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8.最強同級生コンビ

 

 冬夜さんと話すと言った樹くんは、腕時計のタッチパネルを操作したあと、インカムを使って深刻な表情で、話をし始めた。

 時々、片手でおでこを押さえながら⋯⋯


 恐らくヒーローどころか、兵器とも言える私の危険性について報告しているんだろう。

 このままだと、防衛隊に出入り禁止になるか、危険人物として捕まってしまうのでは?


 ライフルの弾丸は、ディア能力が変換されて発砲されるというのは聞いていた。

 弾数が増えるだけのはずだったのに、どうしてこんな事に⋯⋯


 部屋の外の隊員たちも、不安そうにこちらを見ながら、近くの隊員たちと何かを話している。


 恐怖と罪悪感でガタガタと震えていると、背後に人の気配がした。


「⋯⋯⋯⋯小春⋯⋯⋯⋯すごい」


 ボソッとした声が聞こえ、振り向くと海星くんが立っていた。


「⋯⋯⋯⋯悲しい?⋯⋯⋯⋯俺なら⋯⋯⋯⋯嬉しい」


 心配そうな顔をしながら、ぽつりぽつりと言葉を紡いでくれる。

 もしかして、励ましてくれてるのかな?

 

「海星くんは、私のことが怖くないの?」


 不思議に思い尋ねると、海星くんは青く透き通った瞳で、こちらをじっと見つめながら、コクリと頷いた。

 

「⋯⋯⋯⋯樹も⋯⋯⋯⋯たぶん⋯⋯⋯⋯」

 

 海星くんが樹くんを振り返ると、彼はちょうど通話を終えて、こちらに向かって歩いて来るところだった。


「小春ちゃん。冬夜さんと話が出来て、何が起きたか分かったかも。吹っ飛んだオクトパスも、発火寸前のライフルも、新品と交換してもらえるよう、手配しといたから。メンテナンスが始まる前に、とりあえず、この部屋を出よう」


 地面に転がっているライフルは、ジューッと音を立てながら煙を吹いている。

 やってしまった⋯⋯



 騒ぎを聞きつけた指揮官が部屋の前に来た影響か、部屋の外に集まっていた隊員たちは引いたあとだった。

 樹くんが指揮官の元へ行って、状況を報告してくれる。


 特に叱られることも、追加で聴取をされることもなく、指揮官は立ち去って行った。


 そして、今は樹くんの案内で、海星くんとともに、2〜4人用の訓練場に移動して来たところだ。


「ごめんね、小春ちゃん。フォローもせずに、ほったらかしにしちゃって。大丈夫だから、そんな子鹿みたいに震えないでよ。冬夜さんの予想を説明するね」


 樹くんは手帳を取り出し、ボールペンで絵を描き始めた。


「アサルトライフルの基本構造は、使用者のディア能力を弾丸に変換して、発射するってことだったよね。本来なら弾丸が生成される時に、制御機能が働いて、どの隊員が使用しても、同じ規格の弾丸が作られるようになっていた。だから、ディア能力が高い人ほど、弾数が増えると。ただ、小春ちゃんクラスのディア能力になると、制御機能が追いつかなくなって、弾丸の大きさや威力が変わってしまったのかも? ってことらしい」


 樹くんはスラスラとペンを滑らせ、本来、銃から放たれるはずの弾と、私が撃った弾(ビーム?)の絵を描いていく。


 私が銃系の武器を使うと、みんなと同じ規格の弾丸は作れずに、あんな暴走したみたいな威力になってしまうんだ。


 それじゃ、集団行動を基本とする防衛隊のメンバーにも関わらず、みんなと一緒に戦闘に参加することは、できなくなっちゃうのかな。


 ブレードでは、私の能力が威力に乗らないし、せっかく中・遠距離武器なら能力を活かせると思ってたのに。


「冬夜さんから適性武器のアドバイスも貰えたから、後でもう一度、装備調整室に行こう。それまで小春ちゃんは、俺たちの訓練の見学をしてて。最初の内は勉強になるはずだから」

 

 樹くんは慣れた手つきでタッチパネルを操作し始めた。


「どうする? 掃討戦でいい?」


「⋯⋯⋯⋯いい」


 訓練場での戦闘訓練のモードは、隊員同士が戦う決闘(デュエル)と、エイリアンのダミーを倒す掃討戦の二種類があるらしい。

 隊員たちの任務内容はエイリアンの掃討だから、決闘(デュエル)はほとんど行われないのだそう。

 

「敵のエイリアンの種類は何がいい? 小春ちゃんが選んでいいよ。小型か中型でね」


 樹くんはこちらを振り返り手招きをした。

 手元のタッチパネルには、エイリアンの一覧が表示されている。


「え? 本当に何でもいいの? 強そうなやつでも?」

 

「当たり前でしょ。俺たちを誰だと思ってんの?」


 樹くんは、失礼なとでも言いたげに、腕を組んで私の事を横目で見下ろしてくる。


「確かに⋯⋯それでは、ティラノ型でお願いします」


 ティラノ型エイリアンとは、その名の通り、ティラノサウルスの遺伝子が組み込まれたエイリアンだ。


 民家くらいの建物なら簡単に踏み潰してしまうほどの大きな身体。

 それでいて機動力も高いのが特徴とされている。


 部屋の隅に移動するように指示され、床に体育座りをする。


「じゃあ行くよ」


 樹くんのかけ声に、海星くんも頷く。

 カウントダウンの音声が流れ、ゼロになった瞬間、目の前にティラノ型エイリアンが現れた。


 早速、威嚇のためか、口を大きく開けながら、樹くんと海星くんに顔を近づけてくる。

 鋭い牙と尖った舌、喉の奥がここからでもよく見える。


 人間なんか一口で食べてしまえるくらい、大きな口だ。

 つり上がった目をギョロギョロさせながら、唸り声を上げる。


 大昔の恐竜のイメージそのものだけど、唯一違うのは、エイリアンに特徴的な、白っぽい灰色の湿った皮膚に覆われているということだ。

 

 ティラノ型エイリアンは、身体を左右に揺らし、長い尻尾を鞭のようにしならせながら、二人に襲いかかった。


 樹くんと海星くんは、さっと飛び上がり、攻撃を避ける。


 防衛隊のブーツは、重力を軽減し、通常の五〜六倍の高さをジャンプ出来るとされている。


 樹くんは、ティラノから距離を取るように着地し、小型のグレネードランチャーを取り出した。

 樹くんの専用武器〈リーブス・ブラスト〉と呼ばれるもので、攻撃力もさることながら、敵の妨害にも優れた能力を発揮するらしい。 


 樹くんはティラノの足元に向けて、手榴弾のような弾をボンボンと撃って行く。


 爆撃音と煙が上がる度に、ティラノはバランスを崩しながら、声を上げる。

 攻撃が効いているみたい。


 その隙に海星くんは、ダガーを片手にティラノの背後に回り、頭に登った。

 海星くんの専用武器の〈ソニックダガー〉は電気メスのような斬れ味で、自動修復力が高いタイプのエイリアンにも攻撃が通るのだそう。


 海星くんが斬り裂いた部位から、黒い血が吹き出す。

 目、首、腕、背中、尻尾⋯⋯


 確かに攻撃をしているみたいだけど、肝心な海星くんの動きは、私の動体視力では追えない。

 すごい。武器の名に相応しい動き。


 これが六連星(プレアデス)に選ばれるような、上級隊員の戦い方なんだ⋯⋯⋯⋯


 いつの間にか樹くんも武器をブレードに持ち替え、おじぎをしながら首を振るティラノの頭に飛び乗った。


 そして、ブレードを頭に垂直に突き立て、トドメを刺す。

 すると、ティラノ型エイリアンは、ドサッと床に倒れ、光になって消えて行った。

 

 樹くんが後ろから支援をしながら、海星くんが敵の視覚を奪って、攻撃力を削ぎ、最後は樹くんがトドメを刺す⋯⋯ 

 この間、特にお互い声かけをすることもなく、自分の役割が自然と分かっているみたいだった。


 体育座りをしていたはずの私は、気づいたら片膝立ちで、前のめりになって、拳を突き出していた。

 

「え? 何そのポーズ。ダサ過ぎるんだけど。どう? 感想は」


 樹くんと海星くんは汗を拭きながら、こちらに向かって歩いて来た。

 

「かっこいい⋯⋯かっこよすぎるよ! 目の前でこんな迫力満点の戦闘シーンを見られるなんて最高! ヒーローに守られる市民を体験出来た! 一生忘れられないよ! 二人とも阿吽の呼吸だったね! 付き合いが長いからかな!? 私もいつか出来るようになるかな!?」


 興奮のあまり、一息で一気にまくし立ててしまう。


「あっ、ごめんなさい。私、今、反省しないといけない身分なんでした。それにちょっと不謹慎だったかな?」


 私の勢いに少し仰け反って、呆気に取られる二人の反応に、自分の立場を再認識する。


 武器と模型を破壊した、兵器人間な上に、命懸けのエイリアン討伐に興奮するなんて。

 今度から自分がそちら側に回るべきことも、すっかり忘れてしまって⋯⋯

 

「どうして? 今の小春ちゃんて、毎週日曜朝の、テレビの前の子どもそのものって感じだけど。俺たち六連星(プレアデス)って、そういう子たちのために存在するんだから。それに、反省なんてしなくていいよ。ディア能力ってさ、その日のコンディションに左右されるから、夢に目を輝かせてる方が、良い結果になると俺は思うけど」


 樹くんは幼い子どもを見つめるような眼差しを向けてくれていた。

 海星くんも隣でコクリコクリと頷いている。


 もしかしたら勉強と言いつつも、二人は私にヒーローショーを見せるような気持ちでやってくれたのかな。


 落ち込んでいる人を励まそうとする優しさとか、サービス精神旺盛なところとかが、彼らが六連星(プレアデス)に抜擢された理由の一つなのかも。

 

「とは言え、小春ちゃんももうこっち側なんだから、お客さんでいられるのは今回だけね。とにかく死に物狂いでやってくんないと困るんだから。オクトパス治ったってさ。戻ろうか」

 

 これから再び装備調整室に戻り、冬夜さんお勧めの武器を試すんだ。

 恐怖心が全くないと言えば嘘になるけれども、先ほどよりも前向きな気分になっている自分がいた。

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