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84.特別な夜

 隣で横になる樹くんが美しすぎて、思わず手を伸ばす。

 光る前髪の柔らかな手触り、透き通るような肌。

 何よりも綺麗なのは、星空を閉じ込めたみたいな瞳⋯⋯


「どうしたの?」


 樹くんは一瞬驚いたみたいだったけど、すぐに私の手の上に自分の手を重ねた。


「樹くんがあまりにも幻想的過ぎて、つい、触っちゃった」


 正直に答えると、彼はこちら向きに横になった。

 温かい手が伸びてきて、頭をそっと撫でてくれる。


「小春ちゃんもきれいだよ。目がキラキラしてる」


 美しいものを見るような、どこかうっとりとした表情に、胸がきゅんとなる。 

 そのまま互いに見つめ合っていると、樹くんが上体を少し起こし、覆いかぶさって来た。

 

 後頭部を支えられ、唇を重ねられる。

 

 盗まれるようなキスをされた、あの日以来のキス。


 ずっと、樹くんとこうしたかった。 


 角度を変えながら、何度も降ってくるキスにとろけるように応えていると、どんどん長く深くなっていく。


「待ってよ⋯⋯どうしていいか分かんない」


「ん⋯⋯俺も正解は分かんない」


 不慣れな感覚に逃げ腰になると、ガシッと捕まえられて、抱き寄せられる。


 樹くんの手のひらがゆっくりと髪や頬、肩、腕、腰を滑って行って、太ももを撫でられる。


「今夜⋯⋯⋯⋯するの?」


 初めてのお泊り。それなりに意識はしていたけど、実際に触れ合うと歯止めが効かなくなりそうで⋯⋯


「しない⋯⋯⋯⋯つもり。けど、ただ一緒に寝るだけじゃ我慢できない。もっと近づきたい」


 樹くんの身体が、どんどん熱くなって、目つきが鋭くなってくるのがわかる。

 私、この人に女の子として求められているんだ。

 もっと欲しいと思ってもらえてるんだ。


「今の樹くん、なんだかオスっぽい。今日、私、樹くんのかっこいいところ、優しいところ、いっぱい見たよ。もっともっと好きになった。つまり、何が言いたいかと言うと⋯⋯」


 言葉に詰まっている間も、樹くんの手は止まってくれない。


「つまり、私も樹くんと、もっと近づきたい⋯⋯」


 言い終わるより先に唇を塞がれた。


「あ⋯⋯もう無理。好きすぎる」


 切羽詰まったような声を最後に、私たちは特別な夜を過ごした。



 

 翌朝、窓から射し込む朝日のまぶしさで目が覚めた。

 上りたての太陽って、こんなにも光が柔らかいんだ。

 

 そう言えば⋯⋯と、隣に寝ている樹くんを振り返ると、彼は⋯⋯起きていた。

 私の髪の毛を指に巻き付けて遊んでいる。


 まだ寝起きで、ぼーっとしてるのかな。

 どこか普段より幼くて、隙だらけの表情が可愛く思える。


 けど、昨日このお方は、オス全開で迫って来られて⋯⋯

 予告通り最後まではしなかったけど、恋人同士っぽいことはした。

 それが朝になったらあどけない青年みたいになってるなんて、反則じゃないかと思う。

 

「おはようございます⋯⋯昨夜は、良い夜でしたね?」


「おはよう。良い夜だったね。小春ちゃん」


 ふわ~っと柔らかく微笑まれると、胸が甘く締めつけられる。


 思う存分に大好きを伝えあった後、殿宮に帰還した。




 休暇明け、作戦会室にて。

 陽太さんが慌てた様子でみんなを集めた。


「実は夜明け前、不審な生き物に関する目撃情報が寄せられたんだ。なんでも、猫くらいの大きさの生物が二匹、上守城公園で飛び跳ねていただとか」


 暗闇の中、猫くらいの大きさの生き物が、飛び跳ねていた⋯⋯?


「それって、ウサギじゃないんでしょうか? どこかの家から逃げ出したとか? エイリアンではないんですよね?」


「エイリアンの反応はなかったそうだ。しかし、ハウンド型の例もあるから、油断はできない。僕も話を聞く限りでは、ただのウサギだと思うんだが⋯⋯」


 今日の私たちのミッションは、この謎のウサギを見つけ出すこと⋯⋯


「では、この間の組み合わせで、捜索活動を⋯⋯」


 陽太さんが指示をしようとしたその時、海星くんが無言ですっと手を挙げた。 

 

「⋯⋯⋯⋯俺⋯⋯⋯⋯小春と組みたい」


 突然のペア交換の申し出。

 確か、前回の活動では、海星くんは陽太さんと組んでいたはず。


「一応、土地勘の有無などを考慮して、ペアを考えたつもりなんだが。海星はどうして小春くんと組みたいんだ?」


 陽太さんが尋ねると、海星くんは真顔で答えた。


「⋯⋯⋯⋯殿宮県民だけの秘密」

  

 何それ?と、私も含めた全員が首を傾げる。

 彼の不思議ちゃん度は、日々アップデートされているような⋯⋯


「⋯⋯⋯⋯そうか。よく分からないが、その秘密の場所? に謎の生き物がいるかもしれないんだな。では、樹は僕と組もう」


 陽太さんは、それ以上は何も突っ込まないことにしたらしく、出動の準備を開始する。


 一方、状況を整理しようと頭をフル回転させている私の元に、海星くんが近づいて来た。


「⋯⋯⋯⋯難しい話の続き」


 海星くんは、耳元でこそっと呟いたのだった。

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