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9.城西のチャラ男

 メンテナンスが終わったという、装備調整室に戻ると、先客が待ち構えていた。


「あははっ! 話を聞いて来てみれば! 記録も見させてもらったで! これは、願い(デザイア)と言うよりも、破壊者(デストロイヤー)やなあ! 小春ちゃんがビームをぶっ放した時の焦った三人の顔! 笑いが止まらん〜!」


 お腹を抱えながら、床を転がっているのは、光輝さんだ。


 デザライト鉱石の語源は、願いという意味のデザイアから来ていることをもじった、イジりネタということらしい。

 

 そして、このトレーニング施設の各部屋は、使用中は常に録画されていて、訓練の振り返りができるようになっているのだそう。


 この部屋の予約者である樹くんが、タッチパネルを操作して消去しない限り、記録が残るので、それを勝手に見られたと。


「光輝くんは何しに来たの? 邪魔しに来たんなら帰ってよ。ほら、今から新しい武器を試すんだから、どいて」


 樹くんは、光輝さんの腕を引っ張り起こそうとする。


「樹が何度も『俺の手に負えない』と弱音を吐くので、冬夜さんも事態を重く受け止めて、俺が派遣されることになりました!」


 光輝さんは上体をさっと起こし、満面の笑みで敬礼する。


「別に冬夜さんのアドバイスを貰いたかっただけで、光輝くんは呼んでないんだけど?」


「またまた、そんな事言うて〜! ちょっと、安心しましたって顔に書いとんねん〜!」


 光輝さんは、樹くんのほっぺたを人差し指でつんつんとつつく。

 樹くんはうっとおしそうに顔をしかめるものの、意外とまんざらでもない様子?


「光輝さんと樹くんって、仲良しなんですね!」


「どこが? どう見てもウザ絡みされてるだけでしょ」


「あれ? もしかして、小春ちゃんも構って欲しい感じ? だったら、それ〜!」


 光輝さんはにっこり笑いながら、私のほっぺたも同じように、つんつんとつついた。


「あはは〜! これがこの組織の先輩・後輩付き合いと言うものですか! 意外とソフトで安心しました! 体育会系の組織だと、しばしば体罰が問題になりますから! それとも、光輝さんが特別、優しいんでしょうか!?」


 私の通っていた道場では、目が合っただけで絞め技を極められるとかは、当たり前だったから⋯⋯


「さん付けなんか、せんでええよ。それよりも、小春ちゃんって彼氏おるん? 男兄弟は?」

 

 光輝さん改め、光輝くんは、突然、話の流れをぶった切った。

 

「え? 彼氏ですか? 生まれてこの方、出来たことがないですけど。兄弟は双子の弟がいます。どうして突然、そんな話に?」


「いや、小春ちゃんって結構、男慣れしてる気がすんねんなぁ〜普通、俺らみたいなイケメンに囲まれたら、頬の一つでも赤くなりそうなもんやのに〜って」


 光輝くんは、何故か妖しげに微笑みながら、さっきまで頬をつついていた指に、私の髪の毛をくるくると巻きつけた。


「あぁ〜! それなら恐らく空手の影響ですよ! 五歳の頃から練習に通っていて、その時の友だちとは未だに付き合いがありますけど、女の子は一人だけで、後はみんな男の子なんです!」


 両手で拳を作り、胸を張って『押忍』と挨拶すると、光輝くんは髪の毛に絡まった指をそっと解いた。


「ふ〜ん。オモロそう」

 

 なんだか嬉しそうに首を傾げる光輝くん。

 

「あーあ。もう、勘弁してよ。小春ちゃんだけは駄目だって! 六連星(プレアデス)内で、そういういざこざを起こされると、こっちまで迷惑なんだけど」


 樹くんは光輝くんの腕を引っ張り、私から引き剥がした。


「え? 今、一触即発の張り詰めた空気だった? いざこざが勃発するような流れでは、なかった気が」


「⋯⋯⋯⋯光輝くん⋯⋯⋯⋯小春に⋯⋯⋯⋯手を出す気」


「え? 優しそうなのは幻? 本当はバンバンしばかれる感じ?」


「⋯⋯⋯⋯違う⋯⋯⋯⋯すぐ女の子の⋯⋯⋯⋯ハートを奪う」


 海星くんの口から飛び出した単語に、一瞬耳を疑う。

 少しポップな表現だけど、女子目線としてはどこか恐ろしくもある。


 女の子大好きと公言するこの高三男子は、どうやら私の知らない世界をたくさん知っている、上級者の模様。



「ねぇ、前から思ってたんだけど、海星くんって海外育ちだったりする? ハートの発音良かったから!」

 

 私の問いかけに海星くんは首を振った。


「じゃあ、お父さんか、お母さんが海外の出身だったり?」


 次の質問には少し間を置いて、コクリコクリと頷いてくれた。


「やっぱりそうなんだ! 髪とか目の色が珍しいし、美形だもんね。ちなみにどこの国か聞いてもいい?」


「⋯⋯⋯⋯知らない国」


「なんやそれ〜! 親の国を知らんことは、ないやろ〜! そういや俺も、教えてもらったことないかも〜!」


 先ほどまで樹くんとじゃれ合っていた光輝くんは、今度は海星くんに絡みつき、二人は見つめ合う。


 光輝くんが首を傾げると、海星くんも不思議そうに同じ方向に首を傾げる。 


「⋯⋯⋯⋯あ! もしかして、私が知らない国ってこと? 遠いの? どんな場所?」


「うん⋯⋯⋯⋯教えられない⋯⋯⋯⋯」

 

 海星くんのこの独特の間の取り方と不思議な雰囲気は、彼の持ち味だということは、今日一日でよく分かった。


 けど、割と何でも親切に答えてくれる彼が、ここまではっきり言うってことは、もしかして、触れてはいけない話題だった?


 しかし、その割には、海星くんは私の声に真剣に耳を傾けてくれているようにも感じられる。


「⋯⋯⋯⋯もしかして、海星くんも行ったことがないの?」


「⋯⋯⋯⋯そう⋯⋯⋯⋯だから⋯⋯⋯⋯教えられない」


 なるほど。

 よほど遠い国から、海星くんのお父さんかお母さんは、この国へいらっしゃったらしい。

 交通網が整備されていないのか、紛争中の地域だったりするのかも。


「なんで初対面やのに、この二人は会話が成り立ってんの? 俺のときは不思議ちゃん全開のくせに」


「さぁね。光輝くんとの会話は無意味だからじゃないの?」


 樹くんはまた憎まれ口を言って、光輝くんにじゃれつかれている。

 

 この星を救うために戦うヒーローたちの高校生らしい姿⋯⋯

 これから時間をかけて、もっと彼らのことを知りたいと思えた一幕だった。

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