表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
32/112

32.初恋のピンク

 初恋のお姉さんについて教えてほしいとお願いすると、樹くんは誰にも言いふらさないことを条件に、話してくれるとのことだった。


 四人用の小会議室に入り、向かい合って座る。


「俺がお姉ちゃんと初めて会ったのは、小学校一年生の時。その日はいつも通り学童に行ったんだけど、母親が体調を崩したって聞いて、途中で下校することになったんだよね。それで、母親の代わりの人が迎えに来るからって言われてたんだけど、いつまでも来てくれなくって⋯⋯家までそう遠くないし、一人で帰ることにした。思えばそれが間違いだった」


 樹くんは遠い目をしながら語った。


「夕方、一人で道を歩いていると、急に空が暗くなったような気がして、振り返ると中型の(イーグル)型エイリアンが塀の上にとまってた。俺は必死に走って逃げたけど、イーグルはバサバサ羽ばたきながら、爪やくちばしで攻撃してきた。これがその時に出来た傷」


 樹くんは戦闘服の襟元をめくって、肩の近くに出来た古い切り傷を見せてくれた。

 瘢痕になっているから、結構深かったのが見て取れる。


「そうだったんだ。それは怖い目に遭ったね」


 樹くんは頷いたあと、傷をしまって、話を続けてくれた。


「そんな時だった。お姉ちゃんが現れたのは。今でもはっきり覚えてる。後ろからもの凄い速さで矢が飛んできて、イーグルを一撃で仕留めてくれた」


 樹くんはその時の状況を追体験しているのか、拳をぎゅっと握り込んだ。

 そうか。そのお姉さんもボウ使いだったんだ。


「もしかして、10代目六連星のピンクだった花崎 桃葉(はなさき ももは)さん?」


 私と同じ16歳で六連星に抜擢されて、任期が終わる年、持病が悪化したとして、突然引退しちゃったんだよね。


「さすがだね、小春ちゃん。そう。桃ちゃんは俺の命の恩人。でももう、どこにもいない。桃ちゃんに会いたくて防衛隊に来たのに、一切痕跡がなくって」


 樹くんは切なげに表情をゆがめた。

 どういう意味だろう。

 すでに引退したとは言え、六連星を務めた人の存在は、人々の記憶には刻まれているし、当然、防衛隊組織にもその歩みは記録されているはずだけど⋯⋯

 

「桃ちゃんに助けられた日、一人で家に帰るのが怖くて泣いてたら、一緒に家まで帰ってくれた。迎えに来るはずだった人は、車で来ようとして、大回りになっちゃって、イーグルが起こした事故による渋滞に巻き込まれてたみたい。それから桃ちゃんは、家が近所だからって、休みの日にも何度か会いに来てくれた。俺が『心的外傷後ストレス障害』になってないかって、気にしてくれてて。桃ちゃんは医者になりたくて、お金を貯めるために防衛隊に入ったって言ってた」


 桃葉さんは、一人で子どもを救っただけでも凄いのに、その後の心のケアまで気を配れる優しい人だったんだ。


「ある日、桃ちゃんが手紙をくれたんだ。家のポストに入っていたその手紙には、いくつか不審なことが書いてあった。それがこれ」


 そんな手紙は誰にも見せたくない宝物だろうに。

 樹くんは手紙を写した写真を見せてくれた。

 そこに書かれていた内容はこうだ。


『樹くんへ。急なことで申し訳ないけれど、仕事で遠くに行かないといけなくなっちゃった。もう当分は会いに来れなくなっちゃったけど、どうか元気でいてね。私は、みんなを守るためにがんばってくるから。この星に平和が訪れたら、また戻ってくるね。樹くんもファイト! 桃葉』


 仕事で遠くに行かないといけないっていうのは、防衛隊の海外支部への転勤ということだろうか。


 万が一UFOが移動したり、エイリアンが飛来した時に備える目的と、研究開発の協力を受ける目的で、世界の大都市にはいくつも防衛隊の拠点がある。

 そこに異動したと考えるのが自然だけど⋯⋯


「この手紙をもらってすぐ、桃ちゃんが任期の途中で六連星を引退したって報道がされた。理由は持病の悪化って言ってたけど、桃ちゃんに持病があるなんて、俺は聞いたことがなかった。それに、医者になるって夢を途中で放り出すようには見えなかった。だから、もしかしたらひっそりと防衛隊を引退して、医者になったのかもと思って、ネットの資格確認検索をしてみたけど、ヒットしなかった」


 樹くんに心配をかけたくなくて、持病を隠していた可能性はある。

 でも、海外に異動したのなら人員管理表には載っているはずだし、痕跡がないのは不自然だ。


 樹くんが入隊するまでの約四年間で除隊になっていたとしても、医者にはなっている可能性は高いはずなんだよね。


 それが今でも医師資格は取得していない。

 海外で取得したから?

 それならなぜ、持病の悪化なんて報道が⋯⋯

 桃葉さんは今ごろ28歳前後か。


「桃ちゃんの実家にもすぐに行ってみたけど、すでにもぬけの殻だったから、情報は得られない。あと、桃ちゃんは自分の戦闘力に結構自信があるみたいだった。小春ちゃんほどじゃないと思うけど、そこそこディア能力は高かったんだと思う。そんな桃ちゃんが何もかも中途半端なまま、突然居なくなるなんて、俺には信じられなくて」

 

 樹くんはさっきから、机の上で手を組んで、ぎゅっと握り込んで話している。


 優秀で人柄もよくて、叶えたい夢も持っていた桃葉さんが、こんな不自然な状況で音信不通になったら、不安になるのは当然だよね。


 樹くんは桃葉さんの後を追って入隊してきたものの、ただの一隊員では核心に迫れなかったんだろう。

 だから樹くんは六連星を経由することで、組織のもっと深部に関われるポストを目指してるんだ。


「樹くん、話してくれてありがとう。今まで一人でよく頑張ったね。私も桃葉さんを探すのを手伝うよ」


 震える手をぎゅっと握ると、樹くんはいつもと違って少し弱々しい目で私を見つめた。


「いいの? フタを開けてみたら海外赴任中に運命の人と出会って家庭に入ってるだけかも。俺のことなんて忘れて、幸せに暮らしてるだけかも」


「そうかもしれないけど、それが確認できるまでは、樹くんの気持ちが晴れないでしょ? 手伝うよ! 私も10代目ピンク大好きだし! インフィニティシュート、超カッコよかったもん! 桃葉さんのグッズも何個かあるよ? 分けてあげようか?」


 彼女は確かにここで活躍していたんだもん。

 誰かが何かを知っているはず。

 公には言えない事情があったとしても、彼女に可愛がられていた樹くんなら、きっと真実にたどり着けるに決まってる。


「小春ちゃん、ありがとう。君に話して良かった」


 樹くんは安心したように微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ