表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
41/112

41.正義と犠牲


 六連星が始動してから一週間ほど経った頃のこと。


「六連星チャンネル〜!」


 朝、出勤すると、休憩室のテレビから私たち六人の声が聞こえてきた。

 

 休憩室のドアを開けると、そこにはソファに座る光輝くん、樹くん、海星くんの姿が。


「あ! 小春ちゃん! 今からこの間のハウンド討伐の映像見るねん! ほら、おいで!」


 光輝くんはソファの座面をぽんぽんと叩く。


「お! 遂に初配信ですか!? 見る見る〜!」


 六連星の活動は、毎週日曜日の朝に放送され、リアルタイムを逃しても、後日、無料動画配信サービスでも視聴が可能だ。


 今回のような事件が起きない場合は、六連星の日常回や防衛隊からのお知らせが挟まれるか、残念ながらスキップされる。


「今回は茂みをツンツンしてるところが長かったので、撮れ高的にはどうなんでしょうか?」

 

 映像が時々切り替わるけど、六人がブレードで茂みをつついているだけのシュールな構図が続く。


「ここからでしょ。新デストロイヤーも初公開なんだから」


 樹くんは何故か少し自慢げなように見える。

 私の必殺技を、六連星の推しポイントとして認識してくれているからなのだろうか。


「⋯⋯⋯⋯俺⋯⋯⋯⋯なにもしてない」


 海星くんは悲しそうに、ぼそっとつぶやいた。


「海星くんは近接アタッカーなんだから、今回は作戦上、仕方ないよ! 普段は大活躍だもん。ね?」


 落ち込む海星くんの背中を叩いて励ます。


「そう言えば、海星くんは中・遠距離武器は使わないの? ダガーとブレードだけ?」


 基本的には、みんな、剣と銃の両方を使い分けて、攻撃範囲を広く持とうとすることが多いように思うけど⋯⋯


「⋯⋯⋯⋯しっくりくる」


「そっか。近接武器が得意だもんね」


 そんな会話をしている内に、デストロイヤーからのハウンド大集合、そして、集中砲火のシーンと、順番に流れて行った。


「配信サービスの方も再生数が伸びてるし、コメントもたくさん来てるで〜」


 光輝くんはスマホのアプリを立ち上げ、六連星チャンネルの管理者画面を開いた。


「え! 公開直後なのに、もう50万回再生!? コメントの方は⋯⋯『14代目の六連星もかっこいい』『顔整いすぎ』『グッズ予約した』ほうほう。反応は上々ですな」


 コメントは六連星全体への感想の他、個人に向けたものも散見される。


「『ピンクぐうかわ』『こはちゃん、めちゃすこ』『デストロイヤーに希望の光を見た』」

 

 オタク用語全開の人もいるけど、褒めちぎられている様子。

 しかし、中には否定的なものも。


「『ピンク前出すぎ。目立ち過ぎ』『珊瑚ちゃんは、もっとお上品だった』『火力バカ高くてもはや女子じゃない』⋯⋯んなぁ〜! 痛いところ突かれた! そっちこそ火力高すぎ〜!」


 一気にメンタルを削られ、背もたれに倒れ込む。


「そんなのいちいち気にしてたら身が保たないよ? 適当に流さないと」


 樹くんはコーヒーを飲みながら冷静に言う。


「そうだけどさ! やっぱり気になるじゃん。樹くんにはアンチコメント全然来てないし⋯⋯『樹くんイケメン過ぎて、()飛び越えて、ジャイアントセコイヤ』とか言われてるじゃん! 良いなぁ〜私も言われたい!」


 自分でも自覚はある。

 珊瑚お姉さまみたいに女性っぽい魅力はないし、デストロイヤーは目立つし、かわいい攻撃じゃないし⋯⋯


「歴代のピンクはサポーターだもんなぁ⋯⋯」


「確かにそうかも分からんけど、ディア能力が高いのは小春ちゃんの個性やし、デストロイヤーは小春ちゃんにしか出来へん役割やで? 今までの事は気にせんでいい。俺たちの六連星は、小春ちゃんの火力を主軸で行くって決まったんやから」


 光輝くんはそう言って慰めてくれる。


 そうだ。迷った時は、基本に立ち返ろう。

 そもそも私がピンクに選ばれたのは、この火力の高さだ。

 それを気づかせてくれた光輝くん。


「光輝くん⋯⋯神! ありがとうございます!」


「おぅ! 元気だしや!」


 硬い握手を交わし、笑い合った。



 その日の午後のこと。

 米谷さんに呼び出されていた私は、再びディア能力開発室を訪れた。


 頭皮にベタベタするクリームを塗られ、その上から電極を着けられる。

 言われた通り、狭くて硬いベッドに横になる。


「そうか、小春ちゃん。いよいよ思春期に入ったんだね」

 

 米谷さんは、しみじみといった様子で何度もうなづく。


「いやいや、私はもっと前から思春期ですけど。十六歳ですから。そんな事が分かるんですか?」


 思春期とは、子どもから大人への移行期のことで、概ね8歳〜18歳位の事を言うのだと理解していた。

 それが今になって突入したのでは、遅すぎるのでは⋯⋯


 米谷さんは私の質問に答える気はないみたい。


 しばらく大人しくしてみるも、やはり退屈なので話題を振る。


「そう言えば、朝倉統括が、米谷さんから私の情報をもらうとか何とかって仰っていましたが⋯⋯」


 怖いもの見たさというやつなんだろうか。

 お眼鏡に叶えば、将来的には海外支部に引き抜かれたりして。


「あぁ〜小春ちゃんのデータを見せたら興味深そうにしていたよ。しかも、ディアラボをもっと強化するようにって、飯島本部長を通して指示が降りて来たんだ」

  

 米谷さんはそんな事はどうでも良さそうで、私の脳波の波形を見るのに必死だ。

 そうか。研究部は組織図上、レンジャー本部の管理下だから、飯島本部長から指示が降りてくると。


「ちなみに過去にディアラボを壊した方ってどなたなんですか?」


 十年以上前のことだけど、まだ防衛隊員をしていたりして。


「オタクな小春ちゃんなら、きっと知ってる子だよ。花崎桃葉ちゃん。9代目? 10代目? ⋯⋯だったかな? のピンク」


 米谷さんの口から出た名前に心臓が止まりそうになる。

 花崎桃葉さんが、ディアラボを壊した、たった二人の内のもう一人!?


「米谷さん! その時の桃葉さんのデータって残っていませんか? 見たいです!」


 興奮のあまり台から起き上がると、電極がブチブチと外れてしまった。


「こら〜! まだ途中なんだから、動いたらだめだって!」


「ちゃんとじっとしておきますから、後で絶対に見せてください!」



 その後、たんまりと脳波を取られた後、米谷さんは約束通り、桃葉さんの測定データを見せてくれた。


「桃葉ちゃんのグラフも実に刺激的だったよ〜小春ちゃんのは元気いっぱいって感じだけど、彼女のは凛としてるって言うか〜」


 なんだか嬉しそうな米谷さんは、くねくねしながら熱く語っている。


「ディアラボ破壊時のデータが92。その後はずっと高ばいで経過してますね」


 陽太さんたち六連星のみんなの平均が60そこそこだったから、やはり、桃葉さんの能力も相当高い。


「最後に測定したのは引退直前ですよね? ご体調が悪いのに、ディア能力は下がったりしないんですか?」

 

 その問いに、米谷さんの動きが停止した。


「そりゃ下がるでしょ。特に、将来に絶望するほどの病気ならね」


 米谷さんは珍しく険しい表情をしている。


 桃葉さんは引退直前まで、ご自分の体調の悪さに気がついてなかったってこと?

 でも、それは変だ。

 聞いた話では、長く患っていたということだったし⋯⋯


「小春ちゃんはさぁ、正義の味方はいつでも正しいんだって思う? 正義を貫く裏で、何かを失うことはないのかなぁ」


 急になんなんだろう。

 なぞなぞなのか、哲学なのか。

 けど、米谷さんの表情から、冗談などでは無いことが伝わってくる。


「小春ちゃんも気をつけてね。素直だし純粋だし、妄信的に防衛隊大好きだし。汚い大人たちに騙されて犠牲にされないように」


 米谷さんは私の肩にポンと手を置いた。


「え? それってどういう⋯⋯米谷さんは、桃葉さんが亡くなった経緯をご存じなんですか?」


 気をつけろって、何のことを言われているの?

 全然分からない。

 内心、心臓がばくばくしてるし、怖くて声と手が震えている。

 米谷さんから放たれるいつもと違う空気に不安が膨らんでいく。


 口を開く直前――――米谷さんは、にこっと笑った。


「僕は一介の研究部員ですから。レンジャー部の事は、よくわかりません〜」


 いつもの飄々とした空気に一気に戻る。


「そうですか⋯⋯」


 何かの勘違いだったのかな。

 それ以上のことは、なんだか恐ろしくて話題にすることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ