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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
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18.母の思い

 大田原隊の隊員の離脱を支援しようとした結果、中型マンティスに囲まれそうになっていた私を助けてくれたのは樹くんだった。


 肩で息をしているから、大急ぎで大型の討伐から離脱して、フォローに来てくれたみたい。

 

「ありがとう。樹くん。ごめんなさい」 


「別に。小春ちゃんが前に出て時間を稼いでくれたから俺が間に合ったわけで、そうじゃなければ明里ちゃんが苦戦を強いられてただろうし。それ自体は悪くないと思うけど。反省会は後だね。ひとまずベールの効果が消える前に下がって」


 樹くんと冬夜さん、そして大田原隊の三人と共に、飛来してきた中型の大群を撃破する事に成功した。


 それと同時に、大型マンティスの処理も終わり、私の初出動は幕を降ろした。



「小春ちゃん、本当にありがとう。私、忠告してくれてた言葉も聞き逃しちゃった上に、命がけで助けてもらって⋯⋯」


 明里ちゃんは泣きながら何度もお礼言ってくれた。

 大丈夫だよとその背中をさすると、ますます涙が溢れてくる。

 あんな目にあったら怖いよね。

 トラウマになったりしないといいけど。


「俺がきちんと隊員たちの安全管理をしなければいけなかったのに、力が及ばず申し訳なかった。小春ちゃんのおかげで、全員無事に任務を終えることが出来た」


 大田原隊長や他の隊員たちも、次々とお礼と謝罪をしてくれる。


「いえいえ。それよりも飛び出して行ってごめんなさい。助けていただきありがとうございました」


 私は樹くんを始め、赤木班のみんなに頭を下げる。


「フォロー役の俺がもっと気をつけるべきだった。ありがとう小春、樹、みんなも」


 最後に冬夜さんがそう言ってくれたことで、反省会は締められた。


 

 帰りのサイレンカーの中の空気は、大仕事が終わった後の達成感に満ちあふれていた。


「いや〜小春ちゃんの初出動! 大成功とちゃう? 生デストロイヤーも見れたし、明里ちゃんの命も助けたし!」


 光輝くんは満面の笑みでこちらを振り返った。


「本当ですか!? そう言って頂けるなら、頑張ったかいがあったと言いますか⋯⋯」


 反省点はあるものの、ヒーローとして自分の役割を果たせた点は、褒めてあげてもいいのかも。


「光輝くん、あんまり小春ちゃんを甘やかさないでよね。インカムで情報共有をしてくれたからフォローに行けたものの、危なっかしくて、こっちの寿命が縮まったんだから」


 樹くんは腕を組みながら、怖い顔でこちらを睨んでくる。


「⋯⋯⋯⋯つまり⋯⋯⋯⋯正解」


 海星くんはぼそっと呟く。


「そうだ! 小春くんの行動には落ち度はなかった。僕たちはチームで動くんだから、これからも助け合いの精神で困難を乗り越えて行こう! なぁ、樹、そうだろう?」


 バッグミラーに映る陽太さんの笑顔は、太陽のようにまぶしい。


「ですね」


 樹くんは一言返事をした後、窓の外の方を向いてしまった。



 基地に着いたあとは、本来持ち合わせているオタク心が騒ぎ、サイレンカーをあらゆる角度から眺め、六連星(プレアデス)の作戦会議室に戻った。


「みんな、今日はお疲れ様! ゆっくりと疲れを癒やしてくれ!」


 陽太さんだってあれだけ弾を連発して疲れただろうに。

 それでも彼は最後まで笑顔を絶やさなかった。



 家に帰ったら、ゆっくりお風呂に浸かって、早めに休もう。

 六連星が本格始動したら、入寮が必須になるんだよね。

 その方が身体も楽かも。


 そう遠くない帰り道をクタクタになりながら歩き、玄関を開けると、そこには鬼の形相をしたお母さんが立っていた。


「ただいま⋯⋯どうしたの⋯⋯?」


 門限までには、まだまだ時間があるはずだけど。


「小春、あんた! 死にたいの!?」


 お母さんは大声で怒鳴ったあと、スリッパを履いたまま玄関のたたきに降りてきて、私の頬を思い切りひっぱたいた。

 突然の事に頭が真っ白になった。

 左頬がジンジンと熱を持ったように痛む。


「お隣さんが教えてくれたの。昼間、上守市にエイリアンが出た時、あんた何してた? 給食を作ってたんじゃないの? どうして親に嘘をついて、ヒーローごっこなんてしてるの? 誰かの身代わりになって、あんたが死ぬところだったでしょ!?!?」


 お母さんが床に叩きつけたスマホの画面には、今日の戦闘の中継が流れていた。

 私のボウがマンティスを焼き払うところ、明里ちゃんをかばってブレードを抜いたところ、そこに樹くんが助けに入ってくれたところ⋯⋯


 ドローンの映像が一般配信されてたんだ。


「お母さん、嘘ついてごめんなさい。心配かけてごめんなさい。でも、私、ずっと言ってたでしょ? ヒーローになりたかったって。私、強いんだよ? お母さんも見たんでしょ? みんなが私を必要としてくれて⋯⋯だから、私はこの星のために⋯⋯」 


 必死に言い訳を続けるも、お母さんの目はどんどんつり上がり、ヒートアップしていく。


「何を寝ぼけた事を言ってるの! 誰にそそのかされたか知らないけど、そうやって若い子を騙して、尊い犠牲だとかなんとか言って命を粗末にさせて! とにかくもう防衛隊は辞めなさい。あなたは普通の高校生として生きていけばそれでいいの! 大人になって、結婚して、みんなと同じように平凡に生きていけばそれで良いの! どうして健康に生まれて来れたあんたが、そうやって死に急ごうとするの!」


 怒りをコントロール出来なくなったお母さんは、棚に飾られた物を払い除けるようにして、床にまき散らした。

 花瓶やスティックディフューザーの瓶が、フローリングの上に落下して割れて、強烈な香りが鼻を突く。


「お母さん⋯⋯ごめんなさい。もう止めて⋯⋯」


「返事は!? 返事をしなさいよ!?」


「どうしたんだ。そんな大声を出して」 


 いつかの時みたいに、お父さんが背後の玄関扉から帰って来た。

 お母さんの癇癪はいつもの事だからと、特に驚いた様子もなく、お母さんの方に歩み寄る。


「あなた、毎日職場で何をしてたの!? 娘がレンジャー部隊に入ってた事に気が付かなかったの!? それでも父親なの? 娘が死ぬところだったのよ!?」


 お母さんは、今度はお父さんに怒りの矛先を向けた。

 お父さんの胸を片手で押して突き放す。


「どういう事だ? 小春は給食部に配属になっただろう? どうしてレンジャーなんかに⋯⋯」


 お父さんは寝耳に水だったようで、動揺を隠せない様子だ。


「もう! あなたがしっかりしないから! とにかく、防衛隊は辞めさせます。小春、あんたの部屋のヒーローグッズも全部ゴミ捨て場に捨てといたから。もう男の子みたいな趣味は止めることね。そんなんだから、頭がおかしくなっちゃったのよ」


 お母さんは肩を怒らせながら、部屋の奥に入って行った。

 嘘をついていた私が悪いとは言え、ここまで一方的に怒りをあらわにされて、もう返す言葉も浮かんで来ない。


「小春⋯⋯何があったのか、お父さんに話してくれないか?」


 困り果ててしまったお父さんは、優しい声で話かけてきた。

 お父さんにだって謝りたい事は沢山あるけど、目の前のぐちゃぐちゃの光景みたいに、私の心の中もぐちゃぐちゃで、何も考えられない。


「私もう、こんな家には居られないよ。今までお世話になりました」 


 涙を堪えながら、お父さんに頭を下げる。

 自分の中に湧き上がる罪悪感と悲しみと怒りを整理出来ないまま、走って逃げ出した。 

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