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95.力を合わせて

 作戦会議室にいたのは、先の戦いで私を掻っ攫おうとしたカンガルー男。

 三十代くらいの大柄な男性だけど、椅子に腰かけながら、怯えたように背中を丸めている。

 

「あの⋯⋯大丈夫ですか? 泣いてるんですか?」


 テーブルの上にあったカバンからティッシュを取り出して、渡してあげる。


「ワカイ グンジン テアラ⋯⋯ハカセ キョウフ ジッケン⋯⋯」

 

 カンガルー男はティッシュで涙と鼻水を拭いた後、私のことを、すがるような目で見上げてくる。


「⋯⋯⋯⋯まずは⋯⋯⋯⋯小春に⋯⋯⋯⋯ごめんなさいして」


 海星くんは座ったまま、カンガルー男が座る椅子をコツンと蹴る。

 すると、カンガルー男は椅子から落っこちそうになるくらい驚いてしまう。


「オォ、コハル。オワビ⋯⋯オワビ⋯⋯」


 カンガルー男は両手をこすり合わせるようにしながら、頭を下げる。

 なんなんだ、この光景は⋯⋯


「誰かこの状況を説明してくれませんか?」


 渋い表情をしているみんなの顔を見回すと、米谷さんが手を挙げた。


「はいはい! 僕から説明するよ! まず、小春ちゃんがカンガルー男にさらわれた時、海星くんが小春ちゃんを救出したよね? その後、結局この男も視力が限界だったのか、行動不能になった。海星くんと僕とで、この男を秘密のラボに閉じ込めて、尋問を少々ってところ!」


 米谷さんはテヘッと言いながら舌を出す。

 いやいや、尋問を少々って、彼はもうフラフラだし、ひどく怯えちゃってるんですけど⋯⋯


 米谷さんと海星くんが聞き出した情報によると、この男はアギル星の人間の中では、地上の人間の言葉が分かる方だからと、中心的役割を担っていたものの、鈍臭いタイプのお方だそうで、失敗続きでクビにされる寸前だったとのこと。

 そこで、一発逆転を狙い、私をさらおうとしたけど、失敗に終わり、切り捨てられてしまったと⋯⋯

 

「まぁ、一旦彼の事は置いておいて、まずは小春ちゃんの事だよ。僕が不在にしている間に朝倉統括が動いたと聞いて、急いで戻って来たんだ。そうなると彼を見張れなくなるから、一緒に連れてきたってだけ」


 カンガルー男は、しょんぼりしたように項垂れている。

 戦闘中、私たちに酷いことをした人だし、米谷さんと海星くんの宿敵でもあるけれども、なんだか可哀想に思えてくる。



「米谷さんと海星から事情は聞いた。このままだと小春くんはその⋯⋯あれに乗せられてしまうと⋯⋯」

 

 陽太さんは表情を歪めながら、窓の外のUFOを指さす。

 

「どうしてそれを⋯⋯そうか。米谷さんと海星くんは、朝倉統括の引き抜きの意味を知ってたんですね」


 だから二人は私が引き抜かれないように、対策してくれたんだ。


 それから二人は、私にしてくれたような話を陽太さん、冬夜さん、光輝くん、樹くんにも説明した。


「はぁ⋯⋯米谷さんと海星の父ちゃんは別の星から来たんや⋯⋯」


「まぁ、意外とそこまで驚かないもんだね」


「それならば、最近の海星の不審な行動にも合点がいく」


「そうか。故郷を奪われるなんて、つらい経験だったな」


 みんなはそれぞれの反応を示しているものの、二人の話を疑っていないことは共通している。


「あ。そう言えば前に海星くんから聞いた時にふと思ったんですけど、米谷さんは約40年前にUFOが来る少し前に、この星に逃げてきたと聞きました。米谷さんって今おいくつなんですか? てっきり三十代かと⋯⋯」


「え? 僕? 僕はピチピチの44歳ですよ? 3歳の頃に、星を追われて⋯⋯」

 

 へぇ。若く見えるもんだなぁ。

 肌の美しさと苦労話に感心していると、海星くんが待ったをかけた。

 

「⋯⋯⋯⋯ウソ⋯⋯⋯⋯本当は⋯⋯⋯⋯58歳」


 海星くんが米谷さんを指さすと、米谷さんはギクリと後ずさりする。


「えぇ!! 58歳!? いくらなんでもサバ読みすぎですよ! 本当に? シミもシワもない、このピチピチの肌が? 樹くん! この人、ヴェルヴェルの化粧水を使ってるんだよね!? 買い占めたい! 今すぐ買い占めたい!」


 これぞ、人類が求めていた最高のアンチエイジング。

 ヴェルヴェルの化粧水に、ここまでの効果があるとは⋯⋯

 今から使っておけば、還暦前でも三十代に間違われる可能性がある。


 お母さんにもプレゼントしたら喜ばれるかも?



「そうか。ヴェルヴェルか⋯⋯」


 冬夜さんは一言つぶやいた後、スマホで何かを操作し始めた。

 その様子にピンと来る。


「株ですか? 株ですね? 私にも買い方を教えてください!」


 冬夜さんの背後からスマホの画面を覗き込む私を見て、樹くんは呆れたように笑う。

 

 けど、結局ヴェルヴェルの化粧水を使っていると言ったのは、樹くんの前でついた、調子の良いウソだったらしく、騒ぎは一旦落ち着いた。


「⋯⋯⋯⋯米谷さん⋯⋯⋯⋯嘘つく時⋯⋯⋯⋯丁寧語になる」


 海星くんは耳元でこそっと、米谷さんの秘密の癖を教えてくれた。

 それは良いことを聞いたぞ。

 これから注意して聞いておこう。


「僕はもともとは『ヨネリヤ』って名前なんだ。向こうの星の言葉で、『人が集まる場所』。こっちの言葉でいうところの、『里』に近いかな。まぁ、僕自身はあんまり人に興味がないけどね〜」  


 米谷さんというのはこちらの星での偽名というか、近い名字を当てた形なんだ。


 自然豊かだというルーン星の人たちが集う場所って、どれほど美しくて安らげる場所だったんだろう。

 素敵な名前だな⋯⋯


「ちなみにあなたは? 名前はなんとおっしゃるのですか?」


 完全に蚊帳の外にいるカンガルー男に気を遣って話しかける。


「ワタシ ゴーゥヤ。ゲンキ カンシャ」


 カンガルー男改めゴーゥヤさんは両手を合わせて、頭をぺこりと下げる。


「なんや、後半はよくわからんけど、苦そうな名前やなぁ」


 光輝くんがつぶやくと、ゴーゥヤさんは親指を立てて微笑んだ。

 元気なことに感謝するみたいな意味の名前ってことなのかな。



 それから、彼の事は置いておいて⋯⋯と米谷さんは真剣な表情になった。


「僕と海星くんが、何故リスクを冒してまでみんなに正体を明かしたかと言うと、小春ちゃんのことを守って欲しいからなんだ。小春ちゃんを奪われてしまっては、僕たちに勝ち目はないからね。今、僕たちの宇宙大戦争は、大事な局面に立っている。もう少しで僕たちの研究は完成する。あと、もう少し、もう少しだけ時間があれば⋯⋯」


 米谷(ヨネリヤ)さんは、困ったように頭をかく。

 私にとってもこの現状は死活問題だし、米谷さんたちにとっては、仲間の敵討ちがかかっている。

  

「小春くんの身の安全については、飯島本部長を頼ってみよう。僕にはどうしても、あの人が朝倉統括と同じ考えに至るとは思えない」


「俺も一緒に行こう。万が一、飯島本部長があちら側だった場合、陽太が危険だ」


 陽太さんと冬夜さんは、飯島本部長の元へと向かった。



 陽太さんと冬夜さんが戻らないまま、時間がどんどん経過していく。

 

 夜の六時になった頃、光輝くんの携帯が鳴った。


「陽太くんからやった。まだまだかかりそうって。小春ちゃんも退院したばっかりやし、疲れたやろ? 部屋に帰って休んでたら? そんで、樹がついてたら安心やから」


 光輝くんは私のことを心配してか、そんな提案をしてくれた。

 陽太さん&冬夜さんといい、光輝くんといい、私はどれだけ仲間に恵まれているんだろう。


「そうなんですね。もう少しかかるなら、少し休みたいです。ありがとう光輝くん」


 樹くんをちらりと見上げると頷いてくれるので、二人で抜けさせて貰うことになった。

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