4.ご対面! 第14代目六連星〈プレアデス〉
防衛隊、給食部所属の桜坂小春は、本日をもってレンジャー部隊に異動することになった。
給食部の部長も皆さんも、開いた口がふさがらない様子だったけど、米谷さんに引きずられていく私を見て、敬礼してくれた。
レンジャー部隊の本拠地、訓練棟に移動すると、米谷さんは、とある部屋の前で立ち止まった。
ドアの横には、『第14代六連星作戦会議室』の文字。
「小春ちゃんのカードキーで開くように設定してあるからね! 部屋に入ったら、みんなに挨拶! よろしくね!」
米谷さんに背中を押されて、システムにカードキーをかざす。
すると、自動ドアが開いた。
すごい。
給食部の職員の権限では恐らく入れない場所。
本当にこの部屋に、これから私が出入りしていいって事なんだ。
中に入ると、想像以上に広い空間があった。
薄暗い室内の正面の壁は、一面がモニターになっていて、UFOや上守城などのリアルタイムと思われる監視映像が流れている。
中央のガラス製のテーブルは、下から水色のライトに照らされていて、この星の球体状のホログラムが浮かび上がっている。
奥にもまだまだ部屋があるみたい。
SF映画で見た宇宙船の作戦会議室そのものだ。
機関誌には載っていない、基地の最深部に侵入出来たことに胸が躍る。
キョロキョロしながら、歩き回っていると、男の人の声が聞こえてきた。
「どうして俺が、教育係なんてやらなきゃいけないんですか!?」
どうやら奥の部屋――休憩室に、六連星のメンバーが集まっているらしい。
ドアの方に近づいていくと、皆さんが話し合っているのが聞こえてくる。
「六連星って、そんな、ぽっと出の人間が配属されていい部隊じゃないですよね? 正規の手順を踏んでいないなんて、コネとしか思えないでしょ。俺は納得できませんから」
先ほどから一人の男性が、なにやらお怒りのご様子。
「飯島本部長直々の命令だ。僕だって詳しい経緯は聞かされていない。ただ、とんでもないディア能力値を叩き出した人材だと」
「本当にそんなすごい人材なら、陽太さんか冬夜さんが面倒を見てくださいよ。俺には荷が重いです」
「俺も陽太も、今は会議に、取材に忙しい。光輝はノリが軽過ぎて女性隊員の面倒は任せられないし、海星はこの通りまともに話せない。だから、樹、お前にしか任せられないんだ」
「え〜! それって、ひどない? 女の子のお世話なら、俺、得意やのに〜!」
漏れ聞こえてくる話を要約すると、正規の手順を踏まずに六連星に入隊してしまった私の面倒を、樹さんと言う人が押し付けられて困っていると。
私だって、突然の大抜擢に、夢でも見ているんじゃないかと思ったけど、現場の方々もこの状況に困惑しているらしい。
⋯⋯⋯⋯って、ちょっと待って。
今、樹さんって言った?
「俺だって、そんな基礎も出来てないド素人に、手取り足取り指導してるヒマなんてないです!」
あまりにも歓迎されていなさすぎて、気まずくて立ち去ろうとしたけど、米谷さんに首根っこを捕まれた。
「ちょっと。離してくださいよ」
声を殺しながら揉み合っている内に、自動ドアに近づいてしまい、扉が開いて、中にいる隊員たちの視線が一気に注がれる。
なんとも、ばつの悪いご対面となってしまった。
皆さんは上級隊員の証の、スカイブルーを基調としたジャージスタイルの戦闘服をお召しになっている。
ちなみに、中級隊員がフォググレー、初級隊員がホワイトと色分けされている。
かくいう私は、戦闘服は貸与されていないので、私服姿という場違い感。
やっぱり、樹さんって、緑川樹隊員だったんだ⋯⋯
緑川隊員は私の顔を見て一瞬固まったあと、肩を怒らせ、ずんずんと近づいてきた。
「君さぁ、いったいどんな手を使って、ここに潜り込んだわけ? 優秀なピンク候補は何人もいたはずなのに、どうして一度も訓練に参加していない君が選ばれたの? 組織内に血縁者がいるの? それとも政界? ねぇ、答えてよ」
緑川隊員は、物凄い勢いで詰め寄って来る。
そして、壁に追い詰められた私の頭の上に、ドンと肘をついた。
顔がとっても近い。
これはまさしく壁ドンの亜種の肘ドン⋯⋯
明るい茶色のナチュラルマッシュヘアには、ゆるくパーマがかかっていて、肌も手入れされているのか白く透き通っていて、オシャレさんな印象だ。
くっきりとした二重に、赤みのある唇⋯⋯
つまり、要約すると砂糖系イケメンである。
って、そんな事を考えている場合ではない。
頂いた丁寧なお手紙から想像していたお人柄とは、ずいぶんと印象が違うんだけど。
「はいは〜い! そこまで〜! 樹くん困るよ〜! 小春ちゃんは僕の大事な被験体⋯⋯ゲホゲホ。大事な仲間ですから! 優しくしてあげてよ。ね?」
米谷さんは私と緑川隊員の間に割って入ってくれた。
今、一瞬、被験体って聞こえた気がするんだけど⋯⋯
「米谷さんがこの子を推薦したんだもんね? ちゃんと分かるように説明してよ」
緑川隊員は、今度は米谷さんに詰め寄る。
「はい! ちゃんとみんなにも分かるように説明するから、まずは自己紹介!」
米谷さんが場を収めてくれ、自己紹介タイムとなった。
「僕は赤木 陽太、18歳、このチームのリーダーを努めさせてもらう。よろしく!」
真っ白に輝く歯と、髪をツンツンと尖らせたスパイキーショートが特徴的な爽やか男子。
機関誌の『次世代の注目隊員』の特集で見たことがある。
すごい。本物の赤木陽太だ。
このお方が14代目のレッドとは、はまり役すぎる⋯⋯
「黒瀬 冬夜。最年長の19歳だ。参謀として陽太を支えられたらと思う。どうぞよろしく」
大人っぽい低めの声に、キリッとしたつり目が印象的なクールな人だ。
身長は180センチ台後半くらいありそう。
黒い髪をセンター分けにしている。
「ほな、次は俺! 黄田 光輝、17歳で〜す! 城西地方から来ました〜! ポジションはサポーターで〜す! 女の子大好き!」
黄田隊員はグイグイと近づいてきて、私の手を包み込むようにして握った。
首くらいまでの長さのミディアムヘアの金髪をハーフアップにしていて、お色気ムンムンの上目遣いで、こちらを見てくる。
黄田隊員も機関誌で見たことがあるぞ。
ファッション雑誌に出たり、SNSでコーデを発信したりしている人気者なのだとか。
このお方が女性隊員の面倒は任せられないと言われていた人物⋯⋯
城西弁を喋るのも相まって、人当たりは良さそうにお見受けする。
「青山⋯⋯⋯⋯海星⋯⋯⋯⋯16⋯⋯⋯⋯ダガー⋯⋯⋯⋯」
少し長めで柔らかそうな前髪を、かきあげたみたいに左に流している。
二重の幅が広くて、まぶたとキリッとした眉毛との距離が近い。
あまり見慣れないタイプのイケメンだ。
髪も、瞳も、肌も色素が薄いから、もしかしたら異国の血が流れているのかも知れない。
16とは年齢のことで、短剣は得意な武器なのだろうか。
確かに指導役という雰囲気ではなさそう。
「緑川 樹、17歳。ポジションはサポーター。さっきは、いきなり突っかかってごめん。よろしく」
緑川隊員は気まずそうに目を逸らしながら、こちらに手を差し出した。
その手を握り返し、自己紹介する。
「桜坂小春、16歳です。元々は給食部にいたのですが、米谷さんの検査を受けて、飯田本部長にディア能力?というのを認めて頂き、こちらの配属になりました。皆様が懸念されていた通り、レンジャー部隊での活動経験がなく、すぐにはお役に立てないかもしれませんが、体力と気力には自信があります! 頑張りますので、どうか、よろしくお願いいたします!」
思い切り頭を下げると、皆さんは拍手してくれた。
少し照れくさい気持ちで頭をあげると、緑川隊員は一瞬、驚いたように目を見開いた。
「はい! それでは、任期は原則三年間。このメンバーでやっていくよ。みんな仲良くね〜! この組織ではファーストネームで呼び合う慣習があるから、小春ちゃんも慣れてね〜」
米谷さんは私の背中をバシッと叩いた。
レッドの陽太さんに、ブラックの冬夜さん。
イエローの光輝さんに、ブルーの海星くんに、グリーンの樹さん。
よしよし。覚えられたぞ。
「それじゃあ、小春ちゃんの任命理由について説明するよ〜! モニターの前に移動してね〜!」
米谷さんはウキウキしたようにスキップしながら、隣の作戦会議室に移動した。