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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
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31.悩めるアトモちゃん


 一度、インタビューが綺麗に締められたあと、時間内では語りきれなかったメンバーの話や、もっと深く掘り下げたい話題があったメンバーへの質問タイムとなった。


 私自身は追加で訊かれることはなかったものの、無口な海星くんの通訳をしてあげてと陽太さんに頼まれた。

 海星くんが言いたいことを伝えられるように、隣に座ってお手伝いする。


「ブルーは、プライベートは何をして過ごすことが多いですか?」


 インタビュアーさんの質問に、海星くんはしばらくフリーズしたあと、ぽつりぽつり語り始めた。


「⋯⋯⋯⋯お散歩⋯⋯⋯⋯お昼寝⋯⋯⋯⋯おやつ⋯⋯⋯⋯」


 我がチーム唯一の近接アタッカーである海星くんは、まるで猫みたいな休日をお過ごしとのこと。


 海星くんがまとう独特の空気感と謎の間に、インタビュアーさんは戸惑っている。

 海星くんが話し終わったのか、次の言葉を考えているだけなのか、判断に迷うところである。


「海星くんは、訓練中にはとてつもない集中力を発揮していますので、プライベートはゆっくり過ごしたいんですかね。そのギャップがまたよろしいですよね〜」


 通訳というよりも評論家気取り?

 私の役割はこれでいいのか?

 戸惑いながら海星くんをちらっと見ると、褒められたことが嬉しかったのか、一瞬だけにこっと微笑んでくれる。

 

 このお方は、顔立ちもそうだけど、お肌もお人形さんみたいに綺麗だな。

 これで何も手入れしていないとは、世界中の美容オタクが嫉妬するかもしれない。


「そうでしたか。では、ブルーの特技はなんですか?」


 お姉さんは海星くんに別の質問をした。

 海星くんは再びフリーズし、たっぷり考えたあと⋯⋯


「⋯⋯⋯⋯一文字斬り」

 

 一言つぶやいた。


「えーっと⋯⋯」


 インタビュアーのお姉さんは縋るような目でこちらを見てくる。


「海星くんの得意なスキルですね。短剣を使ってこう、エイリアンの頸部や胴体を真一文字に斬り裂くんです! 初めて見た時はあまりの速さに、何をしているか全く見えなかったんですけど、一緒に訓練をする内に、何とか動きを追えるようになったんです!」

  

 その解説で合っていたのか、海星くんは満足そうに頷いた。


「あ! あと、彼は絵がうまいんですよ! 防衛隊組織のデザイン課と言うところに見学に行った時にですね、それはそれは、リアルな生き物の絵を描いてくれて⋯⋯」


 私が事のあらましを説明している間、海星くんはメモ用紙にスラスラとペンを走らせ、カエルの絵を描いて、お姉さんに渡した。


「ひっ! カエル!?」


 お姉さんはカエルが苦手なのか、表情を強張らせながら仰け反る。


「あっ、あと、犬と猫も上手かったです!」


 急いでお姉さんの目の前からメモ用紙を引き上げる。


「⋯⋯⋯⋯ごめんなさい」


 驚かせてしまったことを丁寧に謝罪する海星くん。

 彼のことは謎のままにしておくのが一番だと判断されたのか、インタビューはそこで終わった。



 続いて、樹くんのインタビューが始まった。

 残りの五人は先に帰っていいとのことだったけど、なんとなしに気になって、お茶を飲みながら近くで聞き耳を立てているところだ。


「グリーンが六連星を志した理由は、なんだったのでしょうか?」


 インタビュアーさんは、私が昨日聞いた質問からさらに一歩踏み込んだ内容を尋ねた。


「僕は小学一年生の頃、下校途中に(イーグル)型のエイリアンに襲われたことがありました。そこに当時の六連星の隊員が現れて、助けてくれたんです。その方に憧れて僕も六連星を目指しました」


 樹くんは、防衛隊に入った理由を命の恩人の六連星に憧れたと語った。

 まぁ、わざわざこの場所で初恋の相手とまで言う必要はないよね。


 六連星の活動って、アイドルっぽい側面もあるから、あんまり恋愛がらみの話題も前面に出さないほうがいいみたいだし。


 なんだかよくわからないけど、ここにいるのは良くない気がしてきた。

 帰ろう。


 重い腰を上げ、出口に向かってトボトボと歩く。

 すると、背景の前に佇んだままのアトモちゃんと目があった。


 アトモちゃんは私の異変に気がついたのか、小股でちょこちょこ歩きながらこちらに近づいて来た。 

 

 肩をポンと叩かれ励まされる。

 私はここで、謎の生物アトモちゃんに話を聞いてもらうことにした。


 近くの椅子に腰かけ、机に肘をついて語りかける。


「ねぇ、アトモちゃん。アトモちゃんは恋したことある? 私はまだなんだけどさ⋯⋯仲が良かった友だち?が実は初恋経験者だと最近分かって⋯⋯なんだか急にその人が大人っぽく見えて、取り残された気分になったというか⋯⋯」


 私の言葉にアトモちゃんは腕を組み、考え込むように首をかしげた。


「そっか。アトモちゃんもよくわかんないか。私も恋をしたら、その人にまた近づけるのかな⋯⋯」

 

 アトモちゃんは、さっきと同じ姿勢で固まったままだった。

 相談内容が抽象的すぎたかな。

 反省していると、後ろから声をかけられた。


「小春ちゃんは、何をしんみりしてんの? アトモちゃんが反応に困ってんじゃん」


 振り返るとそこには樹くんがいた。

 インタビューが終わったんだ。 


 樹くんの言葉にアトモちゃんを振り返ると、彼は口元に手を当てて、あわあわしている。

 正確には、腕が短すぎて口元には全然手が届いてないけど。


「アトモちゃん。話聞いてくれてありがとう! じゃあまたね! 樹くん、一緒にかえろ?」


 アトモちゃんにお礼を言った後、取材班の方々にもご挨拶をして会議室をあとにした。


 

 会議室を出て、六連星の作戦会議室まで長い廊下を並んで歩く。

 この時間は人とすれ違うこともあまりないな。


「それで。何を悩んでんの?」


 樹くんは少し心配そうな顔でこちらを見た。

 

「樹くんの初恋のお姉さんってどんな人? 入隊してすぐに会えた? 今もアトモで働いてるの?」


 私の口から出たのは、そんな言葉だった。


「小春ちゃんの悩みってそれ? 何でそんな事心配してくれんの?」


 樹くんは意外すぎたのか、驚いたように目を見開く。

 

「どうしてだろう。ちょっとよくわかんないけど、なんとなく気になって⋯⋯」


 言葉には上手く出来ないけど、私は樹くんからその話を詳しく聞いてみたいと思った。


「そう。小春ちゃんって、嗅覚鋭そうだもんね。絶対に秘密にしてくれるなら話す」


 樹くんは真剣な表情で私の目を真っ直ぐに見た。


「うん。誰にも言わないよ」


 私のその言葉を信じてくれたのか、彼は手招きをする。


「分かった。じゃあ、こっちに来て」


 樹くんは近くの会議室のドアを開けた。

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