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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
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58.泣きたい誕生日


 光輝くんの部屋で誕生日パーティーを開いてもらったけど、光輝くんは急ぎの用事が出来たと言って、出かけてしまった。

 いい雰囲気だったのに。しかもケーキは食べ損ねたし。


 しゃがみ込みたいくらい、最悪な気分だけど、なんとか自分の部屋に帰って来た。 

 そのままベッドの上にドサッと倒れ込む。


 電話の発信元は間違いなく一華さんだった。 

 なのに光輝くんは、小倉先輩が相手だと嘘をついた。

 もちろん、一華さんの携帯で小倉先輩と話した可能性だって否定は出来ない。

 クラスメイトなんだから、何らかの集まりの最中で⋯⋯とか。


 けど、誕生日なのに、光輝くんは私のことが好きって言ってくれたのに、結果的には私がひとりぼっちになってしまった。


 さっき一華さんが、どっちが特別か証明するって言ってたのは、このことなのかな。

 じゃあ、私が浮気相手だったってことだ。


 何やってんだろ、私。

 好きって言われて、甘い言葉とスキンシップでその気になって。

 でも、光輝くんって、そんな不誠実な事をする人なのかな。

 だめだ。一人で考えても意味はない。

 

『お忙しいところごめんなさい。もし、今日中に帰って来れるなら、少しだけ電話で話せませんか? 声を聞いて話したい』


 光輝くんへのメッセージを送信する。


 左手首のブレスレット――外そう。

 小さな金具と格闘していると、インターホンが鳴った。


 光輝くん! もう用事が終わって来てくれたのかな!?


 慌ててドアを開けると、そこに立っていたのは意外な人物だった。


「あれ? 樹くん? どうしたの?」


 樹くんは、何やら後ろ手に隠している様子。


「突然ごめん。今日は小春ちゃんの誕生日だと思って、ケーキ焼いたんだけど食べる? もうお腹いっぱいなら無理しなくていいから、冷凍すれば、しばらくもつから⋯⋯」


 少し緊張している様子の樹くんの手には、ケーキが入っているであろう箱。

 今日が誕生日だって、覚えていてくれたんだ。


「ほんとに? 私のために焼いてくれたの!? 食べる食べる! 絶対に食べるよ!」


 樹くんの腕をつかんで、グイグイと部屋の中に引き込む。


「ささっ、どうぞおかけになってください。お客様」


 テーブルセットの椅子を引いて、座るように促すと、樹くんはぺこりと頭を下げて座った。


「コーヒーは置いてなくって、ティーパックのお茶でもいい? 緑茶、ほうじ茶、紅茶⋯⋯どれがいい?」


「いいの? じゃあ⋯⋯ストレートティーで」 


「了解!」


 電気ケトルでお湯を沸かし、マグカップに紅茶のティーパックを入れて、お湯を注ぐ。

 赤みがかった紅茶のクセのない香りが、湯気に乗ってふわっと漂ってくる。


 樹くんはというと、テーブルの上に両肘をついて手を組み、あごを乗っけて何か考え事をしている。

 そんな自然なひと時でさえも、様になっている。


「はい! できました!」


 テーブルの上にカップを二つ置いて、向かいあって座る。


「ありがとう」


 樹くんは少し硬い表情をしながら、紅茶を飲む。

 

「すごいね! 樹くんが私の部屋にいるのが不思議な感じ! 樹くんが座るとテーブルが小さく感じるね! また来てくれるならコーヒー買っとくね!」


 にこにこ話しかけると樹くんは、ふっと笑って表情を和らげた。

 

 どうしたんだろう。

 いつもの樹くんならもっと口数が多いのに。


「ケーキ焼いてくれたってことは、オーブン買ったの?」


「ううん。給湯室のを使った。結構上手く行ったと思う。ちょっとあっち向いてて」


 樹くんは何やらゴソゴソとカバンの中を探り始めた。

 何が始まるんだろう。

 期待しながら、言われた通りに背を向ける。


「はい。もう良いよ」


 ドキドキしながら振り返ると、テーブルの上には四角い形のバースデーケーキが置かれていた。

 真っ白なケーキの上には、ピンク色のうさぎの人形と、1と7の形をした火が灯ったロウソク。

 

「ほら、吹き消して」


 樹くんが私の方にケーキを近づけると、ロウソクが燃える匂いがして、この場では私が主役なんだと実感が湧く。


 秋人の病室では火気厳禁だから、毎年ロウソクは使わないんだよね。


「うん。行くよ」


 ドキドキしながら、一息にふーっと息を吹くと、ロウソクの火は消えた。

 

「小春ちゃん、おめでとう」


 樹くんは柔らかい笑みを浮かべながら、拍手してくれた。


「うん。ありがとう。嬉しいけど、なんかちょっと照れくさいね」


 あまりにも優しい目をされるので、樹くんの顔を直視出来ない。


「ほら、食べて」


 樹くんは布製のカトラリーケースから、フォークを取り出して渡してくれた。


 なんと用意がいいのか。

 彼とピクニックに行ったら、至れり尽くせりで楽しませてくれそうな気がする。


「樹くんは食べないの?」


「うん。俺は練習でも、味見でも食べたから」


 少し照れたような樹くん。

 この日のために、ケーキの練習をしてくれてたんだ。


 パシャパシャと、さまざまな角度から写真を撮ったあと、マジパンで出来たうさぎちゃん人形をお皿の上に避難させる。


「ありがとう! いただきます!」


 フォークを突き刺すと、真っ白なホイップクリームの下には、ふわふわのスポンジ。

 その更に下には、スライスされたイチゴの層がある。

 口に運ぶと、クリームの甘み、イチゴのきゅんとした酸味が絶妙なバランス。

 スポンジの舌ざわりもなかなか⋯⋯


 樹くんは、テーブルに上半身をつけて、上目遣いでこちらの反応を伺っている。


「一言で言うと幸せ!」

 

「そう。よかった」


 安心したような樹くんの微笑みが、まぶしく感じる。

  

 最後にマジパンのうさぎをポリポリかじりながら、幸せをかみしめる。


「そんなお洒落してどこ行ってたの? 弟さんのところ?」


 もしかして樹くんは、昼間も部屋を訪ねてくれたのかな。

 だとしたら悪いことしちゃったかも。

 昼間はね、家族で過ごしたあと、光輝くんと⋯⋯


 封じ込めていた嫌な記憶が一気に蘇る。

 スマホを確認するも、返信はないどころか、既読にすらなっていない。


 あーやば。さっきまで幸せな気分だったのに。

 ここで泣いたら、おかしな雰囲気になるじゃん。


 しかも、エスパー海星くんにまで、最低な誕生日を過ごしてるんだなってバレちゃうのに。


「小春ちゃん、どうしちゃったの?」


 堪えきれずに泣き出してしまうと、案の定樹くんを困らせてしまった。


「ごめんね、樹くん。私が間違ってた。ごめんなさい」


 せっかく忠告してくれたのに、私がそれを聞かなかったから。


「泣いてる理由はこれ?」


 樹くんは私の左手首を掴んで持ち上げた。

 そこにはイエローシトリンが揺れている。


「だって、私のこと好きだって。今日はお祝いしてくれたのに、行っちゃった。一華さんのところ。でも、男友達だって。嘘ついて」


 ほら、だから俺は言ったでしょ?

 自業自得でしょ?

 そんな声が聞こえて来そうなのに、樹くんは何も言わなかった。


 同情するような目で見つめながら、支離滅裂な私の話を、ただ、うんうんって聞いてくれた。


「樹くん、これ、外してくれない? 今の私、正気じゃないからか、上手くいかなくって」


 樹くんは黙ったまま、ブレスレットの金具に触れて、そっと外してくれた。

 なんとも言えない開放感と同時に寂しさを感じる。


 話を聞いてもらい気分が少し落ち着いた頃、樹くんは帰って行った。


 私が光輝くんに送ったメッセージは、その日の内に既読になることはなかった。

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