5.ピンクレンジャー抜擢の理由
「はい! では、自己紹介も済んだところで、小春ちゃんがなぜ、ピンクに任命されたのか、解説するよ! もうこれは納得しかないからね〜!」
浮かれているのを隠せない様子の米谷さんは、六連星のメンバーを作戦会議室に集めた。
皆さんは、ぞろぞろとモニターの前に移動する。
米谷さんはタッチパネルを操作して、棒グラフを表示させた。
「はい! まずは、なんと言っても桁外れのディア能力値! 防衛隊の管理部門職員の平均は【7】。レンジャー部隊の平均は【31】。小春ちゃん以外の六連星の五人の平均は【61】優秀だよね〜! そして小春ちゃんが⋯⋯」
「ええ! 【173】!?!?」
陽太さん、冬夜さん、光輝さん、樹さんは前のめりになりながら叫ぶ。
海星くんは静かに目を見開いている。
「確かに逸材だ! とんでもない戦力になる!」
「戦闘時の配置を見直す必要があるな。小春の適性武器にもよるが、基本的には後衛に据えて⋯⋯弾数で押すか⋯⋯あるいは⋯⋯」
「小春ちゃん、すごいやん! 俺、3桁の子は初めて見たで!」
「⋯⋯⋯⋯強い」
「これだけ能力が高ければ、適当に暴れ回るだけで雑魚敵には勝てるでしょ。なんでもっと早く説明してくれなかったの? 米谷さんは『レッツゴーマートで見つけた子』としか教えてくれなかったから」
陽太さん、冬夜さん、光輝さん、海星くん、樹さんが各々発言する。
ちなみにレッツゴーマートとは、基地内にあるコンビニのことだ。
確かに間違いではないけど、事情を知らない人からしたら意味がわからないよね。
「次! ヒーローとしてのマインド! まずは、世界の平和を願いながら眠りについた回数、第一位! 続いて、街で転んだ知らない人に声をかけるか、相手の羞恥心に配慮して気づかないフリをするかで迷った回数、第一位! 最後に、座席に忘れ物をした人の後を追って、無関係の駅で下車した回数、第一位! 他にも一番ではないけど、上位に食い込んだものはスライドの通りっ!」
米谷さんは大画面に、マニアックすぎるランキング結果を表示した。
レンジャー部隊内で一位の項目には、金色の王冠のマークが輝いている。
「ちょっと、よくわからないし、恥ずかしいんですけど。どうして米谷さんがこんな事知ってるんですか?」
「ディアラボの測定機で測ったんだよ! 君が壊したやつね!」
あんなラケットみたいなもので、こんな細かいことまで分かるんだ。
もしかして、人には言えない秘密も、この人には把握されているのでは?
「身体能力についても、空手の経験があるから、基礎はできてる。防衛隊の歴史、理念、武器や人員配置なんかの知識の内、一般に公開されているものは、ほぼ満点」
ここに来て五歳から続けてきた空手と、ヒーローオタクの経験が評価されるとは。
「あと、六連星に必要なのはなんだと思う? じゃあ、小春ちゃん」
にこにこ顔の米谷さんに指名される。
「そうですね⋯⋯六連星は、次世代の子供たちに勇気と希望を与えるのがコンセプトのチームです。そのため、他の部隊とは比にならないくらい、メディアの露出があります。実際の戦闘シーンも、その一部が配信されるのが一般的ですよね。ですから⋯⋯子どもが好きとか⋯⋯愛想がいい⋯⋯とか?」
自信が持てないまま回答すると、米谷さんは無言で首を振った。
「はいはい! 俺、分かります! 答えは〜顔がイケてること!」
光輝さんは目元でピースサインをしながら、キメ顔をした。
「そう! 光輝くん正解! 小春ちゃんって、ウサギみたいで、とっても可愛いでしょ?」
米谷さんは光輝さんの事をビシッと指さした後、私の頭とあごをサンドイッチのように挟んで、みんなの方に顔を向ける。
社交辞令なのか、一応、皆さん頷いてくれてるけど。
「え? 私の顔って可愛いんですか? 似ている動物ランキング第一位はゴリラなんですけど」
思わず、あざとい天然女子みたいな発言をしてしまう。
空手仲間の幼馴染たちからは、ブスとか怪獣とか散々言われてきたから、てっきりそういう系かと。
「民衆向け配信におけるヒーローなんていうのはね。かっこよければ、それでいいんだよ。女の子好きでもいい。無口でもいい。多少ひねくれててもいい。大事なのは、子供だけではなく、母親世代のハートも掴むこと。そして、かつてヒーローに憧れた父親世代の心を、いつまでも離さないことなんだ!」
米谷さんは、光輝さん、海星くん、樹さんを順番に見ながら頷いたあと、拳を天に向かって突き上げた。
なるほど。
それが六連星の収益モデル⋯⋯
「以上! 小春ちゃんがピンクレンジャーに相応しい理由の説明会、終わり〜! それにしても、このグラフ、数字の羅列、とても美しい。惚れ惚れするよ⋯⋯」
米谷さんは説明会を締めたあと、私のディア能力値の結果を見ながら、恍惚とした表情を浮かべ、自分の世界に入ってしまった。
「ということで、小春くんがこのチームのメンバーに、ふさわしいと言うことは、揺るぎない事実だと分かった。改めてこれからよろしく!」
陽太さんは白い歯を輝かせながら、こちらに手を差し出した。
「はい! よろしくお願いします!」
私も笑顔でその手を握り返す。
「この後、小春くんは、樹について回って、レンジャー部隊の活動を学んで欲しい。それでは樹、後は頼んだぞ!」
「ええなぁ〜! 俺も一緒に⋯⋯ふがっ」
「武器の適性が分かり次第、俺にも共有して欲しい。戦闘配置を何通りかシミュレーションしておきたい」
冬夜さんは、光輝さんの口を塞ぎながら言う。
「じゃあ、ついて来て。まずは施設の説明をするから」
樹さんは、一応は私の六連星入りに納得してくれたのか、特に抗議する様子もなく、指導係を引き受けてくれるみたい。
「はい! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
私は急いで彼の背中を追いかけた。