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67.危機的状況

 ディア能力3桁を誇るこの私が、今回の計測では8という数字を叩き出した。


「昨日はお休みだったはずだけど、ディア能力が枯渇するほど何かに使った? 例えば、デストロイヤーを何発も撃ったとか。それも、日付が変わる前後とかに⋯⋯」

 

 研究部の方は恐る恐る確認してこられる。


 消費したディア能力は、時間経過で徐々に回復するらしいから、昨日の深夜に使い果たしたのなら、これくらいでも許容範囲らしいけど⋯⋯

   

「いえ。昨日はお休みでしたから、普通に過ごしてました」


 普通に過ごしたとは言えないけど、殺されかけましたとも言えず⋯⋯


 陽太さん、冬夜さん、樹くんはこの結果に唖然としている。

 光輝くんは自分のせいだと思っているのか、悲しそうに俯く。

 海星くんはいつも通りの無表情。


 珍しいのは、いつもは少しの数字の変動で大騒ぎする米谷さんが黙ってるってこと。


「8だったら、一般隊員以下じゃないか」


「給食部員と変わらない」


「戻したほうがいいんじゃないか?」


 そんな声が聞こえてくる。


 このままじゃ、六連星を外されてしまう。


「彼女は生身の戦闘能力も高いですし、世間の人気も獲得しています。もう少し様子見が必要だと判断します」

 

 私をかばってくれたのは、飯島本部長だ。

 

「飯島くんの言う通りだ。思春期のディア能力変動はよくあること。一日も早く立て直すように」


 朝倉統括は言葉ではそう言うものの、期待外れだとでも言いたげな険しい表情をしていた。



 測定結果に落ち込みながら、みんなと一緒に作戦会議室に戻る。


 作戦会議室内は、絶望的な空気が流れている。

 

 そりゃそうだよね。

 私のディア能力値が桁違いだからって、突然六連星に抜擢されて、みんなはそんな私に期待して、仲間として受け入れてくれた。


 デストロイヤーを撃てない私に、ここにいる価値はない。

 これからの作戦にも、間違いなく支障が出る。


「なぁ、小春くん。いったい何があったんだ? ディア能力3桁の世界は僕には分からないが、こんなにも能力値が下がるなんて、どれだけの苦しみなんだ? キミ一人で抱えていいものではないだろう」


 陽太さん、私の負荷が過剰なんじゃないかって、心配してくれているんだ。

 

「話したくなければ、無理に話す必要はないが、俺たちも力になれるかもしれない」


 冬夜さんも、言葉を選びながら声をかけてくれる。


 本来なら上官には、任務に支障を来すレベルの不調については報告するべきなんだろう。

 

 けど、一華さんに殺されかけて、光輝くんとも同僚に戻ったからだと思いますだなんて、言えるはずもなく⋯⋯


「ありがとうございます。話さなくて良いなら、今は言いたくありません。ごめんなさい。すぐに立て直しますから、猶予を頂けると嬉しいです」


 きっぱりと断ると、二人はそれ以上何も言わなかった。

 結局、朝倉統括の引き抜きは見送りになったとのこと。


 その日の夜は早めに寝て、翌朝は訓練開始前に、米谷さんの元を訪れた。


「米谷さん。お願いです。もう一度ディア能力を測ってもらえませんか?」


 書類の整理をしていた米谷さんに詰寄り懇願する。


「はぁ〜どうして、また測りたいって思ったの?」


 米谷さんは、うんざりしたように問いかけてくる。


 いつもハイテンションな米谷さんの面倒くさそうな態度に心が痛む。

 私はもう、期待できる被験体じゃ無くなってしまったから⋯⋯


「それは、戸惑ってるというか、焦ってるというか、何かの間違いで、元に戻ってたらいいなって⋯⋯」


 昨日の今日で数値が変わってるなんて、そんな甘いものではないというのは分かっている。

 でも、ディア能力だけが私の価値なんだと思うと、居てもたってもいられない。


「うん、そうだね。たぶん今、測ったら3桁に戻ってると思うよ」


 米谷さんは、さも当たり前の事のように言った。


「え? どうして? どうして分かるんですか⋯⋯?」


「ピンとくるようなら、仲間に入れてあげようかなって、ちょっと迷ったけど。小春ちゃんってすぐ騙されるタイプだよね! 分かる分かるぅ〜」


 米谷さんはからかうように、ウシシと笑う。


「へ? 誰が誰に騙されるって?」


 何がなんだか分からずに戸惑っていると、米谷さんは種明かしをしてくれた。


「実は⋯⋯昨日の測定結果は嘘の値でした! 小春ちゃんを海外支部に行かせたくなくって! だって、小春ちゃんがいないと、僕の大切な研究が強制終了になっちゃうじゃん! それは人類の利益とは程遠い結果だからね!」


 米谷さんはいたずらが成功した子どもみたいに笑っている。

 なんだ。一桁の計測結果は細工された値だったんだ⋯⋯


「それなら3桁の値を見て安心させてくださいよ」


「だめだめ! 朝倉統括が目を光らせている間はだめだって! 何かの拍子でバレたら意味ないじゃん! 当分の間、小春ちゃんは、ディア能力一桁の人として振る舞うこと! 六連星のみんなにも内緒。いいね!?」

 

 米谷さんは強く言い聞かせてくるのだった。

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