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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
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49.ワスプ型エイリアン

 十月。

 防衛高校に入学して一ヶ月が経った頃。

 私たち六連星は戦場にいた。


 狩り蜂(ワスプ)型エイリアンの大群が上守城上空に出現したので、その討伐のために出動していた。

 

 ワスプたちは、一体一体が大きめの猫くらいの大きさがあって、隙あらばお尻の毒針を突き刺し、人々を襲う。

 

 既に数名の住民と隊員たちが毒を食らってしまい、救護部の処置を受けているところだ。 



「住民の避難が終わるまで、持ちこたえるんだ! 光輝と樹の攻撃で敵を退けつつ、僕と冬夜くん、海星、小春くんで数を減らそう!」


 陽太さんの指示通りに陣形を組み直す。


 光輝くんが閃光で目潰しをし、動きが止まったところを中・遠距離組の三人で集中攻撃する。


 一方、海星くんは樹くんが撃つ、葉っぱ状の弾の壁〈アイビーカーテン〉に隠れながら、ダガーで敵を切り裂く。


「小春。少し下がって、南に向かって〈シャッターレイン〉を撃てるか? 中級部隊の狩り残しがこちらに流れて来ているが、一度に相手するのは不可能だ。集団を分断して、この一帯を先に片付けたい」

 

 冬夜さんが後退する隙を作ってくれるので、後ろに下がり、離脱する。


 シャッターレインというのは、私の新技で、細かい矢を雨のように降らし、視界不良の追加効果を付与する技だ。

 樹くんのアイビーカーテンの応用とのことだ。


 冬夜さんたちに背を向け、南の空に向かって矢を放つ。

 ピンク色の無数の矢が一度は高く飛んだあと、重力の影響を受け加速しながら降り注ぐ。

 辺り一帯に、霧が立ち込めたみたいにモヤがかかる。


 これで南から敵の援軍が来るのを遅らせる事ができる。

 再び冬夜さんたちの元に戻ろうとしたその時、霧の向こうから足音が聞こえて来た。


 ドコドコと細かい音が複数聞こえてくる。

 

「こちら、大田原。猟犬(ハウンド)の群れが北上中。ワスプの大群に紛れ、茂みに隠れていた模様」


 大田原隊長の声が聞こえた頃には、霧の中からハウンドの群れが飛び出して来るのが見えた。

 ワスプと一緒に、ハウンドまで送り込まれていたんだ。


 ハウンドの群れは、私に狙いを定めたのか、まとまって突っ込んでくる。

 今からじゃ、ボウを構えても間に合わない。

 ぱっと見ただけでも50匹近くはいるけど、近接武器でやるしかない。


 ブレードを抜いて、一匹一匹と飛びかかってくるハウンドを仕留める。

 なんとか時間を稼ぐも、同時に飛びかかられ、肩に食らいつかれる。


 ハウンドって、人を噛まないんじゃなかったの?

 戦闘服を噛みちぎられて、腕の肌が露わになる。

 もう一度噛みつかれたら、ただじゃ済まない。

  

 もうだめかと思ったその時―― 


「小春ちゃん、真上に跳んで!」


 遠くから光輝くんの声がする。

 本来ならば、そんな事をしても、数秒の時間稼ぎにしかならないだろう。

 

 でも、光輝くんが言うんだから、きっと策はある。

 

 ブレードを振り回して、ハウンドを退け、真上に向かってジャンプをする。

 次の瞬間、光輝くんが撃った〈ショックウェーブ〉が私の真下で炸裂し、ハウンドたちは四方に吹き飛ばされていった。

 

 光輝くんのこの技は、弾の爆発範囲内の物を衝撃波で弾き飛ばすというものだ。


 真上に飛んだ私も、その衝撃波の余波で、さらに高く飛ばされた。


 お城の天守と同じくらいの高い位置に身体がある。

 どうしよう。さすがに着地できない。


 絶望的な状況に、震えながら落下すると、地面にぶつかる直前に、小さな衝撃波に再び弾き飛ばされた。

 ポヨンポヨンと、繰り返し小さな衝撃波で弾き飛ばされ、まるでトランポリンをしているような状態になる。


 人形みたいに、されるがままに跳ねていると、下からがばりとすくい上げるように抱き抱えられた。


「やったー! 小春ちゃんゲット!」

  

 私の身体をキャッチしてくれたのは光輝くんだ。

 言葉はおちゃらけているけど、安心したような表情をしている辺り、間一髪だった様子。


「ありがとうこざいます! なんとお礼を言っていいか!」

 

 そっと地面に降ろしてもらい、頭を下げる。


 いくつかハプニングがあったものの、ワスプ討伐の任務は成功したのだった。



 その日の夜。

 ハウンド型エイリアンに噛みつかれた私は、その時の状況をレポートにまとめて提出するように指示された。


 詳しい状況をと言われても、自分で撃ったシャッターレインで視界も悪かったし。


 頭をひねりながらも、キーボードを叩いて、淡々と事実だけを入力していく。


「小春ちゃん。お疲れ様!」

 

 声をかけてくれたのは命の恩人、光輝くんだ。


「あ! 光輝くん! お疲れ様です! てっきりもう、お帰りかと!」


 光輝くんは、手に持ったコンビニ袋をテーブルの上に置く。


「小春ちゃんが残業するっぽかったから、差し入れをと思って。ついでに俺もここで食べるわ。なんか今日は、一人で食べる気分じゃないねん」


 光輝くんが買って来てくれたのは、栄養バランスが良さそうな、九マス弁当だ。


「いいんですか!? ちょうどおなかが空いてたんです。やっぱり神です!」


 お弁当は梅干しご飯に炊き込みご飯、野菜の煮物、コロッケ、焼き魚などなど、いろいろなメニューが少量ずつ入っている。


 光輝くんも隣に並んで座り、同じお弁当を食べる。


「美味しいなぁ、これ!」


「はい! 控えめに言って最高です!」


 にこにこしながらお弁当を食べていた光輝くんは、食事が終わり会話も途切れたタイミングで、ふと暗い表情になった。


「光輝くん。もしかして、元気ないんですか?」


 戦闘中はそんな素振りを見せなかったけど、なんだかさっきから少し疲れた顔をしているような⋯⋯


「まぁ、ちょっと、色々あったかなぁ」


 光輝くんはどこか遠くを見るような目をする。


 色々ってなんだろう。

 ご家族のこととか、学校でのこととか? 

 最近はセーブしてるらしいモデル業のこととか?

 六連星の活動は順調に見えるけど⋯⋯


「そうなんですね。私に出来ることがあったらなんでも言ってくださいね! こういうのはお互い様ですから」


 任せてくれと自分の胸を叩くと、光輝くんは、にっこり笑う。

 なんだか愛想笑いをされたような。


 

 どうしたらいいのか迷っていると、ドアを開けて樹くんが入って来た。

 手には料理が入った透明な保存容器を持って⋯⋯


「小春ちゃん、残業お疲れ。これ、作り過ぎちゃったから、よかったら食べて⋯⋯って、光輝くんもいるじゃん」

 

 樹くんは保存容器を手渡してくれた。

 中身はケチャップライスが黄色い卵にふんわりと包まれたオムライスだ。


 どう見たって、偶然作りすぎるようなメニューじゃないのに。

 前に私が、ケチャップが好きって言ったのを覚えてくれてたのかな。


「樹くん、ありがとう! 作って来てくれたんだね! 感動した!」


 お弁当を食べた直後ではあるけど、その気持ちが何よりも嬉しい。


「悪いなぁ、一足遅かったな。小春ちゃんのお腹は既に俺が買ってきた弁当で満たされてるねん」


 光輝くんはコンビニ弁当の空箱が入った袋を持ち上げる。

 それを見た樹くんの顔は一瞬ひきつる。


「なんだ。それならいいや。誰か夕飯遅そうなヤツのところに持ってくし」


 樹くんはオムライスをさっと取り上げた。


「あぁ⋯⋯そうだね。ありがとう⋯⋯」


「別に。じゃあね、お疲れ」


 樹くんは少し気まずそうに立ち去っていく。

 その背中が遠ざかっていくのが切なく感じられた。

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