くしたい。
ダメだ、考えないようにしたいのにもうダメだ。
早く、早く処理しなければ⋯
どうすれば⋯どうすればいいんだ⋯⋯
「ねぇ、タロウくん、タロウくん?」
「あ、ああ、どうしたんだ?」
危ない危ない、完全にぶっちぎれるとこだった。
「あそこが動いてる」
「え?どこ?」
アサミさんが指さす所を見てみると、草むらが動き、ガサガサと音が鳴っている。
「魔物?」
「下がっててくれアサミさん!」
俺は出てきたら直ぐに対処できるように身構える。
しばらく様子を伺っていると、草むらから何かが出てきた。
「魔物か?喰らえ!ウィンド⋯」
「待ってタロウくん!なにか様子がおかしいよ!」
アサミさんが何かに気付いたようなので、魔法を使うのをやめる。
「何かって、なに⋯」
俺もよく見てみると、傷ついた子犬のような獣が草むらから出てきた。
「この子怪我してる!」
無防備に近づこうとするアサミさん。
俺はそれを咄嗟に腰に手を回し抱きとめる。
「アサミさん、迂闊に近づくのは危険だ!」
「あっ、タロウくん⋯だって⋯でも、嬉し⋯⋯⋯」
「俺が確認してくるから待ってくれないか」
「⋯⋯う、うん⋯」
声が小さいが了承してくれたのだろうか。
俺は一旦アサミさんを離す。
「あっ⋯⋯もう少しして欲しかったのに⋯」
アサミさんが離れ際に何か言ったが、傷ついた子犬のような魔物の元へ行く。
『グルルルルルっ』
「なんで怪我をしているんだ?魔物同士で争いでも起こったのか?」
歯を剥き出しにし、威嚇する魔物。
俺は刺激しないようにゆっくりと近づく。
近くで見ると、体のあちこちが爪のようなもので引き裂かれたのか、血を流しているのがわかった。
「酷い怪我だな⋯⋯」
『グルルルルルっ』
魔物は体勢を低くして今にも飛び掛ろうと構えている。
「タロウくん⋯この子助けてあげるの?」
「そ、それは⋯⋯⋯」
怪我をしていたとしても、魔物は魔物だ。
俺達に攻撃してくるかもしれない。
子供なのかもしれないが、ここは倒しておくのがいいのかもしれない⋯
そんな風に悩んでいると、更に奥の茂みか大きな音を立てて動いた。
怪我をしている魔物も俺達もそちらに視線を向ける。
そして怪我をしている魔物は俺達に威嚇していた時の声より大きく吠えた。
『ガルルルルル!』
「なっ、なんだコイツ!」
「ヒッッッ!」
現れたソレは異様だった。
大きな角と鋭く尖った爪を持ち、鬼のような形相をしていた。
腕は長く、身体は体毛で覆われている。
二足歩行をしていた。
地球には絶対に存在しそうにない風貌だった。
『ふしゅぅぅぅふしゅぅぅぅ』
ただ呼吸をしているだけなのだろうか、大きな音が聞こえる。
その音を聞くだけで恐怖心が込み上げてくる。
こんなのと戦わなければならないのか⋯
冷や汗が止まらない。
手足が震えている。
ソイツは怪我をしている魔物と俺達を視線を動かし交互に見ている。
何度か視線を動かすと、アサミさんに視線を固定させた。
狙わてるのだろうか。
アサミさんを守るために魔法を行使しようと動こうとした時だった。
『ガァァアアア!』
怒り狂ったような咆哮を上げ、牙怪我をしていた魔物がソイツに飛びかかった。
『キャインっっっ』
目もくれず手を振り弾き飛ばした。
ソイツはアサミさんを視線でロックオンしたままだ。
怪我をしている魔物は弾き飛ばされたあとは動かなくなっている。
煙にならないってことは気絶してるだけなのかもしれない。
ソイツは俺達、主にアサミさんを見つめたあと、ゆっくりとこちらに向かってきた。
取るに足らない存在と思われているのかなんなのか分からない。
一気に襲い掛かるのではなく、慎重になってるのでもない。
ただゆっくりと近づいてくる。
餌と思われているのだろうか⋯
殺るしかない⋯
アサミさんを守るんだ!
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