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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
20/112

20.私たちの夢

 来たる自宅訪問の日。

 スーツ姿の陽太さんと冬夜さん、そして飯島本部長がこれから、一緒に私の家を訪ねてくださる事になっている。


 お父さんがお母さんを説得して、話し合いの場を調整してくれた。


「改めまして、本日はご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします」


 同じくスーツ姿の私は、自宅の門の前で、御三方に頭を下げる。


「こちらこそ、君をレンジャー部隊に勧誘した時に話を通しておくべきだった。せめて父親の桜坂くんにだけでもそうするべきだったんだ。まだ未成年の君一人に重大な決断を迫って悪かったね」


 飯島本部長はそう言って謝罪してくださった。


 もしあの時の会議の場にお父さんが居たら、どんな反応をしたのかな。

 一度もレンジャーとして活動することもなく、家に連れ戻されてしまったかもしれない。

 その方がよっぽど納得出来なかったかもと、今だからこそ思う。



 約束の時間になったので、門の前のインターホンを押すと、すぐに中からお父さんが出てきた。


「みなさん、本日はご多忙な中、お越し頂きありがとうございます。狭苦しい所ですが、どうぞ」


 飯島本部長、陽太さん、冬夜さんに続いて中に入る。

 家出したあの日、ぐちゃぐちゃだった玄関は、きれいに片付いていた。

 お父さんがあの後片付けてくれたのかな。


 リビングに入ると既にお母さんはローテーブルの前で正座していた。

 お父さんの職場の幹部を含めたお客様が来たのにも関わらず、こちらをチラリとも見ずにじっと座っている。

 

 当然、まだ怒りは収まらないままか。

 お父さんに案内され、お母さんと向かい合うように正座して座る。

 

 空気が張り詰める中、飯島本部長が口を開いた。


「桜坂さん、この度は⋯⋯」


「隊員が殉職した時も、こうやって隊員の家族を訪問されるんでしょうか。本部長さんと隊長さんたちがスーツを着て」


 お母さんは飯島本部長の言葉を遮った。


「殉職された方もいらっしゃいますよね。その方の事を思うだけで胸が締め付けられます。ましてや、それが自分の子どもだとしたら⋯⋯今日、皆さんがいらして、一番恐ろしい未来が想像できた気がします。私には到底受け入れられません」


 お母さんは顔を引きつらせながら、ぴしゃりと言った。

 殉職という、誰もが最も恐れる結末⋯⋯

 その事がいきなり話題に上がった事で、場の空気が凍りつく。

 

「お母さんのおっしゃる通りです。防衛隊四十年の歴史の中で、殉職した職員は合計29名もいます。そのほとんどが発足から三年以内⋯⋯現在ほど情報もなく、武器の性能や安全策などが発達していなかった時代のことです。ここ十年は一名の犠牲者も出さず、今日までこの組織は継続出来ています」


 飯島本部長は、低く悲しげな声で語りながらもお母さんを真っ直ぐに見つめた。


「けど、うちの娘がこの先、危険な目に遭わないなんていう保証はどこにもありませんよね? 見たところ、こちらのお二人もかなりお若いようですが、どうして防衛隊は十代の若い子にこんな危険な仕事をさせるのでしょうか? 小学生の子たちもいるんですよね? 倫理的におかしいと思うんですけど」


「防衛隊の隊員に若者が多いのは、エイリアンを討伐する能力が、高齢者よりも若者の方が高いからです。エイリアン討伐の要はディア能力という、願いの力です。私たちが歳を重ねるごとに忘れてしまった感情を、彼らは常に胸に抱いているんです」 


 防衛隊への不信感をあらわにするお母さんに対し、飯島本部長は冷静に説明をしてくださる。


「私はディア能力が人より高いんだって。私が活躍できれば、この力でたくさんの人を救えるかもしれない。私がこの能力が高いのは、生まれつきのものもあるかも知れないけど、私がずっとヒーローを夢見てたからだと思う。お母さん、お願いします。出来るだけの事をやらせてください。私は自分の夢を叶えたい。誰かに明るい未来を見せたいの」


 床に手をついて頭を下げる。


「僕たちには小春さんの力が必要なんです。どうかお許しください」


「彼女なら、長年エイリアンに支配され続けたこの星の歴史を変えてくれるかもしれません。どうかお願いします」


 陽太さんと冬夜さんも一緒に頭を下げてくれる。


「幼いころから戦慣れしてるからか、常人の感覚とは違うようですね。この子たちの親の神経だって理解できません。息子が銃や刃物で宇宙人と戦っているなんて、生きた心地がしないでしょう。よっぽどお金に困っているのなら別ですけど」


 お母さんは、今度は陽太さんと冬夜さんに矛先を向けた。

 腕を組みながら、信じられないものをみるような目で睨みつける。


「お母さん! 陽太さんと冬夜さんのご家族の事を悪く言うのは止めて! お母さんは勘違いしてるよ。この星がエイリアンたちに目をつけられた以上、誰かが戦わないとみんなを守れないんだよ? お母さんが無事でいられるのは、陽太さんと冬夜さんが働いてくれているからなんだよ? お母さんはさっき、お金の事を言ったけど、だったらどうしてお母さんは殿宮に引っ越して来たの? 秋人の移植費用の事があるからでしょ? そんなに私の事が心配なら、どうしてここに連れて来たの? こんないつエイリアンが襲ってくるかもしれない街に、いつまで住まわせ続けるの? なんだか矛盾してると思う」


 余りにも失礼で無差別的な口撃に腹が立ち、今までずっと堪えていた思いが溢れ出す。


「ここに住むのと武器を持って戦うのとでは、リスクの大きさが違いすぎるでしょ? あんた、秋人の事を責めるつもり? 頑丈なあんたには、必死に病気と戦ってるあの子の気持ちなんて、わかんないでしょうね? どうしてこんな健康な身体を大切に出来ないの?」


 立ち上がったお母さんは、テーブルの反対側から回り込んできて、私の髪の毛を乱暴に掴んだ。


「痛いよ! 離して! エイリアンよりお母さんの方が、よっぽど私を殺そうとしてるじゃん!」


「なんですって!? あんたが口で言ってもわかんないから、こうするしかないんでしょうが!!」


 掴みかかってくるお母さんを陽太さんと冬夜さんが止めてくれるけど、お母さんの腹の虫は収まらない。

 


 泥沼化した空気に話し合いの続行は不可能かと思われる中、先ほどから黙っていたお父さんが、テーブルの上に静かにスマホを置いた。


 何かと思ったら、ビデオ通話モードになっているみたい。

 相手は⋯⋯⋯⋯

 

「お母さん。今までの話は聞かせてもらったよ。とりあえず落ち着いて。僕の話を聞いて」


 画面の中の秋人は、優しい静かな声でお母さんに語りかけた。


「秋人、どうして⋯⋯」


 お母さんはスマホを持ち上げ、慌てて顔を近づける。


「お母さんは、お姉ちゃんの未来が絶たれてしまうのが怖いんだよね。お母さんがお姉ちゃんを心配する気持ち、痛いくらい分かるよ。僕がこんなんだから、余計に辛いんだよね⋯⋯⋯⋯」


 心にそっと寄り添うような秋人の言葉に、お母さんは落ち着きを取り戻したのか、静かに耳を傾けている。


「でも、お姉ちゃんには、お姉ちゃんの人生がある。夢を叶える権利がある。それに、前に陽太くんが言ってくれたんだ。双子っていうのは、ディア能力が高い事が多いから、お姉ちゃんの能力が高いなら、きっと僕の能力も高いはずだって。それでいつか心臓移植が成功したら、一緒に世界を救おうって言って励ましてくれたんだ。だから、僕はお姉ちゃんに夢を叶えて欲しいんだ。僕にもいつか、こんなことが出来るかもって、夢を見せて欲しいんだ。お姉ちゃんならきっと大丈夫。僕には分かるよ。だって双子なんだから」


 目を輝かせながら笑う秋人の表情は、ヒーローに憧れる少年の姿そのものだった。


 秋人はいつからか、私と同じ夢を見ていた。

 いつまで生きられるのか、本当に手術の機会は巡って来るのか不安な日々の中で、私に希望を見いだしてくれた。


 初めて語られた秋人の本心にお母さんは泣き崩れてしまった。

 いつまでも泣き続けるお母さんの背中を、お父さんは優しく擦る。


 お母さんがどうして泣いたのか、私には正確な理由はわからない。 

 けれども、話し合いの最後にはサイン入りの入隊同意書を無言で渡してくれた。



 六連星として活動出来ることが決まったため、一度、自分の部屋に入って荷物をまとめ、飯島本部長たちと共に家を出る。


「お父さんもありがとう。これからは寮生活になるから、しばらくは帰らない予定です。お世話になりました」


 玄関まで見送ってくれたお父さんに、ぺこりと頭を下げる。


「あぁ。頑張って来なさい。と言ってもその内顔を合わすかな。お母さんの方は時間がかかるかも知れないけど、きっと心から応援してくれる日が来るはずだから。気をつけて行ってらっしゃい」


 笑顔のお父さんに手を振り返し、基地へと向かう。


 最寄り駅の護城駅前に着くと、そこには私服姿の光輝くん、樹くん、海星くんが立っていた。


「あ〜! 小春ちゃ〜ん! その表情! その荷物! 話し合いは成功やね!?」


 光輝くんは満面の笑みで駆け寄ってきて、両手を掴んでブンブンと振った。


「え? もしかして、心配して来てくれたんですか?」


「まぁね。始動前の大事な局面だし。何となく三人とも落ち着かなくって」


「⋯⋯⋯⋯来ちゃった」


 そっぽを向きながら答える樹くんに、真顔で茶目っ気のあるセリフを言う海星くん。


「これで僕たち六人で、第14代目六連星(プレアデス)だ! みんな、力を合わせて頑張ろう!」


 なんとなしに円陣を組んで、円の中心で手を重ねる。

 陽太さんのかけ声に、全員でオー!っとお腹の底から声を出す。


 飯島本部長は、そんな私たちの姿を、眩しい物をみるような目で見つめながら、何度も頷いていた。

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