妄想11 人里を探して
目が覚めた。
いつの間に寝たんだっけか。
目の前は視界が悪い。
なんだろうこれは。
柔らかい物が頭の下にあるのはわかる。
手を動かし触ってみる。
とても柔らかい。
「あんっ⋯た、タロウくんっ」
ん?女の子の声?
「暗くて何が何だか⋯」
顔を左右に動かすもただ柔らかく、心地がいい。
そしていい匂いが⋯
ん?この匂い⋯
「んあっ、だめっ」
「あ、ああああ、アサミさんっっっ」
俺は飛び起きた。
そして理解した。
今はアサミさんの2人なんだ。
もしかしてとんでもないことをしてたんじゃないのか?
「た、タロウくん、おはよ⋯⋯」
「お、おはよう⋯」
「いくら他に人が居ないって言っても⋯」
「ご、ごごご、ごめんなさい!」
その場で全力土下座だ。
「いいよ、タロウくんにはたくさん助けてもらってるもん⋯」
「で、でもやっていいことと悪いことが⋯本当にごめん、嫌だったろうし⋯」
「ううん、嫌じゃなかったよ、気持ちよ⋯」
うん?なんて?
嫌じゃないなんて、アサミさんは優しいな。
「でも本当にごめん。今後ないように気をつける」
「えっ?⋯⋯してもい⋯」
うん?なんて?
「俺は結構寝てたのか?魔物は来なかったんだ。良かった」
「うん、来なかったよ。だからずっと⋯ううん、なんでもない!」
ずっと?なんだ?
「アサミさんはもう一度寝なくて大丈夫か?」
「うん、今のところ大丈夫だよっ」
俺も⋯大丈夫そうだな。
俺は立ち上がる。
うん、身体も動くな。
「はわわ、た、タロウくん⋯」
ん?どうした⋯
「何かあった?」
「ううん、な、なんでもない⋯はわわっ」
視線が俺の真ん中⋯⋯⋯⋯⋯
「いやややや、いや、ここここ、これはっっっ!」
俺はなんてとこまで立ち上がらせてるんだ!
くそっ、朝の生理現象なだけなのに!
起きる寸前にアサミさんの身体を触ったからみたいになってるじゃないか!
やばい、やばいやばい、やばいやばいやばい!
裸に続いて立ち上がるモノまで服の上からだけど見られて⋯
なんてこった。
悲しすぎる。
これは絶対に嫌われたろ⋯
「だ、大丈夫だよ!男の人って朝は⋯そうなるって聞いたことあるから⋯」
知ってる⋯のか。
だとしてもなんと言う痴態。
これは恥ずかしすぎる⋯
「1度ならず2度もこんな⋯本当にごめん!」
もう俺は謝ることしか出来なかった。
くそっ、この空気感、最悪だ。
こんな時の現状を打破する魔法の言葉を誰か教えておくれよ!
なんで学校ではこういうのを教えてくれないんだ。
俺は元の世界に帰ったら教育者になって教育機関を根本から変えてやる!
⋯⋯⋯嘘ですごめんなさい。
「きょ、今日はどうするんだっけ!」
「あ、ああ、今日は川沿いを歩いて行こうと思うんだ」
「うんうん、分かった!じゃあ朝ごはん食べたら行こうっ」
「また朝から魚だけど、贅沢は言ってられないから、我慢して食べよう」
「ここの魚は美味しいから大丈夫っ」
朝から焼き魚を食べ、焚き火を消してから俺たちは川沿いを流れに沿って歩き始めた。
「この世界には人が住んでるといいな」
「そうだね。ずっとこのままじゃさすがに辛いもんね⋯」
「衣食住が何も充実してないからなぁ。人が居たとしても、文明レベルもこんなに川が綺麗で魚が美味しかったら、低いかもだ」
「贅沢は言ってられないもんねっ!」
俺たちは歩きながら適当に話ている。
今日もアサミさんは俺の腕をガッチリキープだ。
もちろん挟まれてる。
おむね様にな。
もうこれも2日目だから⋯慣れねぇ。
これは一生慣れる気がしないぞ。
気にしたらまた屹立してしまう。
俺のアレが。
さっきのあれで嫌われたのかと思ってたが、まだこうして腕を組んでくれるのは⋯
ただ不安なだけ、そう思うんだ。
甘い考えはしちゃだめだ。
悲しくなるだけだからな。
俺みたいな陰キャじゃあアサミさんと釣り合わないことはわかりきっているだろ。
「木の実とか果物とか森になってなりしないもんかな」
「あるといいよね!私も探しながら進むよっ」
「俺も頑張って探すな」
「じゃあどっちが早く見つけるか勝負だねっ」
「お、おお?勝負な。負けないぞ!」
「私だって負けないもんっ」
こんな風に誰かとはしゃぎながら過ごすなんていつぶりだろうか。
上手く話せてるだろうか、こんな感じで良かったろうか。
小学校の低学年の頃はやれてたような気がするが、年齢が上がるに連れて出来なくなっていってたな。
あれから2日間、俺達は川沿いを歩いた。
その間に魔物の襲撃は無く、安全に過ごしている。
道中に地球で言うりんごのような果物があり、2人で食べた。
異世界の果物は糖度が高く、とても美味しかった。
食事は相変わらず魚だ。
そろそろ肉や野菜が欲しい。
アサミさんは文句のひとつも言わないで食べてくれている。
だとしても色んなものを食べさせてあげたい。
この子が不自由なく過ごせるように頑張らなければ⋯
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