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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
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53.俺と恋しよう?


 宿題の提出が遅れ、罰として体育科倉庫の掃除をしていた私は、何故か扉が開かないことに気がついた。


 ここのドアって引き戸だったよね?

 右に向かって引けば、それでいいはずなのに⋯⋯


 鍵はチェーンと南京錠の組み合わせだったから、勝手に閉まるって事はない。

 まさか、誰かに意図的に閉じ込められた?


「すみません! まだ中にいるんですけど! 開けてもらえませんか!?」


 大声を出しながら扉を叩いても返答はない。


 スマホの電波は届かないみたいで、外部との連絡手段はないし、窓はあるけど、位置が高すぎて開けられない。


 この時間はグラウンドで部活をしている人もいるけど、果たして体育科の倉庫に用事がある人はいるのか。


 叫び続けても埒が明かないので、誰かが近づいてくる気配がするまで、大人しく待つことにした。

 マットの上に腰かけ、体育座りをする。


 明日の朝には、どこかしらのクラスが体育をするよね?

 けど、それまで飲まず食わずで耐えられる?


 締め切った倉庫内は、ほこりっぽい上に、熱気がこもって、汗がダラダラ出る。 

 夜には気温が下がるかな。

 でも、それまでに干からびて死ぬかも。



 生徒たちのかけ声が静かになってきたから、そろそろ部活動が終わる時間かな。

 ここで誰も来てくれなかったら、一晩お泊りコース⋯⋯


 暑いし、なんだか息苦しい。

 それに、こんな不気味なところで、一人で夜を越すなんて⋯⋯

 体調の変化と心細さで、不安と恐怖を感じる。

 

 この学校に来てから踏んだり蹴ったりだ。

 私はただ、ヒーロー活動を優先しながらも、平凡な高校生活を送れたら、それだけでよかったのに⋯⋯


 こんな目に遭ったら、またディア能力が下がるのかな。

 そしたらヒーロー活動も、ままならなくなる。

 六連星も、外されちゃうかもしれない。

 

 歴代の六連星たちも、こんな恐怖心と戦ってきたのかな。


 もうイヤだな。

 ほんの少しだけでいい。誰かに甘えて泣きたい。

 そうしたら、また頑張れるから。

 誰か私を見つけてよ。

 分かるよ。同じ気持ちだよって、言ってよ。


 抱えた膝に顔を伏せて泣いていると、ガチャリという音がして、重いドアがゆっくり開いた。

 



「小春ちゃん! やっぱりここやった!」 


 助けに来てくれたのは、光輝くんだった。

 私のことを探し回ってくれていたのか、額に汗をかいて、肩で息をしている。


「光輝くん⋯⋯もう駄目かと思った⋯⋯」


 安心感から声をあげて、わんわん泣くと、光輝くんはお母さんが泣いてる子にするみたいに、ぎゅっと抱きしめて背中を撫でてくれる。


「暑いから、でよーか。ほら」

 

 光輝くんは肩を抱いて、外に連れ出してくれた。


 その後、教室からカバンを持ってきてもらい、スポーツドリンクとタオルもくれた。

 染み渡るようなスポーツドリンクの冷たさと甘みに、心と身体の緊張状態が落ち着いていく。



「インタビューの時間がどんどん過ぎて行くのに、いつまでも小春ちゃんが帰ってこーへんからって、樹と海星に頼まれて様子を見に戻ったら、教室に荷物は置きっぱやし、体育科倉庫の鍵はかかってるしで、まさかと思って」


 光輝くんは、私を探しに来てくれた経緯を教えてくれた。

 

「そんで、犯人は分かるん? こないだ話してた子ら?」


 光輝くんは私を安心させるような笑顔から一転し、いつになく怖い表情になった。

 

「証拠もないですし、分からないです。鍵を閉めたのは、いたずらだったのか、親切心だったのか⋯⋯ただ、やっぱり私って嫌われてるのかなって思います。恋ってすごいんですね。自分の思いのためなら、簡単に他人を傷つけられるんですから。私、そんな恐ろしい感情は知りませんよ。恋をしたら、ディア能力が回復するらしいですけど、ヒーローマインドがやられちゃいそうです。というかそもそも、私、ヒーローのくせに、いじめに遭ってるなんて、子供たちに失望されちゃいますよね」


 私がかつて憧れたヒーローたちは、みんな、前向きで、明るくて、夜空に輝く星みたいに人々を照らせる人だ。

 それなのに今の私は、嫌われ者で、やられっぱなしで、膝を抱えてウジウジしている。


 光輝くんは、隣に座って私の話をじっくり聞いてくれた。

 優しい声で、うんうんと頷きながら。

 

「小春ちゃんは新しい環境でもよく頑張ってる。それは小春ちゃんの事を見てれば、誰でも分かる。あとはそうやなぁ、かっこ悪くて失望されるのは、いじめをやってるヤツらやと思うな。それに、俺らは対エイリアン専門のヒーローであって、学校ではただの高校生なんやから。自分を追い詰めたらあかんで」


 光輝くんは優しく頭を撫でてくれた。


 私は無意識に弱さを隠そうとしていたのかな。

 本当はもっと周りに助けを求めても良かったのかも。

 自分はヒーローなんだからと、平気なふりをしてやり過ごそうとしていたのかもしれない。


「確かにそうですよね。私らしさ、珍獣らしさを忘れていたかもしれないです。本当の私は、こんな風に、大人しくやられているタイプじゃありませんから」


 なんとか気持ちを切り替えようと、拳を作って前に突き出す。

 すると、不意に、左のほっぺたに柔らかいものが触れた。

 

 頬をさすりながら隣の光輝くんの顔を見ると、自分からしかけたはずの彼が、何故かポカンとしていた。


「え! ちょっと待ってくださいよ! なんですか今のは! まさか⋯⋯!」 


「ごめん。なんか、かわいかったから、つい⋯⋯」


 光輝くんは申し訳なさそうに頭をかきながら、慌てて取り繕うかのようにウィンクを飛ばしてくる。


「つい⋯⋯じゃないですよ! さすがチャラ男。真面目に話を聞いてくれたと思ったのに!」   


 リアクションに困るからと、大げさに暴れているとガシッと手を掴まれた。

 おどけたように、手を解こうとしてみるも、真剣な表情で見つめられる。


「俺、小春ちゃんのことが好き。不器用やけど、がんばりやさんで、何にでも一生懸命なところに、いつも胸を打たれる。守ってあげたくなる」


「それはどうも、ありがとうございます」 


 素直に頭を下げるけど、手は掴まれたまま。


 私の手を握る光輝くんの手のひらから、次に紡ぐ言葉を考えている時の息遣いから、緊張している様子が伝わってくる。


 あぁ、これはたぶん大切な話をしてくれているんだ。

 ちゃんと聞かなきゃ。

 間抜けな私でも、それだけは理解できる。

 

 光輝くんの方を向き直って、ヘーゼルブラウンの瞳を見つめ返すと、心臓がばくばくして、世界から自分の鼓動の音と光輝くんの声以外は、全て消えたみたいな錯覚を起こす。

 

「小春ちゃん、好きです。これから俺のこと、男として見てみてくれへん? 俺と⋯⋯恋しませんか?」


 掴みどころのないモテ男が、耳まで真っ赤にしながら放った言葉――

 それはあまりにも突然の告白だった。

 光輝くんが私の事をそういう意味で好きって、思ってくれていたなんて。


「あの、びっくりしちゃって⋯⋯その⋯⋯まずは、ありがとうございます。それから⋯⋯はい⋯⋯これから、意識してみます⋯⋯」


 手を握り返して答えると、光輝くんは犬のように抱きついてきた。


「やったぁ! 小春ちゃん、大好き! じゃあさぁ! お近づきの印に! ここ!」


 光輝くんは自分のほっぺたを人さし指でツンツンしながら、唇をとがらせている。

 まさか、ほっぺにキスしてってこと?


「はい⋯⋯じゃあ⋯⋯行きますよ?」


 光輝くんの肩に手を置くと、カッターシャツ越しにもその身体が熱くなっているのが分かった。

 光輝くんほどの経験者でも、こういう時は緊張するものなのか。

 

 思い切って頬に、ちゅっとキスすると、光輝くんの表情がみるみる内に晴れやかになっていく。


「ありがとう! 嬉しい!」


 全力で喜ばれると、自分が魔法使いにでもなったような気分になる。

 私の行動一つで、こんなにも喜んでもらえるんだ。


 照れくさく思いながらも微笑み合っていると、誰かが走ってくるような足音が聞こえて来た。



「小春ちゃん! 大丈夫!? 今までどこにいたの?」


「⋯⋯⋯⋯泣き止んでる」


 息を切らせた樹くんと海星くん。

 心配して来てくれたんだ。

 

「悪い! 見つかったって連絡入れてなかったわ! どうやらクラスに小春ちゃんを倉庫に閉じ込めたヤツがおるみたいやから、二人も注意して見てあげてな」


 光輝くんは、樹くんと海星くんに事の次第を説明してくれ、海星くんは無言でコクリコクリと頷く。


「分かった。注意して見とく。災難だったね。ほら、立てる?」


 樹くんは、私に手を差し伸べてくれる。

 その手を取ろうか一瞬迷った隙に、光輝くんは私の手を握った。


「はいよっと」


 隣に座る光輝くんは、祝賀パーティーのエスコート役の時みたいに、私の手を掴んで立ち上がらせてくれた。

 あんな話をした後だからか、握られた手を意識してしまう⋯⋯


 樹くんは、そんな私たちの様子を見て、気まずそうに、さっと手を引っ込めた。 

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