88.ブルームカーテン
デザライトが生成される場面を目の当たりにしたものの、何が起こったのかはよく分からないまま。
ただ、米谷さんから伝えられた注意点としては、このデザライト作りの過程で、私のディア能力が枯渇状態になるということ。
そもそも、ディア能力の『ディア』の語源は、願望と涙から来ているらしい。
クリスマスの翌日、朝倉統括の海外支部への引き抜きを逃れたのも、前の晩に海星くんがデザライトを生成して、私のディア能力を使い果たしてくれたから。
あれから数ヶ月、具体的な数値は公表せずに、うやむやにしていた私のディア能力は、本当に低下してしまう事になる。
それもこれも、クリスタルフロッグを成長させるため。
果たして、謎の生物クリスタルフロッグに、この星の未来を託せるのだろうか。
私の戦闘能力と引き換えに、引いては自分と誰かの命の危険を冒してまで、このオタマジャクシたちに賭けていいのか。
その疑問の答えは出ないまま、新たなエイリアンの奇襲があった。
「今回現れたのは、カンガルー型エイリアン。体長はおよそ二メートルで、総数は五十体前後の見込みだ。後ろ脚による蹴り攻撃は強烈で、先発隊の隊員が一名、意識不明の重体だ。皆も注意して欲しい」
陽太さんは、いつも以上に深刻な表情で、みんなの顔を見渡した。
初動で既に重症者が出ていると言うことは、これから本格的な戦いになれば、ますます被害が広がる可能性が高い。
「不幸中の幸いと言えるのが、住人たちに被害が出ていない事だ。これは、樹と小春くんが開発した武器の功績だな」
陽太さんは親指を立て、私たち二人に微笑みかけた。
私と樹くんが開発した武器というのは、『ブルームカーテン』という名のシールドだ。
樹くんが使う、アイビーカーテンの簡易版。
開発に至った経緯を振り返ると⋯⋯
◆
元旦の戦闘で負傷し、休業を余儀なくされた私と樹くん。
他の四人への罪悪感を感じると同時に、この間にある課題を解決したかった私は、診療所の帰りに話を持ちかけた。
「ねぇ、樹くん、相談があるんだけど⋯⋯開発部に一緒に来てくれない?」
「え? 開発部? 別にいいけど、何の話?」
突然何を言い出すのかと驚いた様子の彼に、自分の考えを伝える。
「私、いざと言う時に、自分の身を守れる手段は多い方がいいなって前から思ってたんだ。それは、私たち隊員もそうだし、救護部の人たちも、近隣の住民も⋯⋯米谷さんの話によると、ディア能力が一桁の人でも、武器を全く使えないわけではないっぽいんだよね。それで、ディア能力が低い人でも使える武器が欲しいなと思って」
樹くんが使う銃、リーブス・ブラストには、アイビーカーテンという、目くらましの技がある。
それは、樹くんのディア能力が弾丸に変換され、その弾が炸裂する際に、緑色の葉っぱが現れて、敵の視覚を遮断するものだ。
樹くんが扱うランチャーは、撃つ弾の種類と目的によって、殺傷能力を制御しないといけない分、熟練者が使わないと危険を伴う。
けれども、もし、殺傷能力を最初から無くした状態のアイビー・カーテンを誰でも作り出せたとしたら⋯⋯
「なるほどね。小春ちゃんのやりたい事はだいたい分かった。アイビーカーテンだけを扱える護身グッズみたいな物を開発して、住民たちに配布することで、住民たちが自力で安全に避難できるようになる。そうすれば、俺たちレンジャーや救護部の負担も軽くなって、討伐に集中できると」
樹くんは、すぐに私の考えを理解してくれた。
「相談する価値はあると思うんだ。それで、私はアイビーカーテンの原理が分かってないから、樹くんにも手伝って欲しいの」
◆
こうして完成したものが、ブレスレット型の護身用武器。
『ブルームカーテン』だ。
手首にはめたブレスレットの宝石を押す事によって、その場に桜吹雪が出現し、一定時間、エイリアンの視界を遮ることができるため、その間に住民たちは安全に避難することが出来たと言うわけだ。
「今回、俺たちの担当は城の西エリアだ。海星と小春が光輝のサポートを受けながら、近接攻撃をしかけ、陽太と樹が中距離から敵の体力を削る。俺も今回はサブマシンガンで加勢する」
冬夜さんから作戦を伝えられ、現場に急行した。




