77.肉食系女子
フローラルブーケの皆さんとの親睦会。
美味しい和食に舌鼓を打ち、お腹が膨れて来た頃。
フローラルブーケの面々は、一人また一人と立ち上がって、席を移動し始めた。
「ねぇねぇ、光輝くん。隣に座ってもいい〜?」
「私、冬夜さんの話が聞きた〜い!」
「海星くんって変わってるよね。面白い!」
「陽太くんって、こんなにかっこいいのに彼女いないんだぁ〜!」
アイドル女子たちは、男性陣に積極的に話しかけに行く。
気がつけば、私のテーブルとその隣には誰もおらず、隅っこでポツンと一人。
「小春ちゃん、料理食べれた? そっちは、ずいぶんとさみしくなったね」
背中合わせに座っていた樹くんが、こちらを振り返ってくる。
「うん。なんかちょっと切ないけど、しっぽりと飲むのも良いかなと思って」
かっこつけたように、オレンジジュースのグラスを持ち上げて揺らすと、樹くんは笑ってくれる。
そこに、お手洗いに立っていたゆりにゃんが帰ってきた。
強がってたけど、本当は寂しかったんです。
天使の帰還に喜んでいると、ゆりにゃんは私には目もくれず、樹くんの隣に座った。
「私、樹くんと話してみたかったの」
ゆりにゃんのブラウスのボタンは先ほどより一つ多めに外れていて、お酒の影響か、少し赤くなった胸元が見えている。
柔らかそう⋯⋯じゃなくて。
更にそれを強調するかのように、鎖骨を隠すくらいの長さの髪をかき上げて、片側に寄せるような仕草をする。
私の中の危険察知レーダーが、ビンビン反応している。
「そうだったんですね。嬉しいです」
樹くんは言葉通り嬉しそうに微笑みながら、ゆりにゃんとの会話を始めてしまう。
その事に胸がチクリと痛んだけど、ここには仕事の延長で来ているんだから。
それから光輝くんや冬夜さん、陽太さんが気を遣って声をかけてくれたけど、なんとなく疎外感を感じたまま、会はお開きとなった。
この時の嫌な予感が当たったと気がついたのは、樹くんの誕生日の三日前のこと。
「ごめん。誕生日当日、仕事が入った」
昼休み、樹くんが話があると言うので、何事かと思ったら⋯⋯
「そうなんだ。残念だけど仕方ないよ。例のコラボ商品の開発のこと?」
フローラルブーケとのコラボ商品の開発は、防衛隊の企画部とフローラルブーケの事務所が共同で進めるものの、やはり本人たちが関わっていないと意味がないと言うことで、六連星からは光輝くんと樹くんが代表として参加することになった。
対して、フローラルブーケ側の代表は、向日葵ちゃんと、ゆりにゃんとのこと。
ちなみに、光輝くんと樹くんが選ばれた理由は、十八歳になって、防衛隊のサイレンカーを運転するための特別な免許を取りに行くために、どの道、頻繁に県外に出る事になるので、スケジュールが組みやすいからだ。
「ただでさえ教習で忙しいのに、商品開発の担当まで引き受けてくれてありがとう! お誕生日祝いは別の機会に!」
しゅんとする樹くんを笑顔で送り出したんだけど⋯⋯
樹くんの誕生日当日の深夜。
スマホの通知が鳴り、内容を確認すると、ゆりにゃんのキラスタが更新されたというお知らせだった。
ゆりにゃんの読者登録をしてから、初めての更新。
ゆりにゃんは、いつもどんな投稿をしているんだろう。
通知のアイコンをタップし、キラスタを立ち上げる。
『最近何かとお世話になっている、六連星の樹くんのお誕生日をお祝いしました! コラボ商品、楽しみにしていてね!』
それは、誕生日ケーキを前に、にっこりと笑う樹くんと、ゆりにゃんの自撮り風ツーショット写真だった。
ハッシュタグは以下の通り。
#六連星♡FBコラボ
#緑川樹♡生誕祭
#生まれてきてくれてありがとう♡
今日は、光輝くんも向日葵ちゃんも、たくさんのスタッフさんも一緒にお仕事してると思ってたけど、夕食は二人だったのかな。
複雑な心境でいると、コメント欄には、続々とファンからのコメントが届きはじめる。
『フローラルブーケ、六連星とコラボするんだ! 絶対買う!』
『美男美女すぎる』
『びっくり! 付き合います報告かと思った!』
と、明るい投稿も多い中、怒りをあらわにする人もいて⋯⋯
『他の男とのツーショットとかイラネ。ファン舐めとんのか』
『樹くんって、こういう女の子がタイプなんだ。ショック』
『ラブラブ自慢?』
そこからもコメント数はどんどん増えていき、他のSNSの方にもスクリーンショットが転載されて、炎上気味に⋯⋯
初めて目の当たりにする光景に慌てふためいていると、見慣れたアカウントからのコメントが入った。
『ちょっと! 俺もおったんですけどっっ!!』
涙マークの絵文字とともに、光輝くんの個人アカウントが参戦してきた。
すると、ゆりにゃんがすぐに投稿を更新した。
『ごめん! こうキング! 写真まちがえた!』
更新後の写真は、別アングルから、ゆりにゃん、樹くん、光輝くんの三人で写ったもので、店員さんかスタッフさんか、誰かが撮ったものだった。
なんだ。光輝くんも一緒だったんだ。
はぁ⋯⋯⋯⋯びっくりした!
密かに安心して、スマホを伏せ、眠りについた。




