7.破壊王小春
樹くんは私の腕をぐいぐい引いて、奥の方にある、『装備調整室』という部屋に入った。
壁付された棚には、防衛隊の武器がずらりと並んでいる。
いよいよ隊員たちが使用している武器についての話が始まるんだ。
気を取り直して樹くんの後をついていく。
「武器について説明したいんだけど、わかってる事を話すのは時間がもったいない。小春ちゃんはどこまで知ってるの? オタクなんでしょ?」
樹くんは中央の机の上に、主要な武器を並べた。
「はい! えっと⋯⋯隊員達の基本装備は剣で、それに加えて、銃などの中・遠距離武器を戦闘スタイルに合わせて使用します! 等級に応じて使用可能な武器が変わって、上級に行くほど、ダメージを与える以外の追加効果が増えます! そして、六連星のメンバーに関しては、上級武器をカスタマイズした専用武器があります!」
「そう。よく知ってるね。じゃあ、名前はわかる?」
「はい! 右からブレード、ダガー、ショットガン、アサルトライフル、サブマシンガン、スナイパーライフル、ボウ、グレネードランチャー⋯⋯」
「オッケー、完璧。じゃあもう後は使い方と追加効果の説明だけだね。ひとまず初心者向けから使ってみようか」
まずは、基本装備のブレードから。
体格だったり、戦闘スタイルによって、長さを選ぶらしい。
私が渡されたものは、全長80センチ程のものだ。
剣のグリップを握り、そっと持ち上げると、剣のつばの部分が、ぱかっと開いた。
まるで、桃太郎が生まれるときに、桃が割れるみたいに。
桃太郎の代わりに現れた、五百円玉大の透明な宝石の中を、白い光がくるくると回り始め、刃がオーラを放つ。
「うはぁ! 来たぁ〜! かっこよすぎる! 防衛隊の本物の武器だ! このルーレットみたいな光のギミックって、どんな意味があるの?」
「この透明な石はデザライト。ギミックはデザライトの効果を高めるものらしいけど、隊員の士気を上げる目的と、子どもたちを喜ばせる意味もあって、このデザインらしい。関連グッズの売り上げも上々なんだってさ」
「そりゃあ、もう士気が上がりまくりだよ! 私だって小さい頃から、こういうの欲しかったもん! さすが、開発部の皆さん。わかってる〜!」
テンション爆上がりの私の事を、樹くんは生温かい目で見ている。
「じゃあ、ちょっとだけ打ち合いしてみようか。それっぽく斬りかかってみて」
樹くんは腰に巻いたベルトの鞘から、自分の剣を取り出し、構えた。
グリーン仕様の樹くんの剣は、淡い緑色に輝き出す。
やっぱり樹くんは、本物の六連星のメンバーなんだと、実感が湧く。
「お願いします!」
剣なんて使った事がないから、何をどうすれば良いのかは正直さっぱりだけど、子どもの頃から何度も見た歴代六連星の動きを思い出しながら、剣を素早く振り下ろす。
樹くんは涼しい顔で、私の攻撃を次々となぎ払った。
さすが実力者。全く隙がない。
二人の剣が空を切る度に、ブンブン、シュンシュンと機械音が鳴るのが、最高にSFっぽくてオタク心をくすぐる。
「良いね。悪くない。ちゃんと基礎からやったら絶対に伸びるよ。ただ、せっかくのディア能力が攻撃に乗ってこない。それは、ブレードに関しては、デザライトの効果が刃の表面をなぞるようにしか作用しないから。恐らく、本命は冬夜さんが言ってた通り、中・遠距離武器なんだろうね」
この剣にはめ込まれたデザライトの作用は、あくまでも剣の刃を光るオーラのようなものでコーティングして、エイリアンにダメージを与えるものらしい。
エイリアンには、昔で言うところの刀やサバイバルナイフなんかは効果がないから⋯⋯
「じゃあ、次、アサルトライフル」
樹くんは中距離用の銃を差し出した。
銃口は一眼レフカメラのレンズくらい大きくて、ボディは落ち着いた黒。
スコープの上には口を開けた金色のライオンがいて、その口の中には、ブレードと同じように、デザライトとルーレットのギミックが光っている。
「防衛隊発足時から実用化されたブレードとは違って、アサルトライフルやショットガンみたいな銃は、比較的歴史も浅い。ただ、銃に関しては、使用者のディア能力を銃弾に変換するから、小春ちゃんの場合は弾数が無限になるんじゃないかな」
ディア能力は筋力や体力のように、その日一日で使い果たすと疲労とダメージが溜まり、回復するのに時間がかかるのだそう。
だから通常、銃使いには、ディア能力が高めな人しかなれないのだとか。
「じゃあ、あっちの的に向かって、何発か撃ってみて。当たんなくても良いから」
樹くんが指さしたのは、先ほどから存在感たっぷりだった、巨大な白いタコの模型だ。
あれは、エイリアン図鑑の中でも最初の方のページに登場する、オクトパス型エイリアン。
人類と同じかそれ以上の知能を持ち、巨大なUFOを統治している種族とされている。
彼らがこの国に間欠的にエイリアンを送り込んで、建物を壊し、人々を痛めつける張本人。
時々自分たちも地上に降りてくるけど、軍隊顔負けの集団戦術を取ってくるから、手強いのだと聞く。
弱点の脳がある足の付け根辺りに、赤い的がついていて、他の隊員たちが試し撃ちをした弾丸の跡が残っている。
二人ともイヤーマフとゴーグルを着用して、いざ試し撃ち。
気合を入れようとしたその時、装備準備室のドアが開き、外の音が漏れ聞こえて来た。
「きゃー! 海星せんぱぁい!」
「眼福の極み!」
「あぁ。疲れが癒やされていく⋯⋯」
黄色い歓声を浴びながら部屋に入ってきたのは、海星くんだ。
海星ガールズからの熱いエールを華麗にスルーして、こちらに近づいてくる。
「海星くん! お疲れ様です!」
お辞儀をしながら挨拶すると、海星くんは黙ってコクリと頷いた。
「なに? 海星も小春ちゃんの様子を見に来たの?」
樹くんの問いかけにも、海星くんは黙って頷く。
ダークブロンドの髪がさらりと揺れると、ヘアカラーでは説明がつかないような、透明感のある不思議な輝きを放っているように見える。
「そ。じゃあ、小春ちゃん、どうぞ」
海星くんもイヤーマフとゴーグルをつけた事を確認して、再び的に向かって銃を構える。
「足はもっと開いて、肩の力は抜いて。肘の角度がそれだと、連射してる内に手首を痛めるかも」
樹くんが後ろから、立ち方や関節の角度を、チョチョイと直してくれる。
「はい。いいよ」
肩をぽんと叩かれ、いよいよ試し撃ちだ。
「それでは、行きます!」
引き金に指をかけると、デザライトの光の回転が速くなってきた。
モーターが唸る音が、どんどん高くなり、やかんが吹いたような、焦りや不安を掻き立てる音がする。
スコープを覗き、慎重に照準を合わせる。
狙うは急所。赤いマーク。
スコープの十字と、的の中心が合わさった瞬間、思い切り引き金を引いた。
すると、光線が走るようなピュインという音が鳴ると同時に、ドッカーンと爆発音がして、目の前のオクトパスが粉々に吹き飛ぶのが見えた。
え? 今、私の撃った玉が土管くらいの太さのビームみたいに見えたんだけど。
私が立っている場所から、的までの直線上の床が焦げて、白い煙を上げている。
ライフルは加熱されすぎて、素手では持てないレベルだ。
「ごめんなさい。どうしよう。ライフルも、オクトパスも壊れちゃった⋯⋯」
物凄い音と地響きが他の訓練場にも伝わったのか、隊員たちが部屋の外に、わらわらと集まってくる。
どうしてこんな大事に⋯⋯
「はぁ? ありえないんだけど。こんな火力で後ろから撃たれたら、仲間ごと消し炭になるじゃん。いよいよ俺の手には負えないかも。ちょっと冬夜さんと通話してくる」
樹くんは慌てた様子で、部屋の隅に移動してしまった。